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snow drop 4
その頃、理玖と一樹はコンビニで買い物を済ませてアパートに戻る道を歩いていた。
「飯食って、コインランドリーで帆乃くんの制服乾かしてる間にヨーカドー行くか」
「あ? 何で?」
「帆乃くんがいつでもウチに泊まれるようにパジャマとか歯ブラシとか…あと食器も揃えないとさ」
「待て待て待て! え? いつでも泊まれるようにって…そんなん俺らにもしたことねーじゃん今まで! 客用の布団もねぇじゃんお前んち!」
「布団は別にいらねーし。一緒に寝るから」
「さらっとスケベな発言するな! 理玖…どうしたん……マジでさ、そこまで帆乃くんにベタ惚れしたの? お前がそんな風になるの初めてだろ…」
「そうかもな」
一樹は今日の理玖の変貌に驚きっぱなしだがどこか安心もしていた。
「ったく…どういう心境の変化なのか……どういう風の吹き回しなのか…」
「昨日鈴野が言ってたこと、少し考えてたんだ」
理玖は立ち止まって少しだけ曇り空がかかっている空を見上げた。
「鈴野はいずれ経過する時間と未来を逃げ場所にしてた、俺は金持ちや妬み嫉みが存在しない場所を……だけど帆乃くん自身には? idって存在が逃げ場所なのかもしれないけど、idは帆乃くんであってはいけない場所なんだよな」
「確かに…idの正体は伏せられてるんだよな」
「だから帆乃くんが帆乃くんで居られる逃げ場所を俺にして欲しいと思ったんだよな」
昨日パソコンに攻撃的な言葉を打ち込みながら、理玖なりに帆乃にできることをぼんやりと考えていて出した結論だった。
「理玖……お前、恋愛に関しては無関心クズだったのに……ようやく恋をしたんだな、ちゃんと」
「……そうだよ」
理玖は少しだけ一樹に自嘲的な笑顔を見せた。そして急に走り出す。もうアパートが見えているからだ。
(やっぱ鈴野に買い出し行かせりゃよかったわ、帆乃くんに会いた過ぎて離れるの無理だったし)
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