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snow drop 5

 理玖たちが帰宅し、帆乃はまず新品のボクサーパンツを穿いてから一樹が持ってきた服に着替える。それから4人は遅めの朝食を摂った。  帆乃がサンドイッチをもぐもぐと食べていると、理玖はじーっと帆乃を見つめる。 「一樹のクソダサ私服着ても帆乃くん可愛いなー」 「お前は俺の服をそんな風に思ってたのかよ。それビームズで奮発したコーデなんだけど」 「カズキング、今のりっくんは帆乃たんに盲目過ぎて怒ってもカロリーの無駄だよ」  理玖の溺愛モードに友人2人は呆れかえっていた。  帆乃が着ている(一樹の)服は、白いTシャツにベージュの七分丈チノパン、その上に夏らしい淡い水色のサマーカーディガンを羽織っていた。172㎝の一樹と170㎝の帆乃、帆乃が華奢だから少し大きめというだけで十分共有できていた。  それさえも理玖は提案したくせに嫉妬していた。  全員が朝食を食べ終えた頃、洗濯機から終了を報せる音が鳴った。 「あ、靴もまだ湿ってたしついでに一緒に乾かそうよ」 「靴って乾かせんの?」 「あそこのコインランドリー、靴用の洗濯機と乾燥機あるよ。りっくん、何年ここ住んでるのよ」  日ごろから(料理以外の)最低限の家事しかしない理玖が知るはずもない。 「帆乃くん、もう外出ても大丈夫?」  理玖は心配しながら帆乃の腰をさする。  帆乃は少しだけ赤くなって笑って「はい」と返事をした。 「乾燥待ちの間にさ、買い物しようか」 「買い物ですか?」 「そ。帆乃くんがいつでも此処に泊まれるように色々揃えようと思ってさ」 「いつでも……ですか…」  帆乃は困ったような顔をする。一樹は「ほらな」と鼻で笑い、唯はドン引きを超えてゲロを吐きそうになっていた。 「…その…嬉しいし、夢みたいですけど…そんなに甘えちゃっていいんですか?」  一樹と唯は「えええ⁉」と声を揃えて驚いた。胸やけしそうな理玖の溺愛を帆乃は喜んでいたのだから。  まだ困っていた帆乃を理玖は抱きしめて顔を覗き込む。 「俺はそうして欲しいな……本当は毎日でも帆乃くんに会いたいし……帆乃くんは違うの?」  理玖が訊ねると帆乃は嬉しくて満面の笑みになる。 「俺も同じです。理玖さんとずっと一緒がいいです」 「はい決まりー」  帆乃の唇に軽くキスをすると、理玖はローテーブルの片付けを始めた。  唯と一樹はまた口をあんぐりさせる。 「ねぇ帆乃たん……ちょっと気付いたこと言ってもいい?」 「はい、何ですか?」 「喋るの…フツーにできてる?」 「………あ」  唯に指摘されて帆乃も初めて気が付いたようで、不思議そうな表情で指を唇に当てた。 「本当だ…何でだろ?」  帆乃は首を傾げる。  唯は帆乃をよくよく見て一つの考えが浮かんだ。 (帆乃たんって、誰かに心から愛されるって感じることが初めて…? そんなことってある? 私が親にだけ心を開いていたっていう状態と似てる気がするんだけど……帆乃たんにとって無償で愛し愛されるって自信をもてる存在がりっくん、そのりっくんが心を開いている私ら、まるで子どもが母親と親しい人に警戒心を解くような……だとしたら……) 「橘 史哉だけじゃ、ない」 (帆乃たんは……長い間…) 「唯ちゃん?」 「ううん、何でもない」  今は深く考えることをやめた。ただモヤモヤが増え、憎悪も僅かに強くなった。

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