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snow drop 12

 電器屋をあとにし、崇一はタクシーを拾って2人を連れて「マックスレーベル」の事務所に直行した。 「ただいまー」  崇一がドアを開けると、奥から人がすっ飛んで来た。 「帆乃くん!」  崇一を押しのけ、帆乃に抱き着いたのは華笑だった。 「もう痛くない? 平気なの?」 「はい……ご心配、おかけしました…」 「いいのよ…無事だっただけで…本当に……もう…」  華笑は安心して、帆乃の後ろにいた理玖に泣きそうな顔を見せた。 「南里くん、本当にありがとう…」 「……はい」  華笑が泣きそうになるところなど初めて見る理玖は、胸が締め付けられた。 「さ、帆乃くん。ちょっとこっちにおいで」  華笑は帆乃を応接室に連れていく。  ドアを開けるといつものダイニングテーブルの上に、フルーツが豪華に飾られたホールケーキが置かれていた。 「帆乃くん、18歳の誕生日おめでとう」 「わぁ……」  崇一は1と8の形をしたローソクを持ってきてそれをケーキに飾り、ライターで火を点けると応接室の照明を消し、華笑と一緒に帆乃の為に「ハッピーバースデー」を歌った。理玖は合わせて手をたたいた。 「帆乃くんおめでとー!」 「さ、ローソクの火を消して」 「え………」  帆乃は「消し方」を知らないので戸惑う。すると華笑が帆乃の肩を抱いて教える。 「フーッて息を吹きかけて消すのよ」 「は……はい……」  帆乃が言われた通りに火に向かって「フーッ」と息を吹くと、綺麗に火が消えた。  照明を点けて、崇一は持ってきたプレゼントを帆乃に見せた。 「これが俺とハナ、そしてこっちがロージーから」  青い包装紙で包まれた箱と有名ブランドのショップバッグが帆乃に渡された。 「開けて開けて!」 「は、はい」  崇一と華笑に言われて帆乃は慌てるようにまずはショップバッグに入っていた箱を開けた。  出てきたのは二つ折りの黒い財布だった。 「お財布……」 「よかったら使ってね。一応私が選んだからセンスは悪くないと思うわ」  シンプルな黒のレザーに1本だけ白のラインの刺繍が入っている洗練されたデザインでお洒落な財布だった。 「香島さんに選択権は…」 「あるわけないだろ、南里くん」  予想通りだった。  帆乃が今使っている二つ折りの財布は不自然にボロボロだった。それを崇一と華笑は気が付いていたのだった。 「ありがとうございます…」  帆乃は泣きそうになったが堪えて笑顔を見せた。そんな帆乃の様子に華笑は少し驚いた。  そして崇一が「もう一つの方も開けてよ」と促して、帆乃は青い包装紙を丁寧に剥がす。  箱から出てきたのは機材が入っていそうなハードケースだった。

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