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衝動と慟哭 5
(帆乃くん……)
理玖は今は帆乃の無事を祈ることしかできなかった。そしてあの時に自宅に帰してしまったことを死ぬほど後悔し、自分を責めた。
「やっぱ、俺ってガキだよな…」
とぼとぼと歩いていたら、後ろから「南里!」と理玖を呼ぶ声がした。走ってやってきたのは丸川だった。
「丸川、どうした?」
「なぁ、これ…同じ高校の奴から流れてきたんだけど……」
丸川が理玖にスマホの画面を見せてきた。メッセージアプリの投稿画面らしく、投稿された画像は制服を着た帆乃が理玖に支えられて渋谷を歩いている場面で、理玖の目は黒く塗りつぶされていた。
「これ……帆乃くんがカツアゲされたときの…」
「この子って土曜に倒れてた子だろ? これやばくねぇか…?」
画像と共に投稿された文面を開いて読んだ。
「拡散希望……北成堂男子校の3年5組、橘 帆乃は渋谷界隈で年上の男性相手に売春している……は? 何だこれ…」
「このあとラブホ街に直行、とか書いてるけど」
「するわけねーじゃん。近くのカラオケ屋に行っただけだよ、ここには写ってないけど鈴野と一樹も一緒だし」
「だーよなー……こんなの誰が流してんだよなぁ…」
理玖は投稿時間を見る。投稿は10分前にされたばかりだった。
「………橘 史哉だよ……あの人、帆乃くんの兄貴だった」
「マジかよ…てか弟にフツーこんなことするかね? 俺も弟いるしムカつくけどこんなことしたいとは思わねーよ。てか捏造なら警察に通報できるんじゃ…」
(警察…山江や医者もそう言ってたけど……)
「あ」
理玖はふと先ほどの史哉の言葉を思い出した。
___ 俺の家はみんなが噂をしている通り『いい家』だよ。父は国会議員、
そして帆乃が言った言葉を思い出す。
___ 誰も守ってくれない!
(……警察沙汰を揉み消されてる可能性が…あるってことか?)
「………くそっ!」
「み、南里? どした、急に…」
「なぁ丸川……俺って何にもできねーのな」
悔しさで泣きそうになるのを堪える理玖の呟きに丸川は困りながらも答えた。
「俺らってそんなもんだろ。だから自分にできることを探すしかねーんじゃね?」
至極簡単な答えだった。丸川は理玖の背中を叩く。
「俺も何かできることあったら協力すっから、そう思いつめんなって」
「……サンキュ」
(帆乃くん……本当にごめん…)
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