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衝動と慟哭 6

 茗荷谷に向かう電車の中、一樹は丸川から例の投稿をシェアしてもらっていた。 「マジかよ…コラ、じゃねーけど捏造もいいとこだな」 「さっき投稿されたみたいだけど…もうすぐ昼休みとかの時間帯だとしたら学校の誰かの目に留まっちゃうわよ」 「こんなん停学もんだよな」  2人は早く帆乃と合流したいと焦り始める。そのタイミングで車内アナウンスで次の停車駅が新宿駅だと知らされた。  新宿駅に降り、山手線に向かう途中で唯は帆乃に電話をかける。  すると呼び出し音が鳴った。 「つながった!」 「マジか!」  2コール目で帆乃が「もしもし」と電話に出た。 「帆乃たん! 今どこ⁉」 「唯ちゃん…? 今どこって…学校です、けど…」 「早く学校出て!」 「へ? な、何で…まだ授業が…」 「いいから荷物まとめて学校から出て! 早くしないと…」  唯が必死に訴えるのも虚しく、帆乃の後ろから声が聞こえた。 「橘、ちょっと来なさい」 「え……」 「スマホを仕舞って」 「は、はい………ごめんなさい唯ちゃん、ちょっと呼び出されたから…また後で…」  ツーツーツー…電話は虚しく切られた。 「やっば…い……先生の呼び出し…」 「うっそだろ……」  もう帆乃の元へ駆けつけるのは無意味なのではと半分諦めそうになる。 「いや…行こう……」 「カズキング?」 「さらってでも帆乃くんを理玖の元に連れてく。帆乃くんがこんな一方的にズタズタされてたまるか!」  一樹はシェアされた捏造の投稿に目をやるとコメントが付き始めていた。その中の1つのコメントが目についた。 『南里重工の御曹司で、成堂大学3年の南里理玖ってやつが未成年相手に買春してるって噂あるよ』 「は……はぁ⁉」 「どしたのカズキング」 「誰だこいつマジで……くそ…クソクソクソぉぉぉぉぉ!」  一樹の怒りは頂点に達し、叫びながら自分の太ももを拳で殴る。 「あー! もう絶対許さねぇ! 橘のヤローぜってぇ絞める! その前に帆乃くんと、理玖も絶対に助ける!」  一樹はメッセージアプリの友達欄をかなりスクロールしながら叫ぶ。 「目には目を歯には歯をSNSにはSNSだ!」 「カズキング…何してんの?」 「あ? 知り合いのハッカー的なことできる旧友に投稿元の洗い出しと投稿削除、それと高校と教育委員会に悪質なデマ投稿だということを流してもらうって依頼をする」 「それってめっちゃ金とられるんじゃ…」 「大丈夫! あとでまんだらけでバーチャルネットアイドルのキラリンたん★のフィギュアを買っていけば問題ない!」 「ハッカーの安売り!」  高速フリックで依頼文を打ち、メッセージを送信すれば直ぐに既読が付き、キラリンたん★のスタンプで「了解キラン★」と返ってきた。依頼は成功した。 「鈴野! 俺たちがやることは分かってるな!」 「帆乃たんの保護、そして帆乃たんとりっくんを会わせる! 帆乃たんを助ける!」 「行くぞぉ!」 「おー!」  一樹と唯は拳を天高く掲げ、改めて決意すると茗荷谷に向かって歩き出した。

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