唯に言われた区立公園に入る。かなりの広さで帆乃はキョロキョロしながら小走りで唯と一樹を探した。 「帆乃たん！」 　声のする方に目を向けると、唯と一樹は変な彫刻の像が座っている石のベンチであんパンを食べていた。 「あ……唯ちゃ…一樹く………ぅう……うわああああぁあ…！」 　唯と一樹の姿を見た瞬間、帆乃はその場で泣き崩れた。慌てた一樹が帆乃の元に駆け寄って自分たちがいたベンチまで誘導し座らせる。 「帆乃くん、よくやった！」 「うぅ…か、ず…きく……うわぁあああん！」 「頑張ったよ帆乃たん……泣きたいだけなけばいいさ」 　唯は一樹と反対方向から帆乃を抱きしめた。一樹は落ち着くようにと背中をとんとん優しく叩く。唯は頭をなでてあげる。理玖の代わりに２人は帆乃に目いっぱいの愛情を示す。 一頻り泣いて、帆乃はようやく落ち着き、一樹が買ってくれた缶のカフェオレを飲む。 「帆乃くん、飲みながらでいいから聞いてね」 「はい…」 　一樹は帆乃と向き合う姿勢をとった。 「今朝、俺らが１時限目終わったあとに…俺らの先輩の橘 史哉って人が理玖に話しかけてきたんだ」 「………はい」 「聞いたよ、橘さんが帆乃くんのお兄さんだって」 「…そうですか」 　帆乃は缶を持つ手に力が入る。怒りなのか恐怖なのか、複雑な感情が漏れていた。 「橘さんとは学部は違うけど大学内ですれ違ったら挨拶はするくらいの顔見知りで、理玖は特に気に入られてたんだ。今日もそういう感じかなって思ってたら、帆乃くんに近づくなって理玖に忠告してきてさ」 　帆乃はカフェオレを一口飲んで、下を向いた。 「それに対して理玖が…まぁキレちゃったっつーか……胸倉掴んで凄んじゃって、だ……そのすぐ後にあんなのがSNSで流れて…多分理玖に対しての腹いせに橘さんがやったんだと思う。俺らが止めらたらこんなことにはならなかった。本当にごめん！」 　一樹は深々と頭を下げて謝罪した。帆乃は顔をあげて一樹に対して首を横に振った。 「一樹くんのせいじゃないです！　本当は……俺のせいで理玖さんが巻き込まれた、から……俺が理玖さんに甘えちゃったから…！　だから」 「帆乃たん、それ本気で思ってんなら殴るよ」 　唯の冷たい声に帆乃も一樹も固まった。唯は立ち上がって帆乃と向き合うと、容赦なく帆乃に一発平手打ちをした。 「このお馬鹿さん！　りっくんすんごい後悔してたよ、帆乃たんを帰らせちゃったこと！　連絡着かないし未読スルーだし橘にあんなこと言われて……それでも帆乃たんのことが心配で心配で…だから私らがなけなしの電車賃出して迎えに来たんだよ！　りっくんはりっくんで帆乃たんのもう一つの大事な場所を守る為に、今も帆乃たんを待ちながら頑張ってるのよ！」 「もう一つの…大事な場所……」 「idとegoよ！　本当は投げ出してでも帆乃たんに会いたいって思ってるよりっくん馬鹿だからさ！　そんなりっくんに甘えた自分が悪い？　甘えて何が悪いのよ、帆乃たんはまだ18歳なんだから甘えて当然よ、りっくん21歳だよ、甘えていいじゃん！」 「いやそこ年齢関係あるか？」 「あるね！　年下が甘えに甘えて年上が溺愛しまくる王道BL最高じゃん！」 　なんだか話が逸れそうになっている。唯はひとつ咳をして軌道修正した。 「帆乃たん、つらかったら答えないでいいから、質問していい？」 　帆乃は静かに頷いた。唯は少し目を閉じて、そして帆乃の眼を見る。 「帆乃たん、家に居場所がないでしょ？　あと兄貴に虐待されてるよね？」 　全て見抜かれてしまった。 　帆乃は手に持っていた缶を落として、足元に飲みきれなかったカフェオレが広がった。