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衝動と慟哭 10

 帆乃の反応を見た唯はすぐに帆乃の手を握った。 「帆乃たん、私の目を見て」 「やだ……ごめ…な…さ……」 「どうして謝るの? 帆乃たん何か悪いことした?」 「だ…だって……そんなやつ……いらない、です……殴られる奴、なんて…」 「じゃあ私は要らない奴なの?」  帆乃はハッとして唯を見た。唯は自分と同じくらいの傷を背負っている。 「帆乃たんは何も悪いことしてない、だから堂々としてよう。帆乃たん、必ず帆乃たんの味方になってくれる人は誰? 挙げてみてよ」  唯は手を離さない。帆乃は目を閉じて、ゆっくりと答える。 「理玖さん…唯ちゃん…一樹くん……それに、社長、華笑さん……ロージーさんに、映像の小泉さん……あと……idの音楽を好きでいてくれる人…」 「ほら、いっぱいいる。独りじゃないでしょ?」  帆乃は頷いた。それを見て一樹は帆乃の頭を撫でる。 「じゃ次の質問、帆乃たんはりっくんのこと好き?」 「…好き、です」 「どんくらい好き?」 「大好きです……いっぱい、大好きです…」 「うん…なら、その気持ちを信じていいんだよ」 「唯ちゃん……どうしよう……俺、理玖さんにひどいことを……メッセージの返事してない……見てない……嫌われたらどうしよう…」  今度は理玖への罪悪感で押しつぶされそうになる。  そっちに関しては一樹は呆れたように笑う。 「うーん、それは100%あり得ないから大丈夫だし、むしろメッセージ読まない方がいいよ? すんごいキモかったから」 「りっくんも今朝同じこと言ってたよ。帆乃たんにフラれたかもしれないって」 「そんなこと絶対にしません! 俺こんなに理玖さんが大好きなのに」 「それりっくんに言ってやりなよ。りっくん幸せ過ぎて死ぬと思うから」  理玖が昇天する姿は容易に想像できた。  やっと帆乃にも笑顔が戻った瞬間、帆乃のお腹の虫が鳴った。 「あ……」 「そっか、もう昼過ぎだから腹も空くよな」 「私も安心したら腹減ったおー」 「駅の近くに日高屋あったよな。帆乃くん、ラーメンでいい?」 「は、はい…!」 「んじゃしゅっぱーつ!」  帆乃は唯と一樹と手を繋いでベンチから立ち上がって歩き出した。  午後2時過ぎ、やっとゼミの講義が終わった理玖はすぐにスマートフォンを確認した。新規メッセージが何件か入っていたが唯と一樹からは何もなく不安が大きくなる。  その代わり、珍しい人物からのメッセージが入っていた。 「カドマツ? 何で…」  高校時代のクラスメートのカドマツこと門田(かどた)という男からだった。一樹と同じくらいに仲良くしていて、当時から犯罪紛いのハッキング術などを会得し今は国立大で電子工学を学んでいる。あだ名は「カドマツ」か「IT大臣」だった。  実に2年ぶりのメッセージに理玖は戸惑いながら開いた。 『理玖、お前も災難だったな。全部手ぇ回して可愛い恋人に被害が及ばないようにしといたから安心しな』 「あ? どゆこと?」  すると後ろから丸川と山江がやってきた。 「南里くん、帆乃くんって子大丈夫だった?」 「え…ああ、それは鈴野と一樹が行ってくれてるけど、連絡ないからなんとも…」 「それよりこれ、見ろよ」  丸川がスマートフォンで見せてきたのはニュース記事だった。 「北成堂男子高校は生徒が不適切な行為をしていたとのSNSの投稿に関し、事実無根であったとして学校と教育委員会が被害届を提出したと発表した……マジか!」 「マジで1時間もしない内になにが起こったんだよ」  理玖はすぐに自分のスマートフォンを見た。 「マジかよカドマツ……」 「誰? カドマツって」 「俺の高校時代の友達で、ハッキングとかできる奴で……あんまり正攻法じゃなさそうだけど助けてくれたっぽい」 「南里くんの友達って色々すごいよね…とにかく帆乃くんに会いに行ってあげなよ」  山江は優しく理玖の背中を押した。理玖は振り返って「ありがとな」と笑って走り出す。  そんな理玖の背中を見ながら丸川と山江は少しだけ安心するが同時に怖さを覚えた。 「橘先輩…マジでヤバくない?」 「普通に引いた……優秀な弟への妬みじゃん。ネットリンチまで仕掛けるかフツー」 「これ本当に児相かどっかに通報した方がよくない? この前みたいに南里くんが保護したところで家族が捜索願いとか出したら南里くんが誘拐で捕まるし」 「だなぁ」  2人は窓の外に視線をやった。

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