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衝動と慟哭 11

 ラーメンをたらふく食べた3人は、茗荷谷駅のホームへ降りて行った。 「あ、理玖に帆乃くん無事だったの報告するの忘れた」 「いんじゃね? サプライズで連れてくってのも。とりま帆乃たんの服をどうにかしないとね」  唯は丸ノ内線の電光掲示板を見上げる。 「池袋のGUで揃えよっか。安いし可愛いし」 「可愛いはいらねーだろ」 「可愛いじゃん。あと本当は髪の毛もきちんと切りたいんだけど…それは社長さんに許可貰わないとだし」  唯はサイドにつけていたヘアピンを一つ取って、帆乃の前髪を上げ留めた。いつも隠れていた帆乃の顔は、予想以上に綺麗なラインにはっきりとした二重の瞳で絵にかいたような美少年だった。 「きぃぃぃ! これをりっくんが独占してたと思うと腹が立ってくるわぁ!」 「ゆ、唯ちゃん……俺やっぱ前髪ないと落ち着かないです…」  帆乃は額を両手で隠して下を向く。今度は一樹が帆乃あごを掴んで、ぐいっと前を向かせる。 「ふにゅっ⁉」 「ほら、ちゃんと前向いて。今は誰も帆乃くんを笑ったりしてないから」 「………は…」  ちょうど電車が来る時間になって暗いトンネルの向こうから徐々に光が近づくのが分かる。  この駅ではずっと下を向いてた帆乃はずっと知らなかった光景だった。 「地下鉄って…意外と眩しいんですね…」 「そうかぁ?」  一樹は慣れた風景に感動も何もなかった。  帆乃は電車に乗るとスマートフォンを手に取ってメッセージを送った。 『社長 お願いがあります。 前髪を切ってもいいですか? 明るい世界を見てみたいです』  午後4時を過ぎた頃、池袋に着いて予約なしで行けた美容院でヘアーカットをし、GUで服を買った帆乃は大変身を遂げて、近くの公園で唯と一樹による撮影会を開催していた。  少し色素の薄い髪色によく似合う軽いマッシュヘアで顔もはっきりと見え、テンションが上がった美容院のお姉さんに気合入れてセットされた美少年は唯にとって垂涎ものである。 「ハァハァ…帆乃たん! 今度は耳に指をちょんと当てて、首を傾げてみよっか!」 「こ、こうですか?」  ファッションは唯と一樹で選び、白の7分丈のオーバーサイズTシャツの上に濃紺のサマーニットベストを着て、薄めのグレーのタータンチェックのスラックス、靴は白のスニーカーを履いている。 「帆乃くん! これ! これ持って!」  一樹が渡したのはスターバックスのキャラメルフラペチーノ。それを持って帆乃はポーズを強要される。意味がわからないまま言われるがままに写真を撮られ続けるが、かなり絵になっていたようで、通りすがる人たちも帆乃を見て立ち止まったりしていた。 「何でこういう時にカメラ持ってきてないのよぉぉぉ! 私のバカああああ!」 「帆乃くんいいよ! 今度プロに撮ってもらおう! そうしよう!」 「私も惜しみなく金は出すぞ!」 「あ、あの……もういいですか? 恥ずかしくなってきました…」  2人が満足したところで撮影会は終了した。 「さーてと、んじゃりっくんのとこに行きますかーと」 「え…」 「そうだな、代々木公園だっけ?」 「え、え…ちょっと待って……」  帆乃は急に怖くなって、自分のスクールバッグを抱きしめた。 「だ、大丈夫ですか? 俺、変じゃないですか?」 「大丈夫! めちゃくちゃ大丈夫!」 「大丈夫じゃなくなるのは理玖の心臓だな」 「り、理玖さんの心臓?」 「救急車呼ぶ準備だけはしとこうね」 「さ、れっつらごー!」  立ち止まる帆乃の肩を組んで、唯と一樹は駅に向かって陽気に歩いていく。  

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