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衝動と慟哭 12

 陽も落ちかける頃にHANA studioに到着した。一樹が地下のフロアの扉を開こうとしたら後ろから人が来る音がした。 「今日は通常レッスンではないので見学やってませんよ」  帆乃は聞き覚えのある声に振り返る。一樹と唯はそれに続いて振り返るとスーツを着崩した崇一が降りてきていた。 「社長、こんばんわ」 「…………え」  崇一は見覚えのない美少年に挨拶されてフリーズした。 「帆乃たん、この人誰?」 「事務所の社長です」 「この人がidの仕掛け人かー…思ったより普通の人だな」 「ちょっと一樹くん…社長、あの…」  帆乃が崇一に見学を願い出ようとした瞬間、崇一は叫んだ。 「帆乃くんんんんんんんんんん⁉」  その叫び声に3人の方が驚いた。崇一は帆乃に駆け寄ると帆乃の肩を揺らしたり、輪郭を持ち上げたり、形どるようにポンポンと全身を叩く。 「え⁉ 帆乃くんなの⁉ 帆乃くんどしたの⁉ 髪切っただけじゃないの⁉」 「か、髪を切っただけです…」 「嘘だろおおおおおお! 整形した? メイクなの⁉ 帆乃くんこんな美人さんだった⁉」  idとして帆乃を見出した人物とは思えない失礼発言を連発し唯と一樹の中でidとegoを生み出した凄腕社長の像が一気に崩れた。 「いやいやいや…ちょっとやっばいな……これ明日緊急ミーティングだわ…」 「え……そ、そんなに似合ってません、か?」 「違う違う! その逆だって! 超絶美少年すぎて芸能界やアイドル業界でもトップレベルだからね!」 (確かに系統は違えど血のつながった(クソ野郎)も大学のミスターコン連覇して芸能事務所からスカウト来てたんだよな) (帆乃たんのご両親のご尊顔を見てみたいわ…あ、でもあの(クソ野郎)の両親でもあるから見たくねぇわ) 「あ、あの社長……り、南里さんは今ここにいますか?」 「ん、ああ、ごめんね」  我に返った崇一は帆乃からパッと手を離して、扉に手を掛けた。 「そちらは帆乃くんのお友達?」  崇一は一緒にいる唯と一樹に目を向ける。 「理玖と同じ大学に通ってる西村といいます」 「私は鈴野です。帆乃た……帆乃くんのことが大好きです」 「ありがとう。ここにいるってことはidとegoについても知ってるってことでいいかな?」  崇一の質問に唯と一樹は頷いて答えた。そして手に掛けていた扉を開いて3人を案内した。

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