オーロラ姫が可愛らしく踊ったあとは魔女がやってきてオーロラ姫が倒れてしまう。 　人々が嘆き悲しむ中、妖精が現れた。妖精の魔法で全員１００年の眠りについた。 「あ、この次りっくん出るよ。あれから100年後の世界、だって」 　一旦幕が下りて、チャプターが切り替わった。いよいよデジレ王子の登場だ。 　貴族たちがいろいろ遊んでる様子から始まる。そこで全員がお辞儀をし始めた中でデジレ王子が貴族のジャケットを着て登場した。 　17歳の理玖が堂々とセンターに立つと拍手が起こる。 「……っ」 　帆乃はあまりのカッコよさに顔が熱くなり、両手で口を押える。 「きたきたきたエセ王子」 「りっくんが王子様やってるわー…寒っ！」 　一樹と唯は親友の王子様っぷりに恥ずかしくなって酒が進む。 　デジレ王子は一番偉そうにしてた貴族の令嬢の手を取って手の甲にキスをして何かに誘ってセンターに連れていく。乾杯をしてゴブレットの酒をあおり、他の貴族は陽気に踊ったり遊んだりしている中、デジレ王子は空を見上げて切なそうな顔をしている。 　憂いを帯びたその雰囲気に帆乃はゾクゾクとする。 （理玖さんが…こんな切ない顔をするなんて……本当に淋しそうな…） 　暫くして最初に手の甲にキスをした令嬢と、心ここにあらず、な状態で一緒に踊る。 　大技ではない軽やかなターンもひと際美しい。 　そして興ざめした貴族たちはどこかへ行き、王子はジャケットを従者に預けるとソロパートが始まる。 （理玖さんすごい…俺まで胸が締め付けられるような……引き込まれてしまう） 「思い出すなぁ…2年ん時のクラス全員で２日目の公演に招待されて観に行ったもんなぁ」 「へー…知り合いでも出てなきゃ絶対寝そう」 　唯と一樹は缶チューハイを１本ずつ空け、瓶に入ってるカクテルを飲み始めた。 「帆乃くん、ご飯食べなよ？」 「は…はい…」 　帆乃は一樹が温めてくれたホットサンドをもぐもぐと食べる。 　その後映像は、妖精が王子を眠り続ける姫の元へ導き、呪いをかけた魔法使いを妖精が何だかんだ倒して、ベッドに横たわるオーロラ姫とデジレ王子がキスをする。 「あ、これな。理玖のファーストキス」 「ふへぇ…りっくん役者だねぇ」 　帆乃は姫と王子のキスシーンを見ながら、今日初めて会って花の香りの消臭スプレーをかけてきたナノハを思い出す。 （ちょっと怖いけど、すごくきれいな人……あの人が理玖さんの） 「理玖さんの初恋って、この人なんですね」 　帆乃は胸の奥がズキズキと痛みだして、涙が出そうになる。 　それを察した唯は帆乃を抱擁する。 「あーん、その物憂げな帆乃たんも美しい…けどこんなのつらいよねぇ？」 「唯ちゃん…」 　一樹は「あー…帆乃くん」ともつ煮込みをクチャクチャしながら補足する。 「この舞台終わった瞬間に好きじゃなくなった発言あったから、俺たちの仲間内の会議でこれは恋愛にカウントしないってことになってるから。てか多分俺の見立てだとあいつの初恋は帆乃くんだよ」 　もつ煮込みの汁をズズズと飲み干す一樹を見る帆乃の顔はキラキラした目だった。一樹は続けて酒を飲み干して「くぅー！」と親父臭い声を出して、帆乃を見てサムズアップする。