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二度目の夜は… 1
『眠れる森の美女』が全幕終了した頃、唯と一樹もすっかり酔っぱらって帆乃にベタベタと触って遊び始めていた。だから3人とも玄関が開いたことに気が付かない。
「………………何してんの?」
「理玖さん…!」
「あ、りっくんだぁーエセ王子だーおかえりー」
「エセ王子? ってお前ら何勝手に見てんだよ!」
テレビからはカーテンコールの拍手が鳴り響く。
「帆乃くん…これ全部見たの?」
「は…はい……」
「そう…」
理玖は気まずそうな声を出していた。
「なぁによ、別にエロビデオとかハメ撮り映像とかじゃあるまいしー…いいじゃない」
「そうだぞぉ、れっきとした、あー…芸術なんだからなぁ」
「何でちょっと半笑いなんだよ。もう10時過ぎたんだけど! 出てけっつの!」
「わかったわかったわかったから、そうカッカすんなって」
すっかり出来上がってる一樹は飲みかけの缶ビールと荷物を持って立ち上がる。唯も理玖の来客用のマグカップを持って立ち上がる。
「鈴野、それは置いてけ」
「りっくーん、ちょっとぉ」
唯は理玖に指で「ちょいちょい」と呼んで、耳元で話す。
「帆乃たん、お風呂まだだよー」
「……だから?」
「一緒に入っちゃえよ」
唯の提案に理玖は顔を赤くした。帆乃はこそこそする2人を不思議そうに見上げていた。
「んじゃ今日はぁ、帰るねーん。帆乃たん、また明日ー! あ」
「なんだよ」
「明日は学校だからぁ…ンフフフフ……夜更かししちゃだめだぞ♡」
唯の忠告の意味が分かると帆乃は顔を赤くした。そして理玖は「とっとと帰れ!」と追い出した。
嵐が過ぎ去った部屋に静寂が訪れると、理玖は大きな溜息を吐いて洗面所に入り、風呂場のドアを開けた。
「人んちのシャワー勝手に使いやがって…ったく」
ブツブツ文句を言いながらシャワーでバスタブを軽く洗い流してから給湯のスイッチを入れる。
(……いやいやいや、アレをアレしたけど付き合ってまだ2日目でもう2回戦目って絶倫っつーかヤリチンって誤解されそうなアレで……お、お風呂だけなら…)
洗面台の下の扉を開いてガサゴソと漁ると目的のものが出てきた。
(これなら…た、多分イケると…)
それは同じダンスレッスンをする入浴剤とコスメを開発・販売する会社に勤めているお姉様から試供品でもらって使ってなかった泡風呂専用入浴剤だった。
「ねぇ帆乃くん」
「はい」
理玖が手招きすると帆乃はとことこと洗面所にやってくる。
「これ、ちょっと前に知り合いに貰ったんだけど…泡風呂ってやったことある?」
帆乃は首を横に振る。
「これ入れて、一緒に風呂入る?」
「………………え」
「………………やだ?」
理玖がそう訊ねると、帆乃は理玖のランニングウェアの袖をキュッと掴んで、潤ませた目をして見上げた。
「あの……理玖さん…」
「うん」
「俺………その……」
「うん」
「………き、嫌いにならないで、下さい…」
「ならないよ」
「……は……俺、理玖さん…と……入りたくて……待ってました…」
「………………」
理玖の思考回路はショートした。
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