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番外② やっぱり嫉妬する 2
地下のスタジオに入ると、丁度休憩中だったようでドアが開くとダンサーたちは帆乃にすぐ気が付いた。
「はぁい、みなさん、練習中失礼するわぁん」
「二郎ちゃんじゃない、どうしたの?」
「華笑ちゅわぁん…その二郎ってのやめてくんない? 私は、idの曲を作ってるロージーなのよん」
ロージーは青筋を立てながら笑顔を作る。気を取り直すように咳をすると後ろにいた帆乃を前に突き出す。
「さ、idちゃん、ご挨拶なさい。貴方を支えるチームの皆さんよ」
突然出てきた美少年に女性ダンサーたちは色めき立ち、男性ダンサーは(1人除き)目が点になる。
「え…っと……い、idです……MVとライブでは、よろしくお願いします」
帆乃が深くお辞儀すると、ダンサーチームも並んで「お願いします」と挨拶をする。
「ちょっとちょっと理玖くん! あんたidと会ってたんでしょ⁉」
平然としている理玖に女性ダンサー陣が詰め寄る。
「は、はぁ…会ってましたけど…」
「こんな…こんな美少年だなんて聞いてないってばぁ!」
「もっとメイク気合入れなきゃじゃーん!」
「そういう情報はチームで共有しなきゃいけないんじゃないの⁉ idって顔もほぼ非公開の謎めいた存在なんだからさぁ!」
idの正体を見た女性陣は前情報が欲しかったらしくクレームの嵐だった。そんな中、今日はポニーテールにしている金髪の女性、ダンスリーダーのナノハは帆乃に近づくと、同じ目線の帆乃の顎をクイッと持った。
「あら、あなたはあの時の…」
「あ……」
ナノハは微笑むと、帆乃を抱き寄せて首筋に顔を近づける。
「ふふ……頑張ってるのね…あなたの汗の匂いは嫌いじゃないわ」
「あ、あの…」
「でも、そのオドオドした挙動は直した方がいいわね。舞台じゃその自信のなさがマイナスに映えてしまうから」
そして顔が段々と帆乃に近づいて、ナノハの綺麗な顔が眼前に迫って、唇を奪われた。
「ふえ⁉」
帆乃は後ずさって唇をガードするように掌で隠す。
「あら、もしかして初めて?」
そう言われて帆乃は横に首を振った。そんなidの反応を見てナノハはまた美しく笑う。
「…ああ、ちなみにあなたの相方も昔こうして初キスなんてもの失ったら舞台で輝いたわ。吹っ切れたように、ね」
「吹っ切れた…?」
帆乃の胸の奥がまたズキズキと痛み始める。
「ナノハさん⁉ ちょ、何してんすか!」
理玖は帆乃の異変に気が付いて帆乃に駆け寄る。
「あーらら、idちゃんもナノハ流の荒療治を受けたわね」
ロージーは面白がって笑っていた。他のダンサーたちもナノハが何をしたのか気が付いたようで、拍手を送ったりしていた。
「idちゃん大丈夫、これマジで効くやつ」
「効く? 何がですか?」
「ナノハさんにチューされた人は魔法がかかったように舞台で輝けるのよ。私も昔されたしー」
「俺はされなかったけど、ケツキックされたら目覚めたわ」
「てか男でチューされる奴なんてよっぽど見込まれた、というか期待された男だけだぜ。よかったな!」
ナノハのキスのおかげなのか、帆乃はあっという間にダンサーチームに囲まれた。
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