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番外⑤ 腐女子です、ちょっといいですか?
(こちらの作品はむにうさ様のSSクイズ企画にて正解者からルーレットアプリで抽選し当選された「さほり様(Twitter:@shihosatsuki)」への景品となっております)
* * *
高校も夏休みになり、帆乃は例年通りに在宅時間を削るために外に出ていた。
高校生最後の夏休みはidの初ライブに向けてボイストレーニングを連日行い、受験生でもあったので休み明けの模試などに向けて勉強にと大忙しで有難かった。
日が暮れそうな夕方6時に帆乃はボイストレーニングを終え、代々木公園方面から渋谷に歩いていた。
(赤ペンももうすぐなくなるし…あと単語帳と……あ、ロージーさんに教わった喉ケアの飴とかあるかな…)
渋谷までの道のりは慣れたものだった。
少しだけ考え事をしているとあっという間に目的の店である東急ハンズに到着した。
文房具フロアに行き、必要なものを探していると肩をトントンと叩かれた。
「やっほ、帆乃たん」
「え……唯ちゃん?」
振り向くと、いつもよりシックなファッションを纏った唯がいた。
「ゆーりんさん、何かありました?」
唯の後ろから茶髪のボブヘアで、白い半袖シャツに上からミントグリーンカーディガンを羽織り、ふわりとしたロングスカートを履いた可憐な女性がやってきた。
帆乃はショルダーバッグをギュッと掴んで少し身構えるが、帆乃の警戒に気が付いた唯がニコリと笑った。
「帆乃たん、この人は私の趣味トモだから大丈夫よ。ね、さほりさん」
「ん? その男の子…ゆーりんさんの知り合いですか?」
「そう! 帆乃たんっていう……あー…」
唯は周囲をキョロキョロ見渡し、さほりに近づくと耳打ちする。
「ここじゃアレなんで、どっかご飯とか食べながら…腰を据えて話しましょうや」
「え? ま、まぁ…いいですけど…」
唯は次に帆乃に近寄って肩を組んだ。
「帆乃たん、今から夕飯食べない?」
「ふへ? いいですけど……」
「よし、決まりよ」
帆乃と唯とさほりは買い物を済ませて、近くのファミレスに向かった。
(ゆーりんさんって…唯ちゃんのオンラインの名前なのかなぁ…)
バーチャルアイドルヲタである帆乃はさほりと唯の関係性を何となく察知した。
* * *
ファミレスは比較的に空いていてすぐに席に案内され、唯が慣れたように注文用のタブレットを操作する。
「さほりさん、見てー♡ 今ピーちゃんフェアやってますよー」
「ホントだー♡ えー、可愛いー♡」
女子2人はファミレスのマスコットキャラであるヒヨコのキャラクターに釘付けだった。
「帆乃たんは何食べる?」
「あ…えっと……俺はショコラケーキでいいです」
「へ? そんだけ?」
「さっき少し事務所で食べちゃったので…」
「だってこの前の焼肉食べホのとき超やばかったのに…足りるの?」
先日の暴食を指摘され、帆乃は一気に赤面する。
帆乃の反応を見たさほりは不思議そうにし、首を傾げる。唯はそれを見逃さなかった。
「ちょっと待って帆乃たん、あの後りっくんと何かあったでしょ?」
「りっくん…って、ゆーりんさん……まさかこの子…」
唯の鼻息を見て、さほりの腐女子レーダーも反応し、素早くスマートフォンを構えた。
「ゆーりんさん…この子がリアルBLの受けの子…でしょうか?」
「イエス☆」
さほりの目も途端にギラギラと輝いた。
「で、で、で! 焼肉のあと何かあったんでしょ⁉ 酔っ払いりっくん大変だったんじゃない?」
唯は酔っぱらった理玖の性質 を知ってるので興奮気味に帆乃を問い詰める。
さほりは「酔っぱらった彼氏が明け方まで激しめエッチ要求」とメモを入力していた。
「……うー……そ、その……俺のが理玖さんに迷惑かけちゃいました…」
「………はい?」
「俺が焼肉の時に暴飲暴食したのが…理玖さんが、その…せ、性欲が満たされない分が食欲へ吐き出された所為じゃないかって……だ、だから…その……」
「まさか帆乃たんが誘って…」
帆乃はコクンと頷いた。
さほりのメモには「誘い受け」というメモが追加される。
「帆乃たんくん…それはりっくんの家で、だよね?」
さほりは「まさか家まで我慢できないで…」という展開を想像してしまい思わず帆乃に質問をした。
「い、家…です、けど……げ、玄関……」
予想の斜め上でさほりは「玄関んんんんん」と悶え、テーブルに突っ伏した。唯は更に帆乃を問い詰める。
「まさか押し倒されたの? あの節操無しめ…」
「ち、違います…理玖さんはちゃんと……その…ちゃんとしようねって言ってくれてました。けど俺が…ワガママばっかり言って、困らせてばっかりで…」
「ワガママって?」
「その…こ、コンドームとかちゃんと付けようとしてくれて、なのに…俺が離れたくなくてぎゅーってしたり…じ、自慰を知らなかったから教えてもらったり…また我慢できなくて…お風呂で…その……」
帆乃の実話をさほりは一字一句聞き逃さずにメモに残す。無知なのか唯への信頼なのか赤裸々に語られる2人の営みは腐女子の萌え材料として完璧であった。
「ちょっとゆーりんさん! 隠し玉にもほどがありますって! 私の心臓がもちません!」
「さほりさん……秋庭は間に合いませんが…来年の春庭はコレで行きましょう……! 全力で挿絵と表紙を描かせていただきやす!」
「平凡大学生攻めの美少年高校生受けの我慢できなくて家のあちこちプレイ……」
「あ、さほりさん、りっくんは平凡じゃないですよ、ね? 帆乃たん」
唯はいたずらっぽく笑いながら帆乃に問いかける。
「あ……あの、り、理玖さんは…平凡じゃないです、よ?」
帆乃は目を潤ませながらさほりを見つめ訴えかける。その純粋な眼差しにさほりの心臓は掴まれた。動悸が激しくなるがどうにか呼吸を整えて、文字書きモードを発動する。
「り、理玖さんって人はどう凄いんでしょうか?」
「えっと……昔、バレエのコンクールで優勝したりとか…踊りが、綺麗です。理玖さん以上に表現力あるダンサーを、俺は見たことないです。それで、普段からもかっこ良くて、多分俺なんか隣にいちゃいけないくらいにスマートで…モテるだろうし……」
言葉にするとネガティブになって帆乃は沈んだ表情になるが、その顔も絵画になるくらいに美しいのでさほりは帆乃の自己低評価に切なくなると同時に健気さを感じまた心臓が痛くなる。
ひとつ咳をするとさほりは切り替える。
「じゃあ、帆乃たんくんと理玖さんの最近楽しかったことは?」
「この前は一緒にお風呂に入った時に泡風呂作ってくれて、いい匂いして……あと、俺が何かぎゅーってして欲しいなぁって考えてただけなのに理玖さんエスパーみたいに分かってくれてぎゅーってしてくれるんです。今は理玖さん毎朝ランニングしてて、この前はランニングのあとにお散歩誘ってくれて、一緒に朝からアイスクリーム食べて…美味しかったです」
ふにゃっとした表情で帆乃は次々と惚気話を繰り出して、あまりの糖度にさほりと唯は殺されかけた。
「え、えっち以外はほのぼのカップル…美男美男で……ゆーりんさん! 春庭! 今からプロット書きましょう!」
「さほりさん……やりましょう!」
唯とさほりは固い握手を交わして、キラキラとした目を互いに合わせた。
そんな2人を見て帆乃は首を傾げた。
* * *
ファミレスで軽い食事を終えた3人は渋谷駅前まで歩いた。
「帆乃たん、今日はどうするの?」
「えっと……今日は帰ろうかと思って…自分の家に」
(帰りたくないな…理玖さんの話したら、理玖さんに会いたくて…ぎゅーってされたい)
帆乃の寂し気な表情を見てさほりは思った。
(この子、今彼氏に会いたくて仕方ない感じね。私らに惚気て会いたくなったのね。そしてぎゅーってされたいって持ってるわね)
唯も以下同文である。
「唯ちゃんと…えっと、さほりさんは、どうするんですか?」
「私らはもうちょっと、大事な話し合いがあるから…ね! さほりさん!」
「そうですね、ゆーりんさん♡」
2人が楽しそうに「ねー」と顔を合わせている光景は帆乃にとって羨ましかった。
「なーんか見たことある人影だと思ったら…てめぇ、帆乃くんに変なこと吹き込んでんじゃねーだろーな!」
突然男の声がした。
さほりと唯の目の前にTシャツとジャージに黒縁眼鏡をかけた背の高い男が現れ、そいつは唯の頭を小突いた。
「いったーい! りっくんの暴力魔!」
「り……この人がりっくん⁉ ちょ、ゆーりんさん! どこが平凡なんですか! 背の高いイケメンさんじゃないですか! この人と美少年のカップルとか素敵絵過ぎてたまらんじゃないですかあああああ!」
さほりは唯から聞いてた話と違い過ぎて混乱し唯を激しく揺さぶる。
「あへ? あ、そっか…りっくんって一般的にはイケメンだったの忘れてた☆ 普段ヘボ過ぎて」
「まさかのギャップ萌え…! ゆーりんさん早く…早く話を詰めましょう!」
さほりは興奮気味にスマートフォンのカメラを突然現れた理玖と未だにびっくりしてる帆乃に向けて連写した。
「身長差、美男美少年、そして既に受けちゃんの攻めサマへの恋慕の眼差し…完アンド璧☆ アザマシター!」
さほりにとって目の前に垂涎モノのリアルBLが降臨していて「わが生涯に一片の悔いなし」と言わんばかりに昇天しかかっていた。
「おい鈴野…この人大丈夫か? お前のヲタ友だろ?」
「なんでわかるの? りっくんエスパー?」
「大体わかるわ! はぁ……ったく。帆乃くん、大丈夫だった?」
唯たちに呆れると切り替えて理玖は帆乃の手を引いて自分のそばに寄せた。
「り、理玖さん…あの、だ、ダンスは…」
「今日は少し早く終わったんだよ。帆乃くんはもう帰るの?」
「はい……もう家に…」
「あれ? でも帆乃くんもう夏休みでしょ? なら俺んチ泊まっても大丈夫なんじゃない?」
「え……でも、迷惑じゃ」
「何のためにお泊りセットとか着替えがウチにあるんだよ。俺も今日マジでクッタクタだから帆乃くんと一緒にいたいなぁ…って思ったんだけど、ダメ?」
「………だめ、じゃないです……俺も、理玖さんと、一緒がいいです…」
帆乃は控えめに空いてた片方の手で理玖のTシャツの裾を摘まんだ。
さほりと唯は既に萌え尽きていた。興奮を超えて悟ったような穏やかな表情で2人を見ていた。しかしさほりのフリック入力は止まってない。創作者の鑑である。
「じゃあな鈴野。あ、お連れさんも」
「じゃあね…」
「どうも」
理玖は帆乃の肩を抱いて初台方面に消えていった。
「ゆーりんさん、私、春庭新刊のタイトルが浮かびました」
「なんでしょうかさほりさん」
「『溺愛ワンルーム~甘々カレシと甘々性活♡』はどうでしょう? プレイ内容としては玄関からお風呂からベッドで朝になるまで…」
「さほりさん、いいですね! よし、カラオケボックスで話を詰めましょう!」
そして腐女子2人はカラオケボックスに消えていった。
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