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真夏の逃亡 9
予定通りにリハーサルは順調に進み、正午より少し前に昼休憩に入ることができた。
すると香島がリハーサル会場にいる全員に向かって大声で呼びかける。
「みなさーん! 昼食ですが、スポンサーの『Mホームデザイン』様からお弁当の差し入れを頂きましたー!」
演者、スタッフ、約1名を除き全員が「ありがとうございます」と言う。
「え……えむ、ほーむ……?」
理玖は口をパクパクさせる。そしてカツカツとピンヒールの音が近づく。
「皆様、私の可愛い愚弟がお世話になっております」
ピンヒールを履き、スーツ姿のゆる巻きロングヘアの美人が現れ、彼女はダンサーチームに向け頭を下げた。そして顔を上げ、にっこりと笑うと自己紹介を始めた。
「私は今回のライブを支援させていただきます『Mホームデザイン』代表の南里 奏楽 と申します」
女性が名乗る「南里」という姓に全員の視線が理玖に向く。
「姉貴…」
「可愛い可愛い私の弟、頑張ってるかしら?」
「何で来てんだよ」
「スポンサーだから、スタッフやキャストを気に掛けるのは当然でしょ?」
「スポンサーとか一言も聞いてねぇし」
「言った覚えはないもの」
この数十秒のやりとりで南里家の力関係はハッキリとわかった。ナノハ以外のダンサーチームは全員笑いをこらえるのに必死だった。
制作スタッフに案内され、全員控室に向かった。
奏楽が差し入れしたものは、高級焼肉弁当と超人気の手毬おむすび幕の内弁当だった。更にデザートのプリンは3種類も用意されており、演者もスタッフも盛り上がる。
「このお弁当、なかなか予約しても手に入らないってやつじゃーん! 私これー!」
可愛いものに目がない女性陣は弁当の写真をSNS用に撮影する。
理玖は弁当を一つ確保すると、当然のように帆乃の隣に座る。
「理玖さん、お疲れ様です」
「帆乃くんもお疲れ。お弁当貰った?」
「いえ…まだです」
帆乃はリハーサル後に少し立ち眩みを起こし、落ち着くまで救護用の楽屋で横になっていた。理玖もそれを耳にしていたので、立ち上がろうとする帆乃を制す。
「いいよ、俺が取りに行くから」
「そんな…悪いです」
2人がそうやっていると帆乃の横から弁当とスポーツドリンクが出てきた。その方向を見ると、奏楽がニコニコしていた。
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