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真夏の逃亡 10

「もう起きて大丈夫なの?」 「へ……? え、あ…はい……少し、休んだので」 「疲れた胃に負担があるといけないから、お魚の幕の内弁当を選んでおいたわ」 「あ……ありがとう、ございま…す?」  帆乃は見ず知らずの女性から声をかけられて分かり易く混乱した。そして反対側で理玖がだるそうにため息を吐くので、不安になって眉が下がる。  すると奏楽は「ふふふ」と不敵に笑う。 「ちょっとぉ、香島さんから聞いてた話と違うじゃん、この子ぉ。超かわいいじゃん、コロコロと表情豊かだしー。理玖、あんたよくゲットできたわね。過去の恋愛全部クズ男のくせに」 「うっさい、黙れ」  奏楽はそのまま帆乃の隣に座り、南里姉弟(きょうだい)で帆乃を挟む絵になった。  理玖の悪態が気になる帆乃はモヤモヤし始めた。そんな帆乃の表情を見て奏楽はいたずらな笑みを浮かべる。 「こんにちは、私は奏楽って言います」 「そら、さん?」 「そこにいる理玖とはトクベツな関係なの」 「え⁉」  帆乃は驚いて奏楽と理玖を交互にキョロキョロと見る。奏楽は意味ありげな目線を理玖に送り、理玖は奏楽を見ようともせずに頬杖をついてしかめっ面をやめない。 (スーツを着て、とっても美人な人……さっき恋愛…とか言ってたから、もしかして理玖さんの昔の恋人さんだったりするのかな…) 「ね、理玖?」  奏楽は甘えた声で理玖の名前を呼ぶ。帆乃は予想が当たったかもしれないと思い胸が締め付けられる。 「理玖ってばぁ」 (や、やだ……俺、またナノハさんの時みたいに…モヤモヤしたら、きっと迷惑) 「理玖ぅ」 「やめろうぜぇキモい」  理玖の不機嫌MAXな声とオーラに帆乃は肩を震わせた。  助けを求めようにも奏楽は笑っているだけで帆乃は泣きそうになる。 「お前なぁ、スポンサーのくせに主役の精神乱すなよ」 「へ⁉」  理玖が放った「スポンサー」という単語に帆乃は驚いて奏楽を見る。 (スポンサー⁉ ど、ど、どうしよう……俺、なんて人に嫉妬を……どうしよう…)  帆乃の顔が一気に青くなる。すると奏楽は帆乃の頭をくしゃりと撫でた。 「あ…あの…」 「この子がうちの嫁になるんでしょ? 超歓迎だわ」 「う…うち……?」 「うち、じゃなくて、俺の帆乃くんだから。つーかいつまで触ってんだクソ姉貴」 「あ、あね…⁉」  帆乃は目をいっぱい開いて奏楽を見ると、奏楽はまだニコニコ笑っている。  理玖は帆乃を触る奏楽の手を振り払い、帆乃を自分の方に引き寄せた。

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