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真夏の逃亡 11
「トクベツな関係っていうのは嘘じゃないでしょ?」
「紛らわしいんだよバーカ」
「馬鹿に馬鹿って言われたくないわよ。あ、先月の生活費の援助」
「申し訳ありませんお姉様」
理玖は秒で土下座をした。
(そういえば…理玖さんが居ないときに一樹くんから少しだけお姉さんのこと…そのお姉さんが……)
一樹から聞いてた想像の人物像と実際の奏楽は結びつかず、帆乃はまだ混乱する。
そんな帆乃の手を奏楽はそっと握り頬を撫でて、足元で土下座する理玖を踏みつけた。
「改めまして、私は理玖の姉の南里 奏楽です。あなたのことはハナさんと一樹から聞いてるわ。今回はあなたの初ライブを微力ながら応援させてもらうわ。よろしくね」
奏楽の触る感覚は理玖に似ていて、帆乃はポロポロと涙を流してしまった。
「あの、あ…あの…俺……ぼ、僕、は…」
「あーごめんねー、泣かないでぇー…本当に可愛いわぁ…」
「姉貴ぃ…いい加減、ブフォッ!」
理玖が頭を上げようとしたら奏楽は理玖のデコをピンヒールのつま先で蹴り上げた。
「いてぇ! 救急車ぁ! 医者ぁ!」
理玖は痛みでごろごろと床に転がりながら叫ぶ。奏楽は何事もないように帆乃に話を続ける。
「今日は私の家にいらっしゃい。夫が夕飯用意してくれるから」
「お、おうち……って…」
「大丈夫よ。ヒッジョーに邪魔だけど理玖 も一緒だから」
デコを押さえて痛みと格闘する理玖を指し奏楽は帆乃を誘う。
「私の家はこいつの実家だから、恥ずかしーお宝もいっぱいあるわよ」
「ふざけんな。義兄さんの飯食ったらすぐ帰るからな」
「あら、それは大歓迎。こっちも帆乃くんだけ残してくれたら問題ないわ」
「はぁ⁉」
「理玖、私はスポンサーだからね。egoへの口出しはいっくらでも許されてんのよ」
理玖は地獄を見るような顔をして、すぐにまた土下座をした。
「夕方に送ってってあげるからねーん」
奏楽は立ち上がって帆乃の頬にキスをすると楽屋から立ち去った。帆乃は赤面。
「おい! てめ、帆乃くんに手ぇ出してんじゃねーぞ! クソ姉貴ぃ!」
理玖はやっと立ち上がって奏楽を追いかけていく。
帆乃はそんな南里姉弟を見て笑ってしまった。
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