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真夏の逃亡 14

 帆乃が崇一の背中に手を回して応えようとしたらグイっと引き離される。  それをしたのは勿論理玖だと思われたが。 「シャッチョサーン、私のお嫁ちゃんに手を出さないでくれる?」  崇一は口と顎を鷲掴みされ「ふがふが」と情けない声が漏れる。  そして帆乃はすぐに間に入ってきた奏楽に抱き締められる。 「奏楽ちゃん…さっき会社に呼び出されたとか言ってなかった?」 「あ? 大丈夫よ、社員に任せてきたわ」 「うげぇ……」  奏楽の会社をある程度知っている崇一は苦労させられているであろう奏楽の部下たちに心で合掌をした。 「今日は帆乃くんが我が家にお泊りだからねーん」  帆乃は驚いて奏楽を見る。 「あ、あの…」 「夫ももう買い物済ませてご飯用意してるって」 「ふへ…⁉」  どうにも逃げられない状況で困惑する帆乃にダンサーたちが気が付いて、理玖がすっ飛んできた。 「オイコラ! 帆乃くんから離れろババア!」  理玖が伸ばした手は奏楽にあっさりと掴まれてぐるりと回される。  奏楽は合気道の有段者であった。 「痛い…い゛だい゛ぃぃぃ…っ」 「あんたを送ってあげるお姉様に感謝の言葉はないのかしら?」 「あ゛り゛がどぉござい、ばず……っ」  解放された理玖は涙目で、捻られた手首を「フーフー」と息を吹きかけ労わった。 「ハナさーん、あとどんくらいー?」  奏楽は少し離れた場所にいた華笑に訊ねた。 「あと3曲だから、順調にいけば1時間くらいかな」 「分かった。私はここで主役さんと一緒に見学してるわね♡」 「クソ姉貴…」 「さ、帆乃くん♡ 向こうで座りましょ♡」  奏楽は確実に楽しんでいた。  理玖は歯ぎしりし2人の行方を見送り、そんな様子を見たダンサーたちはケラケラと笑う。 (お姉さん、だからかな……理玖さんと似てて、安心しちゃうなぁ)  今はまだ繋げない手の寂しさが、少しだけ埋まった感覚だった。

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