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真夏の逃亡 18
大理石の玄関から上がり、奏楽と理玖は慣れた足取りで、帆乃は「お邪魔します」と緊張しながら小さく理玖の背を追う。奏楽は軽い内ドアを開けて「ただいまー」と明るく言う。
「うっわ! 超いい匂いっ! もしかして…タンドリーチキン⁉」
ダイニングに入った途端、理玖ははしゃぐ。
「理玖おかえり。相変わらず食い意地すっごいけど、ちゃんと食ってんのかー?」
「ぼちぼち」
理玖に続いて帆乃も部屋に入るとすぐに会釈をする。
「お、お邪魔します…」
「ああ、君が奏楽が言ってた…いらっしゃい」
「は……は、はじめまして……た、橘 帆乃…と言います」
緊張がピークに達して言葉が詰まってしまう。すると誰かに両手で頬を挟まれてグイっと顔を上げられた。
「どーおー? この子、すんごい美人さんでしょ? 明人 くん」
帆乃の視界に入ってきたのは、黒髪短髪のタレ目な優しい表情をした男性だった。
「奏楽、離してあげなよ」
男性は困ったように笑うと帆乃に手を差し出す。
「初めまして。僕は奏楽の夫で理玖の義理の兄の明人と言います。奏楽から君のことは色々聞いてるよ。どうやら理玖が世話になってるみたいだね」
「いえっ! お、俺の方が……いつも理玖さん、に……ご迷惑ばかり…」
帆乃は恐縮しながら明人の手を握って応えた。明人は「うんうん」と笑うと帆乃をダイニングテーブルへ案内した。
テーブルの上にはご馳走が並んでいた。サラダ、タンドリーチキン、トマトパスタ、モッツァレラチーズのおつまみ、まるでレストランのようだ。
「義兄さん、帆乃くんは俺の隣だよ」
「何言ってんの? ここはスポンサー様に譲るべきでしょ」
「あ? 帆乃くんは俺の恋人、つまりは俺の帆乃くんなんですけどー?」
「やんの?」
「やってやろーじゃん」
帆乃の隣席を巡って姉弟喧嘩が勃発しようとしたが、すぐに諫められる。
「二人とも。仲良くしなさい」
明人は笑っているものの、纏うオーラが真っ黒になっていた。
「ご、ごめんなさい…」
理玖は戦意喪失し黙って着席した。帆乃は明人に言われて理玖の隣に座る。
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