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真夏の逃亡 23

「ねぇ、帆乃くん…」  理玖は神妙な声で帆乃を呼ぶと、帆乃は少しだけ理玖を見つめて「はい」と応えた。 「俺、迷ってんだよね…正直なところ……」 「何を、ですか?」 「egoを続けること」  帆乃の心臓はギュッと痛くなる。 「今は踊れることが凄く楽しくて、それで給料もらえて、仕事になりつつあることが…何だか夢みたいでさ。この夢を見続けて追っていくのか、早く目を覚まして堅実を選ぶのか」  理玖は柔らかく帆乃を包み、腕を向こうへ伸ばしていた。 「後者の方が、絶対選ぶべき道なんだろうけど……そっちに進んだら、帆乃くんと離れ離れになるんじゃないかって不安もあるし」 「……俺、と…?」 「帆乃くんは………」  理玖は一瞬で言葉を呑んだ。  自分の本音が、帆乃の枷になってしまうのではと気が付いた。 「俺が……何ですか?」  帆乃は不安げな声を理玖に向ける。  理玖は「やっぱいいや」と吐いて帆乃の頭を優しく撫でる。  はぐらかされたけど、心地の良い心音が帆乃の眠気を誘い、引っかかることばかりなのに、そのまま目を閉じてしまった。

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