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真夏の逃亡 31

 帆乃が泣いている姿が目に入ると、理玖はすぐにカドマツを疑い、コンビニでの買い物が入った袋を落としてカドマツに詰め寄り胸倉を掴む。 「まぁ待てよ理玖」 「何を待てっつーんだよ…あぁ⁉」 「別に泣かしてねぇっての」  カドマツは慣れたように飄々とし理玖を宥めようとする。 「じゃあ何で帆乃くんが泣いてんだ? お前しかいねぇだろうが」 「おーおー過保護だねぇ、君の彼氏さんは」  嫌味ったらしくカドマツは帆乃の方を見る。帆乃は涙を拭いながら「理玖さん」と弱々しく理玖の名前を呼ぶ。理玖は振りかざす拳は引っ込めず、帆乃の方を見る。 「か、門田さん…は、何も間違ったこと言ってません……俺が…駄目だから……それだけで…」 「帆乃くん。帆乃くんは駄目じゃないよ…何にも、駄目じゃない」 「それ。それがコイツを駄目にしてんだっつーの」  カドマツは隙ができた理玖の手首を取り、オタク趣味ゆえに学んだ護身術で理玖をあっという間に押さえつけた。理玖はカドマツに組み敷かれて腕をギリギリと拘束された。 「バレエ以外のポンコツは変わらずで助かったわ」 「カドマツぅ…てめぇ……」 「お前は橘 帆乃を知らなすぎだ。自分の身の危険を考えたことあんのか? お前が思ってる以上にやべぇ物件だぞ、コイツ」 「ど、ういう、ことだ…痛ぇ……」  理玖が痛みで顔をゆがめたところでカドマツはやっと理玖を解放した。理玖は手首を摩りながらカドマツを睨む。 「そんだけやべぇことにお前は巻き込まれてんだ。なら巻き込んだ当人から説明があってもいいんじゃねぇの? てかそれが普通だろ。なのにコイツは…」 「それは帆乃くんから話すまで聞くようなことじゃねぇだろうが」  理玖が声を荒げると帆乃は理玖を咄嗟に抱きしめて、理玖の胸に顔を埋めた。 「理玖さん……ごめんなさい……本当に、門田さんの……言う通りです……本当に、ごめんなさい……」  帆乃の泣く声に理玖は脱力して、すぐに帆乃を優しく包んだ。  カドマツは「やれやれ」と言うように溜息を吐いてゆらりと立ち上がる。 「もうちょっとしたら飯食いに行くからなー。一樹も来るし、自分で考えて話すとこはちゃんと話せよ」  カドマツにそう言われると帆乃は大きく頷いた。理玖はこれ以上カドマツと争っても帆乃を傷付けると考え、言葉を呑み込んだ。  理玖は帆乃をソファに座らせて隣に寄り添って帆乃の涙を拭う。   そんな2人を横目にカドマツは理玖が放置したコンビニの袋を片付けてあげる。 「あ、ハーゲンダッツもーらい」  そう言うと躊躇なく少し溶け始めていた高級クリスピーサンドアイスを開封し口に運んだ。

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