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4-02-1 めぐむの課外授業(1)
その日、雅樹とのデートを早めに切り上げ、ムーランルージュに戻ってきた。
スタッフルームに入ると、アキさんが休憩をしていた。
「アキさん、おはようございます!」
「おはよ、めぐむ。あれ、早いじゃない。喧嘩でもした?」
アキさんは、心配そうに僕を見る。
「いえ、彼は明日、部活の朝練があるみたいなので、早めに切り上げました」
「それならよかったわ」
そう言うと、ニッコリして、手にしたミネラルウォーターを口にした。
平日のこの時間は、まだお店は忙しくない。
今が聞くチャンスだ。
「アキさん、そういえばずっと聞きたかったことがあるんです」
僕は、話を切り出した。
「なに? めぐむ」
「山城先生のことなんですが……」
沈黙。
「だっ、誰? その山城先生って?」
アキさんは、動揺しているようだ。
「アキさん、大丈夫です。山城先生からアキさんのことは聞いています」
アキさんは僕の顔見つめる。
そして溜息をついた。
「もう、ハルちゃん、なんでばらすかな……」
アキさんの愚痴が聞こえる。
「ところで、めぐむ。どこまで、知っているの?」
「えっと、兄弟って聞きました」
「うん。そうなのよ。めぐむのとこの学校で働いててね。ごめんね。秘密にするつもりはなかったんだけど」
「ううん。いいんです」
「ハルちゃん、嘘つけない性格だから」
「ハルちゃん?」
僕は思わず聞き返す。
「うん、波瑠っていうんだ。兄貴」
「そうなんですか。山城先生って、波留って名前なんですね」
「あぁあ、せっかく秘密にしていたのに……」
アキさんは嘆いている。
でも、ホッとしているようにも見える。
あの山城先生を、お兄さんを、ハルちゃんと呼ぶアキさん。
やっぱり、気になる。
「あの、アキさん……」
僕は一息置く。
「その、山城先生とは、どんな関係なんですか?」
アキさんは、僕の顔をまじまじと見つめる。
「えっ? 関係って、兄弟だけど」
「いえ、その、兄弟というか、その……」
僕が言いにくそうにしていると、アキさんが聞いてきた。
「もしかして、ハルちゃん、他に何か言っていた?」
「いいえ」
そんなやり取りをしていると、ユミさんから「アキさん、ご指名です」の声がかかる。
アキさんは「はーい」と答えた。
「ごめんね、もう行かなきゃ」
「あっ、いいんです。ちょっと気になっただけなので」
アキさんは、僕に手を振ると、お店の方へ歩いて行った。
僕はアキさんの後ろ姿を見ながら、やっぱり、僕の直感は正しいかもしれない。と感じていた。
翌日の朝。
いつもの通学路。
僕は、道行く人の波に乗りながら、アキさんの言葉を思い出していた。
山城先生をハルちゃん。と呼ぶアキさん。
でも、やっぱり違うのかな?
絶対、山城先生とアキさんは特別な関係だと思ったんだけど。
僕は、兄弟がいなからそういう感覚がよくわからない。
そうだよね。兄弟だもんね。
とはいえ、アキさんが憧れた人のために女になる決心をした、と言ったとき、たしかに、『身近な人』って言っていたような気がするんだ。
よし。
やっぱり、山城先生に聞いてみよう。
僕はそう心に決めた。
放課後、僕は保健室に向かった。
部屋の中かから女子生徒の声が聞こえる。
僕は、廊下で待って先客が帰るのを待った。
帰っていく女子生徒を見送ると、僕はノックをして保健室に入る。
「山城先生。相談があります」
「お、なんだ。青山。まぁ、座れ」
山城先生は、丸椅子を指さす。
僕は先生の前に座った。
山城先生を見る。
「ちょっと、プライベートな話なんですがいいですか?」
「分かった。俺は口が堅いから大丈夫」
聞きづらい。
でも、聞きたい。
僕は、思い切って問いかける。
「あの、山城先生とアキさんはどういう関係なんですか?」
「えっ? プライベートって俺のことかよ」
山城先生は、驚いた顔をする。
「ごめんなさい。どうしても気になって……」
「うーん。アキは何か言っていた?」
「いいえ」
「そっか……」
山城先生は、しばらく困った顔をして腕組みをしていた。
そして、踏ん切りがついたのか、口を開いた。
「まぁ、青山と高坂の秘密を知っているからな。お前には話してもいいか」
「じゃぁ、なにか特別な……」
「まぁ、その通りかな。実は、アキと付き合っている」
やっぱり。
アキさんの憧れの人は、お兄さんだったんだ。
そして、無事に付き合うことができたんだ。
なんか、嬉しくなってきた。
アキさんの幸せが、僕にとってもこんなに嬉しい。
「なんで、青山が嬉しそうな顔をしているんだ?」
「はい。アキさんは幸せなんだと思ったら、つい」
「ははは。アキが青山を気に入るのが分かるよ」
山城先生は、人差し指を口元に持っていく。
「これはお互い内者だぞ。じゃ、これでいいかな?」
「いえ、実は、相談はこれからなんです」
「えー。まだ、何かあるのか?」
山城先生は、あからさまにたじろぐ。
「はい」
「で、なに?」
「実は……」
僕は、真面目な顔で山城先生に言った。
「実は、先生。フェラをさせてもらえないですか?」
僕の突然の申し出に、山城先生は驚いて口を開けた。
「フェ、フェラ?」
「はい。先生のペニスをしゃぶりたいんです!」
「おっ、お前、いったい何を……」
山城先生は、動揺している。
でも、説得しなきゃ。
「やっぱり、嫌ですか? 僕じゃだめですか?」
「いや、いや。嫌とかそれ以前に。お前は生徒だし、しかも男だ」
「はい」
「どうして、フェラなんかしたいんだ? お前は、高坂と付き合っているんだろ? 嫌いになったのか?」
当然の質問。
僕は、素直に答える。
「いいえ。僕は、雅樹が、高坂君のことが大好きです」
「じゃあ、浮気になるだろ? 恋人じゃない男のペニスをしゃぶるなんて……」
「大丈夫です」
「どうして?」
「僕が先生のことをなんとも思ってないからです」
山城先生は、すこしホッとした表情になる。
「ふぅ、それを聞いて安心した。って、おかしいだろ、なんとも思っていない男のあれをだな。フェラとか」
フェラをしたい理由。
山城先生じゃなければダメな理由。
ちゃんと山城先生に伝えなくてはいけない。
「僕はフェラがうまくなりたいんです。だから、先生のペニスで練習がしたいんです」
「練習って……」
「先生はアキさんと付き合っているんですよね?」
「ああ」
「だったら、いつも、アキさんのあのすごいフェラをしてもらっている。違いますか?」
僕がそう尋ねると、山城先生は頭をかく仕草をする。
「うっ。まぁ、そうだな……」
「僕のフェラがアキさんのフェラとどう違うのか、アドバイスやヒントをもらいたいんです!」
僕は、拳を固めて勢い込む。
山城先生は、あっけに取られていた。
しばらくして、溜息をつくと、口を開いた。
「青山って、すごいことを考えるな」
「僕はアキさんみたいにフェラがうまくなって、雅樹を喜ばせたいんです!」
「それだったら、アキに直接教えてもらえばいいんじゃないか?」
山城先生は、至極当たり前な指摘をする。
「実は前にお願いしたら、『いずれ上手になるから』と言って、断られてしまったんです」
「そっか」
なんとか、山城先生を説得したい。
山城先生だったら、僕の気持ちをわかってくれるはず。
僕は、深々と頭を下げた。
「お願いします。フェラさせてください!」
山城先生の下半身が目に入る。
そのズボンの下には、アキさんにいつもフェラをしてもらっているペニスがあるんだ。
「お願いされてもな。ちょっと、青山。熱い視線で俺のを見るのやめてもらえる。ははは。とりあえず答えはノーだ。いいな」
「そうですか……」
落胆は隠し切れない。
もちろん、山城先生の気持ちもあるだろう。
だから、お願いします、一辺倒では難しかったのかもしれない。
でも、心の中片隅では、もしかしたら。と思っていたのもあった。
僕は、唇をかみしめる。
「そんな顔をするなよ、青山。アキの言う通り、高坂のをフェラしていれば、いずれうまくなるよ」
山城先生は、僕をなだめるようにそう言った。
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