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4-03-4 沖縄旅行(4)
二日目の朝。
朝食も早々に、僕と雅樹は水着に着替えてホテルのビーチに繰り出した。
まだ早いから他に人はいない。
誰もいない砂浜を、僕と雅樹は手を繋いで歩く。
白い砂浜がとても綺麗だ。
僕と雅樹の足跡はすぐに波に消える。
「今日もいい天気になりそう……」
僕は、日の光を手でかざしながら言った。
海は太陽の光を浴びて、キラキラと輝く。
「めぐむ、ちょっと泳がない?」
雅樹は、水平線の向こうを眺めながら僕を誘う。
「ううん、やめておく……」
僕は即答した。
雅樹は、ニヤッとすると意地悪そうに言った。
「そっか、泳げないからか?」
「ちがうよ、女装しているから!」
図星。悔しい。
すっかり、雅樹には見透かされているようだ。
「えー。プールには入っていたじゃん」
雅樹は、疑いの目つきをする。
僕はさりげなく、目を逸らす。
「まぁいいや、ちょっと泳いでくるよ」
「うん、わかった。先にパラソルの所に戻ってるね」
雅樹は、片手を挙げ、了解のサインをすると、海へと駆け出した。
僕は、パラソルの所に戻り、サマーベットに横になった。
寝ころびながら、雅樹が泳いでいる姿を眺める。
あっという間に小さくなる。
「さすが、雅樹だ」
うーん。
僕は両手を伸ばし、伸びをした。
パラソル越しに空を見上げる。
澄み渡る青。
風が頬をなでる。
本当に、気持ちいいなぁ。
僕は目をつぶっていると、人の気配を感じた。
雅樹がひと泳ぎをして戻ってきたのだ。
僕は、バッグからタオルを取り出し、雅樹に渡す。
「はい、タオル」
「ありがとう!」
見上げると、パラソルの隙間から日差しが目に入る。
眩しくて手をかざす。
雅樹が逆光で映る。
ドキっ……。
やっぱりカッコいいな、雅樹は……。
僕は、キョロキョロ周りを確かめる。
よし。
誰もいない。
「ねぇ、雅樹!」
僕は目をつぶって、唇を突き出す。
「んー」
「ははは。めぐむは甘えん坊だな」
雅樹は笑う。
「そんなの知っているでしょ?」
雅樹は優しく唇を合わせる。
すこしの間のんびりした後、ビーチから引き揚げた。
今日の予定は、美ら海水族館へ行く。
雅樹が駐車場から車を回してきて、僕は乗り込んだ。
ホテルからは2時間ほどの道のり。
「途中でご飯にするけど、何か食べたいものある?」
雅樹が尋ねる。
僕は、出発前に読んだガイドブックの特集記事を思い起こす。
「沖縄そばが食べだい!」
「よし。ちょっと調べるね」
雅樹は車を端に寄せると、ナビをいじり始めた。
そこは、山の中。
古い民家を改装したお店。
縁側が建物の周りを取り囲む。
本土では、あまり見かけない造りだ。
僕と雅樹は、注文を済ませると、もの珍しさにキョロキョロしていた。
そうしているうちに、沖縄そばが出てくる。
さっそく頂く。
僕は、スープを一口飲む。
すっと、喉を通り胃袋に伝わる。
「おいしい!」
思わず声に出した。
「あっさりとしたスープ。お腹にやさしそう」
雅樹も、「うん、おいしい!」と同意する。
それにしても……。
雅樹は本当に美味しそうに食べる。
僕は、雅樹が食べてる姿を見るのが、大好きだ。
「めぐむ、どうしたの? 食べないの?」
雅樹は、箸を休めている僕に気づいたようだ。
しまった。
思わず雅樹に見とれてしまっていた。
「ううん、なんでもない……」
僕は、誤魔化すようにお肉に箸をつけた。
水族館にやってきた。
否が応にもテンションが上がる。
入り口に着くと、ジンベイザメのモニュメントがあった。
記念撮影ポイントだ。
「めぐむ、ここで写真撮ろうよ!」
雅樹はそう言い、自撮りをしようとした。
でも、被写体が大きくてうまく収まらない。
そんな雅樹を見かねて、親切な人が「撮りましょうか?」と声をかけてくれた。
僕と雅樹は礼を言い、スマホと渡す。
「彼女さん、もう少し寄って!」
彼女?
ああ、僕だ。
「ほら、めぐむ、もっとこっち!」
雅樹は、僕の腰に手をやり、少し強引に引き寄せる。
「もう、痛いじゃない!」
僕が雅樹を睨むと、雅樹は「ほら笑って、めぐむ!」と言い、僕の腰をこちょこちょする。
僕は我慢できずに笑ってしまう。
「あはは」
「はい、チーズ」パシャ。
水族館に入った。
最初は、ヒトデやナマコを素手で触れるゾーンだ。
ちょっと怖いけどナマコを触ってみる。
ぐにゃぐにゃを想像していたけど、見た目と違いしっかりとしている。
「へー、意外と可愛いね」
僕は素直に感想を漏らす。
僕の様子を見ていた雅樹も、よし、じゃあ、俺も! と気合を入れナマコに触れる。
雅樹も、僕と同じような感想を持ったようだ。
しばらくして、雅樹は小声で僕に言った。
「やばい、ナマコ触ってたらいやらしい気分になってきた。どうしよう?」
「どうしようもこうしようもないよ、さあ、次いこう!」
どうせ、めぐむのペニスみたい! とか言うつもりなんだ。
僕は、雅樹の背中を押して、次へとせかした。
次のエリアは熱帯魚の水槽だ。
「わぁ! 凄い!」
僕は、目を見開き感嘆する。
日の光が差し込んで、サンゴやイソギンチャクが水槽に花を咲かす。
幻想的だ。
黄、赤それに青の原色の熱帯魚達が、群れを成してゆったりと泳ぐ。
歩きながら水槽を見ていくと、白い砂に首をひょこっと出したチンアナゴを発見した。
行儀よく並んでいる。
「可愛いなぁ」
僕は、水槽に額をつけて観察する。
「めぐむはチン、アナゴが好きだなぁ。ははは」
雅樹は、無理矢理、間を開けて言う。
まったく子供なんだから……。
僕は言った。
「知らないの? チンって別にあそこのことじゃないから」
「え、あそこって。めぐむはそんないやらしいことを考えていたの? エッチだな」
しまった。
こんな、見え見えの罠に……。
「もう!」
美ら海水族館の目玉といえば、ジンベイザメ。
次は、そのジンベイザメがおよぐ巨大水槽だ。
「わぁ、すごい。おっきい!」
僕は想像以上の大きさと、悠々およぐ姿に目を奪われる。
「たしかに、すごいな!」
雅樹も感心して言う。
「でもさ」
雅樹は、僕の耳元でささやく。
「その、めぐむ。あまり大きな声で言わないほうがいいよ」
「なにを?」
「すごい、おっきい。って」
え? どうして?
僕は雅樹の言わんとしていることに気が付き顔が赤くなる。
「そんなの想像するの雅樹だけだよ!」
僕は雅樹を睨む。
「めぐむもね!」
雅樹は笑う。
僕は雅樹の手を、ギューっとつねる。
「痛い痛い。じゃぁ、からかったお詫びにさ、いいこと教えてあげるよ」
「なに?」
「うん」
雅樹は、水槽を指さして説明を始めた。
「ほら、ジンベイザメとかエイって、オチンチンがあるんだって。しかも2つも」
「もうどっから仕入れてくるのよ。その要らない豆情報」
僕は呆れたように言う。
でも、興味はある。
本当に2つもあるの?
さりげなく、サメのお腹辺りをさがし始めた。
「なんだよ、めぐむはやっぱり好きなんじゃん。オチンチン!」
「バカ!」
もう。
今日の雅樹は絶好調だ。
表にでると、太陽が照り付けて一瞬目が眩んだ。
やっぱり沖縄だ。
「イルカのショーやってるみたい」
雅樹がガイドブックを見て言う。
僕は、手を挙げて、ぴょんぴょんジャンプをする。
「行こう、行こう!」
会場に着いた。
青い海をバックに、イルカたちがジャンプやダンスを披露する。
ダイナミックなショーは、息つく間もなく繰り広げられる。
イルカたちは、ご褒美をもらって嬉しそうにキューキュー鳴く。
「あぁ、イルカって癒されるよね」
僕は言う。
「あぁ、本当だな。頭を撫でたくなる」
「へぇ、雅樹もそんな風に思うんだ」
雅樹は、心外そうな顔をする。
「もちろんさ。俺だって、可愛いものには、頭ぐらい撫でたくなるよ」
雅樹は、そう言うと僕の頭を撫で始めた。
また、僕をからかおうとしているんでしょう?
僕はそう思って、雅樹の顔を伺った。
あれ……?
雅樹は、真剣な表情でじっとショーを見ている。
えっ?
気づいてない?
僕の頭を撫でていることに……。
これって、雅樹の無意識、つまり本心……って事だよね?
心臓のドキドキが加速する。
僕の事、お世辞抜きで可愛いって思っている。そういう事……。
嬉しいよ、雅樹。
すごく、嬉しい。
ああ、だめ……。
胸が張ちきれてしまいそう。
僕は、拳を固めて胸に押し当てる。
「もう終わりみたいだぞ。あれ、どうした? めぐむ」
雅樹は、心配そうに僕の顔を見た。
「ううん、何でもない……」
「そっか、じゃあ行こうか?」
「うん!」
僕がそう満面の笑みで答えると、雅樹は、「ん?」と不思議そうな顔をした。
水族館はひと通り見終えた。
雅樹が言った。
「そろそろ、ホテルに戻ろうか?」
「うん、帰ろう」
僕達は駐車場へ歩き出す。
僕は、今日、水族館であった出来事を思い起こす。
「本当に楽しかった」
僕は、雅樹の手を握りしめた。
「雅樹、また来ようね!」
「そうだね、またいつか」
雅樹は答える。
と、その時……。
突然、ふらっと、目の前が白くなった。
あれ?
意識が遠のく。
「雅樹、待って……」
それだけ言えたと思う。
僕はその場に倒れた。
気が付くと、僕は木陰のベンチで横になっていた。
「あ、めぐむ、気づいたか。大丈夫?」
雅樹の真剣なまなざし。
あれ、僕はどうしたんだっけ?
あぁ、そうだ。倒れたんだ。
「大丈夫。いつもの貧血だと思う」
僕は答える。
「そうか、心配したよ」
雅樹は、ホッとした表情をした。
「とりあえず冷房に入ったほうがいいと思うんだ。駐車場まで歩けるか?」
「うん」
僕は申し訳なさそうに答えた。
そして、頭を下げた。
「ごめんなさい。せっかく楽しかったのに……」
「いいよ。問題ないよ」
雅樹は優しく微笑んでくれた。
ホテルに戻っても、まだ調子が悪い。
少しめまいがする。
僕は、頭を抑えてベッドに座った。
「ごめん。ちょっと横になっていていい?」
「もちろん」
僕はすぐに眠りについた……。
ゆらゆら波に揺れている。
波打ち際の波の行き来。
波の音。
目が覚めた。
あれ? ここはどこだろう?
あぁ、そうだ沖縄に来ているんだ。
起き上がり体調を確認する。
ふらふらしてない。
大丈夫そうだ。
ちょっとはしゃぎ過ぎたかな……。
考えてみれば、そうだよね。
誰はばかる事なく、雅樹とずっとイチャイチャできたんだ。
雅樹のかっこいい姿を見放題だったし、僕に夢中になってくれる姿だって沢山見れた。
思い出すとこそばゆいけど、すごく気分がいい。
こんなに、テンションが上がりっぱなしだったんだ。
体調だって悪くなるよ……うん。
雅樹は、ベランダで夕日を眺めながら座っていた。
僕もベランダに出た。
「もういいのか? めぐむ」
「うん。治ったと思う。ごめんね、心配かけて」
僕はそう言うと、雅樹の横に腰かけた。
「なに。元気になってよかったよ」
雅樹は微笑む。
ちょうど日が沈もうとしている。
遠くの空が真っ赤に染まり、海を照らす。
「夕日がきれいだね」
僕は言う。
「ああ」
二人、しばらく眺めていた。
雅樹が話を切り出した。
「俺さ、やっぱりめぐむが行く大学受けてみようと思う。ずっと考えていたんだ」
僕は目を伏せる。
「ごめん。もしかして今日みたいなことがあるから?」
「それもあるけど……」
雅樹はつづける。
「すこしでも、めぐむの近くにいたいんだ」
雅樹は僕の両手を取ると、固く握りしめた。
「今の俺の学力じゃ、全然だめなのはわかっている。でも目指してみようと思う」
雅樹の決意は硬そうだ。
「応援するよ。僕も頑張らなきゃね!」
夕日が沈む。
雅樹は、いつの間にか明るい顔になっていた。
「さぁ、しみじみするのはこれくらいにして、沖縄の最後の夜を楽しもう!」
雅樹はそのまま僕を抱き寄せ、キスをした。
「うん!」
僕は、雅樹の体にぎゅっとしがみついた。
「さて、今日はどんなエッチがいい?」
「僕が決めていいの?」
「あぁ、いいよ」
雅樹は、優しく微笑む。
「じゃあね……」
雅樹は、考え込む僕を、「よっ」っと抱き抱える。
そして、耳元で囁いた。
「お姫様エッチってのはどうだ?」
雅樹は、僕をお姫様抱っこのまま部屋に入る。
「うん! それがいい! 僕は我がままいっぱいだからね!」
「あはは。何言っているんだ、めぐむ。それなら、いつもと同じじゃないか」
僕は、雅樹にしがみつきながら、雅樹の頬に頬を寄せる。
「意地悪!」
僕は、そう言うといつものように口づけをした。
雅樹、いつものエッチでいいよ。
だって、それが僕の一番だから!
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