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4-11-2 美映留三校祭(2)
場の空気が少し温まった。
鈴谷さんが話を切り出す。
「ところで、青木さん」
「はい」
「去年、あなたのところでやった、後夜祭の噂、聞いているんだけど。すごい盛り上がったらしいわね」
鈴谷さんが僕の顔を見る。
「ちょっと、どんな感じだったのか、話してもらえない?」
「あっ! わたしも、聞きたいです」
結城さんも手を挙げてリクエストする。
去年の後夜祭か……。
イケメン祭り。
確かに、あれは盛り上がった。
「それじゃ、話しますね。イケメン祭りってタイトルで……」
僕は、イケメン祭りについて、話せるだけ話した。
二人とも、熱心に僕の話に耳を傾ける。
結城さんに至っては、熱っぽく、いいな、いいな、と相槌を打った。
そっか、女子校なんだよね。と気づいたりした。
「……という、わけです」
僕は話し終えて周りを見回す。
気が付くと、大村さんや先生まで前のめりになっていた。
「はい! 質問。イケメン祭りって青木さんが中心になってやったの?」
鈴谷さんが僕に聞いた。
「いいえ、違います。観客側でした」
僕は首を振る。
「そうかぁ、でもいいなぁ。そんな風に盛り上げたいよね」
「はい! ちょっと提案があるんですけど」
結城さんが手を挙げる。
「やっぱり、イケメン祭りのようなコンテスト形式がいいと思うのですが」
「うんうん。そうだね。お客さん参加型は盛り上がりの大事な要素だもんね」
鈴谷さんが同意する。
「新しくて、3校一体となって、楽しいイベントかぁ」
鈴谷さんは、しばらく考えてから言った。
「ミス、ミスター3校とかどうかな? 待てよ、ミス、ミスター美映留でも良いのか」
実のところ、僕は会議に集中していなかった。
ここに来るまですごく緊張していたから、今こうやって話し合いが出来ている時点で、役目を果たせた、そんな気持ちで、気が緩んでいた。
だって、化粧なしの女装だし、初の女子校、会合だって女性だらけ。
雅樹に片思いの田中さんの件で、女性恐怖症になりかけているのを自覚している。
でも、ここにいる、鈴谷さん、結城さんは普通に接してくれる。
優しそうな人たちで良かった。
そんなことを考えながら、ぼんやりしていた。
「ねぇ、青木さん、どう思う?」
僕は、鈴谷さんに突然振られてびっくりした。
「ぼっ、僕ですか?」
沈黙。
一同、目をまるくする。
あっ。しまった……。
「僕」って言ってしまった。
サーっと血の気が引く。
やばい。
これは、非常にやばい。
ここで、男だとバレたらどうなるんだろう……。
学校の名誉が著しく落ちる?
退学?
まさか、犯罪者?
あぁー、なんてことだ。
僕が心臓をドクン、ドクンさせていると、鈴谷さんが微笑みながら言った。
「いやー、びっくりした。青木さんって、『僕っ子』なんだ。僕っ子は、男受け狙ってあざといって感じがするけど、青木さんが言うと全然違くて。男の子かと思って、ドキドキしちゃったよ。あはは」
結城さんも続けていった。
「わたしもドキドキしました。青木さん、なんだかカッコいいです!」
そう言って、顔を赤らめる。
ふぅ。
なんだかよくわからないけど、助かった……。
それに、褒められて少し嬉しい。
それで、柄にもなく口が軽くなった。
「そうですね、私は、ミス、ミスター3校もいいと思いますが、もうちょっと私たち自身が楽しめる要素もいれたいですね。鈴谷さん、結城さん自身がしたいことってないですか?」
うん。
我ながら、それらしい偉そうなことをいったものだ。
これで会合に参加している感がでたよね?
ふふふ。
あとは二人のアイデアに乗って行けばいいんだ。
鈴谷さんが、なるほど、なるほど、といって腕を組む。
しばらく二人は黙って考え込んでいた。
沈黙を破ったのは結城さんだ。
結城さんは恥ずかしそうに、手を挙げた。
「あの、わたしはBL祭りがしたいです!」
僕はドキっとした。
BLって、やっぱりボーイズラブの事だよね?
そんな祭りしたら、絶対にやばいことになる。
僕と雅樹のことがひょんなことでバレたりしたら……。
考えただけで背筋がゾッとする。
「おっ、さすが女子校。結城さん、ずばっときたね。あはは。あたしもBLは結構好き」
「本当に? 嬉しい」
二人は一斉に僕の顔を見る。
「あっ、私も、その、嫌いじゃないよ……」
僕も焦って同意する。
「良かった。お二人とも好きで……」
結城さんは、ほっとした表情になる。
この子は、なんとなく、ジュンぽいな。
そして、鈴谷さんは、心なしか翔馬に似ている。
そんなことを思った。
鈴谷さんは言った。
「でもな、うち共学だからさ、ちょっと男子にはひかれちゃうかな。BLは。青木さんところはどう?」
「うちは……」
そういえば、美術部のモデルしたときってあれって、ちょっとBLっぽかったよね。
でも、一部の人達だけかもしれない。
そもそも、男子はひくだろう。
「うちも、厳しいですね」
「そうですか……」
結城さんは悲しい顔をした。
鈴谷さんはそれでも、「なにか、いい手はないか……」とぶつぶつ呟いている。
盛り上がった空気が一機に冷める。
あぁ、僕が話しをふったために、可哀そうなことをしたな……。
しょうがない。
ここはひとつ、適当にアイデアを言おう。
「あの、私から一つ提案が」
「あ、どうぞ。青木さん」
腕組みしていた、鈴谷さんが言った。
僕は話し出す。
「BL祭りやりましょう!」
結城さんは泣きそうな顔を上げた。
僕は続ける。
「男子生徒が進んで参加するように、学校対学校のバトル形式にするんです。これなら男の子もよろこんで参加すると思います。ほら、男の子は競うの好きだから」
僕はウインクする。
鈴谷さんと結城さんは顔を見合わせて、なるほどと表情を明るくする。
「BLカップルで、美映留高校と美映留学園のどちらの学校のカップルがいいかで戦うようにします」
鈴谷さんと結城さんは、うんうん、と頷いている。
「そうすると、こちらの美映留女子の生徒さんは見るだけで、3校一体感がでないですよね?」
結城さんはだまって、頷く。
「なので、審査員は、こちらの生徒にやってもらいます」
結城さんは顔を明るくする。
いつのまにか、先生と大村さんも、うんうん、頷き始める。
僕は続けた。
「と、なると、会場をどこにするかですが……それは、こちらの女子校で行います。もちろん、3校の中心でアクセスがいいという意味もありますが……」
鈴谷さんと結城さんは、夢中になって僕の話をきいているようだ。
目をキラキラさせている。
「男の子なら女子校は憧れのはず。なので、BLカップル出場の特典で、こちらの学校に来れる、女子校に入れる、というのです。そうすれば、BLカップルの応募者を増やせるのではないでしょうか?」
しばらく間があった。
そして、拍手が巻き起こった。
僕はその拍手で、はっ、とした。
もしかして無責任に適当なことを言ってしまったのではないか? ということにようやく気が付いたのだ。
BL祭りなんて、僕にとっては危険極まりない。
でも、後の祭り。
やっぱり、やめましょう、と言う機会は逸してしまった。
結城さんは両手を合わせ、僕を崇拝するように言った。
「青木さんってカッコいいです。男の子の気持ちもわかるんですね」
鈴谷さんも僕の顔を見て、
「ほんとうに、青木さんってすごいな。最初から、只者じゃないって思ってたんだけど。あはは」
と笑いながら言った。
そして、一同落ち着いたところで、鈴谷さんは言った。
「それでは、青木さんのBL祭り開催案で異論はありますか? 無いようなので決定します!」
再度、拍手がおきて閉会となった。
先生は、「いい会合でした」と総括をして退席した。
僕も帰り支度をしようとしたとき、結城さんが近づいてきた。
「あの、青木さん、そのお願いがあるんですけど」
「なんでしょう?」
「わたしに、『春乃、愛している』っていってもらないですか?」
「えっ?」
「ああ、ちがうんです。わたし文芸部なのですが、青木さんのイメージで本を書きたいなって思って……」
「そういうことですか。いいですよ」
「お願いします」
少しの間。
「春乃、愛している」
「あぁ」
結城さんは、頬を真っ赤に染め、恋する乙女の目になる。
そのやり取りを見ていた鈴谷さんが言った。
「ちょっと、あたしにも言ってよ、青木さん。『美紀、愛しているぜ』でお願い」
「わかった」
少しの間。
「美紀、愛しているぜ!」
「あーん。やばい」
鈴谷さんは、「あぶなく、青木さんに抱き着くとこだったよ」と言って嬉しそうに笑った。
僕も一緒になって笑った。
なんだろう。
とっても、楽しい。
これって、友達同士の会話そのもの。
僕にとっても、いい時間が過ごせた気がする。
女性恐怖症も和らいだかも……。
それから、二人に、さよならの挨拶をして山城先生と落ち合った。
そして、来た道を引き返す。
山城先生が言った。
「なんか、いい会合だったんだって? 担当の先生が褒めていたよ」
「でも、考えてみると、まずいことになったかも……」
「詳しくは、帰りの道すがら聞くかな」
「はい。でも、先生。大事なこと忘れてないですよね?」
「えっ? なんだ?」
「約束のあれ。保健室に戻ったら……いいですか?」
山城先生は、やれやれ、という顔をした。
「さすが、青山、しっかりしているな……」
それにしても、BL祭り大丈夫だろうか?
僕と雅樹は絶対に出ないようにしないと。
そんな不安を思いつつも、今日のフェラはどんな風にしようかと考えていた。
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