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4-11-4 美映留三校祭(4)

当日。 僕達4人は揃って、美映留女子高校に向っていた。 電車の中。 「ところでよ、女子校ってすごくない? ドキドキしてきたよ」 翔馬が興奮気味に言う。 「たしかに、めったに入れないもんな」 雅樹が答える。 「トイレとか男子用あるのかな」 ジュンが言った。 「そりゃ、先生用とかあるんじゃないのか? なかったら女子トイレ……やべ、鼻血でそう」 翔馬が鼻血を止めるリアクションをする。 「ははは。翔馬はどこかの繁みですればいいんじゃないか?」 雅樹の突っ込み。 「おいおい。それ、絶対につかまるだろ?」 「そうだな。ははは」 僕は、みんなの会話を聞きながら微笑む。 女子校だって普通だから安心して、と言いたいところを、そこはぐっと我慢する。 どうして、めぐむは知っているんだ? と追及されたら面倒だ。 それで、別の話をした。 「ところで、翔馬、可愛い女の子に声かけられたらどうするの? 黒川さんも来ていると思うけど」 雅樹が話に乗る。 「そうそう、美映留女子ってさ、翔馬好みの胸が大きい子が多いって言ってたよな?」 「へぇ、翔馬って胸の大きい子が好みなんだ。そっか、だから大辞典なのか。あはは」 ジュンが笑う。 翔馬が溜まりかねて言った。 「お前たちな! 巨乳好きは否定しないけどな、いまの俺は黒川さん一筋なの! 黒川さんより可愛い子がいるわけないだろ?」 翔馬以外の3人は顔を見合わせる。 そして、同時に言った。 「ごちそうさま!」 会場に到着した。 美映留女子高校の講堂。 扇型の劇場で、高校にしてはすごく立派。 さすが私立のお嬢様学校。 僕達は、ステージ裏の控室で4人集まって談笑していた。 そこへ黒川さんと山城先生がやってきた。 黒川さんが手を叩く。 「さぁ、みんな準備して」 僕達は、上半身裸になる。 ズボンは制服のままでいいらしい。 「どうして、裸なの?」 ジュンが黒川さんに尋ねた。 「いったじゃない。衣装で差が出ないようにするためよ。それ以外に理由なんてないから」 「ふぅん、なるほどね……」 本当のような、うそのような。 「そろそろ、時間です!」 会場係の人から声がかかった。 ステージの袖にやってきた。 ジュンは、幕の隙間から客席を覗いて言った。 「すごい! お客さん沢山入っているよ!」 「本当に?」 僕もジュンの横から覗く。 確かにすごい人だ。 座席は、すべて埋まっている。 立ち見もいるみたい。 ほとんどは、美映留女子の制服。 でも、まばらにうちの制服や美映留学園の制服も混じっている。 ドクン、ドクン。 脈拍が早くなるのが分かる。 顔がこわばる。 考えてみると僕はこんな大勢の前に出るのは初めてだ。 ダメだ、緊張する。 「よっしゃ! 気合い入って来た!」 雅樹が言った。 翔馬も興奮気味にガッツポーズをする。 「やってやるぜ!」 「楽しんでいこうよ」 ジュンが笑いながらたしなめる。 「そうだな。ははは」 翔馬は笑った。 僕は、心臓に手を当てて3人を見つめる。 みんなすごいな。 本番前なのに楽しそう。 こんなに緊張しているのは僕だけ。 羨ましい……。 「さて! 皆さん、これから本ステージでは美映留3校合同による、『キュンキュンボーイズコンテスト』を、開幕いたします!」 司会者の声だ。 「出場者の皆さん、ステージにお願いします」 会場係の人が小声で手招きをした。 雅樹が言った。 「よし、いこうぜ。めぐむ、ほら、手を繋ごう!」 「うん」 僕は差し出される雅樹の手を握る。 大きくて、力強い。 雅樹から伝わった体温で、すこし緊張がほぐれるのがわかる。 そうだ。 僕には雅樹がいるんだ。 一人じゃない。 僕達がステージに入場していくと、会場は割れんばかりの拍手と歓声が上がった。 半裸の男達が、恋人のように指を絡めて手を繋いでいる。 変な光景ではあるけど、この歓声は翔馬や雅樹といったイケメンの存在がそうさせているのかもしれない。 美映留学園の方も、爽やか系、スポーツ系、優等生系と選りすぐりで挑んできている。 会場は、すごい熱気に包まれている。 その中で僕は緊張のピークで、足の震えが止まらない。 「それでは、端から自己紹介と意気込みをお願いします!」 司会者のアナウンス。 僕は、顔を上げれずに足下を見ていた。 雅樹はそんな僕に気が付き声をかけてくれる。 「どうした、めぐむ。緊張しているのか?」 「うん。緊張しすぎて倒れそう」 「そっか、じゃあ、俺に任せておけ。あまり会場を見ないようにして」 「ごめんね。雅樹」 僕達の番が回ってきた。 雅樹はマイクを持って話し出す。 「美映留高校、雅樹です。こっちはめぐむ」 僕は軽く会釈をする。 「まだふつうの友達同士ですけど、このイベントをきっかけに、もっと仲良くなりたいと思っています。な? めぐむ」 雅樹は僕を見て、ウインクをする。 僕は、恥ずかしくなって、腕の当たりを軽くパンチした。 「いてて。あはは。こんな風に、めぐむはちょっとシャイなので、今日は心の扉を開けれるように頑張ります! 応援よろしくお願いします!」 パチパチ。 司会者からコメントが入る。 「ありがとうございます。積極的な雅樹君と照れ屋さんのめぐむ君のカップルでした。初々しくていいですね。さて、めぐむ君の心の扉は開かれるのでしょうか? では、次のカップルです……」 翔馬とジュンの自己紹介の番のようだ。 僕は、相変わらずの緊張で、立っているだけで精一杯。 何をしゃべっているのかちっとも耳に入ってこない。 でも、会場を沸かしているようだ。時より、大笑いが起こっている。 すごいな、翔馬もジュンも……。 「では、自己紹介が終わりましたので、さっそくプログラムを進めていきます。まずは、初級編ということで、付き合ったばかりの二人が徐々に仲良くなっていくきっかけを作ります」 司会者は一呼吸いれる。 「王様ゲームで定番。ポッキーゲームです!」 会場から拍手が起こる。 ポッキーゲームって、両端から食べていって最後にチューするやつだったよね。 雅樹と二人っきりの時にしたかったやつなんだけど……。 でも、こんな人前でなんて、恥ずかしくてできないよ。 係の人からポッキーが配られた。 雅樹が僕に言った。 「めぐむ。まだ、緊張している?」 「うん……それに恥ずかしいよ」 「大丈夫。二人だけしかいないと思って、俺だけを見ていなよ」 「わかった。そうする」 「ほら、ポッキーを咥えて。少し食べたら目をつぶって待っていて」 「うん」 僕は、ポッキーを少しかじって目を閉じる。 ポリポリ。 雅樹が、食べる音。 近づいてくる。 ドキドキ。 雅樹の気配。 唇が触れる。 そして、重なる。 柔らかい。 あぁ、キス、しちゃった。しかも人前で。恥ずかしい。 ん? あれ? 雅樹の唇と僕と唇はくっついたまま。 どうして離さないの、雅樹? 長くない? 雅樹、もういいよ。 離れて。 「あっと、雅樹めぐむペア、熱いキスです。なんとまだキスしています!」 司会者のアナウンスが耳に入る。 観客席からは、僕達をはやし立てるような言葉。 いいよー! もっともっと! あついよー! ひゅー、ひゅー! 僕は、カーッっと顔が熱くなった。 きっと、まっかっかだ。 もう、はずかしい! 僕は、目を開けて雅樹を突き飛ばした。 「うわ!」 雅樹は大袈裟に転がる。 そんなに強く押してないよ。 もう、わざとらしい……。 僕は唇を拭う仕草をした。 「もしかして、雅樹君とめぐむ君は、初キスだったのでしょうか?」 司会者からの問い掛けに雅樹は無言で、うんうん、と頷いている。 会場からは、おめでとー! 雅樹くーん、の声がかかる。 「よかったですね、雅樹君。これで、めぐむ君とは、友達以上の関係になれたのではないでしょうか! あっと、そして、翔馬ジュンペアもすごいぞ! ジュン君が積極的に翔馬君の唇を奪いに行った!」 ジュンくーん、ジュンくーんの声援。 ジュンもすごい。 この会場の雰囲気の中でもぜんぜん平気なんだ。 僕は本当にすごい友達をもったな、と改めて思った。 「さて、初キッスで友達を卒業できたカップルも多いのではないでしょうか? 次は、すこしスキンシップをとって身も心も仲良くなっていきましょう。ペアダンスです!」 スローバラードの曲が流れはじめる。 サックスの甘いメロディー。 会場からは、落ち着いた拍手が起こる。 雅樹は目を閉じて曲調を耳に入れている。 そして、リズムを取り始めた。 どんなダンスが合うのかイメージしているようだ。 雅樹は目を開けると僕に言った。 「めぐむ、チークダンス踊れる?」 「映画とかで見たことはあるけど……」 「右手をだして」 「うん……」 僕は右手を伸ばす。 雅樹は優雅に僕の手を受け取ると、そのまま優しく繋ぐ。 雅樹のもう一方の手は僕の腰に置いた。 急に触られて、ビクッとする。 「めぐむ、左手を俺の肩に」 「こう?」 「そう」 僕の体と雅樹の体が密着する。 雅樹とダンスだなんて、映画の主人公とヒロインみたい。 あぁ、心臓がどきどきする。 僕は、ステージにいることを忘れかけた。 雅樹は頬を近づけて僕にささやいた。 「あとは、僕に合わせて、体をゆらせればいいから」 「うん、わかった」 雅樹は、ゆったりとしたペースでステップを踏む。 僕は、踊り方なんてわからないけど、体を雅樹に預け、できるだけ寄り添う。 密着した雅樹の体。 あったかい。 あぁ、雅樹と一つになったみたい。 ダンスってこんなに気持ちがいいんだ。 「いいぞ、めぐむ」 「なんか、ドキドキするけど、たのしい」 「だろ? 俺もだ」 そこで、司会者のアナウンスが耳に入った。 「雅樹めぐむペアは優雅なチークダンス。素敵です! おっと、よく見ると雅樹君、めぐむ君のお尻をいやらしくナデナデしている。これは、果敢に攻めています!」 えっ? そう言われてみると……。 さっきまで腰にあった雅樹の手が、いつの間にか、僕のお尻の位置にある。 会場からは、キャーという嬉しそうな悲鳴や、雅樹くーん、もっとーとか、声が投げかけられる。 もう、注目を浴びているじゃん! 「雅樹。ちょっと、止めてよ! 恥ずかしいよ!」 僕は振り払おうとするけど、一向にやめない。 僕は、雅樹の手を振り払い、お尻に当てた手の甲をつねった。 「いたた!」 雅樹は、また、大袈裟に転げまわる。 そして、ごめんなさいのリアクションをとる。 司会者は、待ってましたと言わんばかりにコメント。 「あぁ、やはり、めぐむ君に怒られてしまいました。残念、雅樹君! めぐむ君の機嫌を損ねてしまったようです。しっかり、謝りましょう!」 会場からは、爆笑が起こる。 司会者は、別のカップルのコメントを始めた。 僕は、雅樹の手を取り起き上がらせる。 「もう、雅樹ったら。調子に乗って」 「ははは。ちょっとはパフォーマンスもいるだろ?」 「それは、分かるけど……でも、それ以上に楽しんでない?」 「バレたか? ははは。でも、翔馬とジュンはすごいな、あんなダンスしているぞ」 僕は雅樹に言われて、雅樹とジュンの方を見た。 確かにすごい。 翔馬がジュンを軽々持ち上げて、すこしアクロバティックなダンスを披露している。 翔馬もジュンも楽しそうないい笑顔だ。 かっこいい。 翔馬はともかくとして、正直、ジュンがこんなに度胸があるとは思ってもみなかった。 ジュンすごいよ。 僕は、観客になった気分で小さく拍手をした。

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