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4-11-5 美映留三校祭(5)
「はい、ではすっかり仲良くなってきたところで、中級編。ここからは愛を深めていきます!」
会場がざわざわする。
「後ろからのハグです! お互いの愛を確かめ合ってください!」
拍手と歓声が上がる。
うんうん。
お客さんの気持ち、僕もわかるよ。
後ろからのハグはドキドキする。
そんな僕を見て雅樹が言った。
「めぐむ、だんだん緊張は解けてきたみたいだね。ちょっと楽しそうだ」
「うん。ふふふ。もう、雅樹の変なパフォーマンスのお陰かな」
僕は、微笑みながら皮肉っぽく言った。
雅樹も微笑み返してくれる。
「よかった。でも、無理しないでな」
「ありがとう、雅樹」
雅樹は、僕の手を取る。
「じゃあ、めぐむ、この辺で目を閉じていて……」
「うん、わかった」
僕は目を瞑る。
後ろから、雅樹の気配を感じる。
抱き着かれるのがわかっているのに、なんで、こんなに緊張するのだろう。
あぁ、雅樹。
いつでもいいよ。
突然、ぎゅっと抱きしめられた。
あん。
やっぱり、胸がキュンとする。
僕は、雅樹の手に自分の手を添える。
雅樹が頬が僕の頬にふれる。
嬉しい。
僕は、頬ずりをした。
雅樹は僕の耳元でささやいた。
「めぐむ、頑張っているからご褒美な」
「えっ?」
そのまま、雅樹は僕の耳たぶをはむっと咥えた。
あっ。
だめ、感じる。
ゾクゾクっと体が震える。
「だっ、だめ、感じちゃうよ。知っているでしょ? 僕が耳弱いの」
息が、耳にかかる。
「だから、ご褒美なんだろ? めぐむ……」
あぁん……。
「やめてよ、雅樹、みんな見ている前で……」
「だめだ、止めない」
はぁ、はぁ。
僕は、息が荒くなる。
「やだ。恥ずかしいよ……」
少し意識が遠くなりそうなのを、司会者の声で引き戻される。
「雅樹めぐむペアすごい! ハグからの耳たぶへの執拗な愛撫! めぐむ君、気持ちよさそうに喘いでいます。でも……」
僕は、恥ずかしくて、すでに雅樹を突き飛ばしていた。
「ああ、やっぱり、めぐむ君に怒られました。でも、めぐむ君もすこし心を許し始めているようです。感じているのか目がとろんとしています!」
キャー、めぐむくーん、かわいい!
そんな歓声が聞こえる。
はぁ、はぁ。
もう、司会者の人。
変なこと言わないでよ、恥ずかしいなぁ……。
僕は両手で顔を隠した。
司会者のアナウンス。
「さて、次はもっと愛を深めます。正面からバグ。そして首筋へのキス!」
巻き起こる歓声。
しかし、ステージの出演者からは、少しづつパスの手が上がり始める。
たしかに、気持ちは分かる。
ポッキーゲームのキスなら遊び感覚でできるけど、首筋へのキスともなると、本当に好きじゃないと抵抗がある。
大丈夫かな? と思って翔馬とジュンの方を見た。
二人楽しそうに話をしている。
どうやら、やる気のようだ。
こころなしか、ジュンは顔を赤くして、興奮気味。
去年のイケメン祭りもそうだったけど、ジュンはお祭り好きだから、こういったのは平気なのかもしれない。
雅樹は、少しテンション下げ気味の声で言った。
「めぐむ、どうしようか? 俺達はやめておく? 俺、恥ずかしいし……」
へぇ、雅樹が?
意外だ。
雅樹も恥ずかしいってことがあるんだ。
僕は頷く。
「うん。そうだね。やめよう」
「オーケー」
なんだ、雅樹も意外と繊細なんだ。
さっきまで僕に恥ずかしい思いをさせて喜んでいたくせに。
ちょっと、拍子抜け。
と、思ったけど。
雅樹も無理して頑張っていたのかもしれない。と思い直す。
だって、頼まれた仕事だからそれなりに結果をださないといけないし、何より役立たずの僕を引っ張っていかなくちゃならなかった訳だし……。
ん?
ちょっとまてよ。
それはそうと、こんな弱気な雅樹は珍しい。
いじるチャンス!
ふ、ふ、ふ。
僕の中で意地悪な心が芽生え始める。
僕は、雅樹に心にもないことを言った。
「雅樹、僕やっぱり、やりたいな。やろうよ!」
「えっ? まじで? 恥ずかしくないの?」
「もちろん、恥ずかしくなんてないよ。あーあ、やってほしかったのになぁ……」
雅樹の顔をうかがう。
うしし。
困った顔!
そして、僕に言う。お願いだからやめよう! って。
そうしたら、しょうがないって頭を撫でてあげる。
でも、雅樹から返って来たのは意外な言葉。
「そうか、じゃあ、しよっか?」
「えっ?」
僕は驚いて声を上げる。
雅樹は、すぐさま僕の腕を半ば強引に引き寄せると、自分の胸に押し当てる。
「ちょっと、まってよ、雅樹! 恥ずかしいんじゃないの?」
「ぜんぜん、恥ずかしく無い。だって恥ずかしいって、嘘だから。あははは」
「あっ! 騙したな!」
「めぐむがしてと頼むんだからしょうがないな」
雅樹は、そのままぎゅっと僕を抱きしめる。
きつい。
両腕ごとだから、身動きが取れない。
僕は抜け出そうともがく。
「めぐむ。好きだよ」
えっ?
こんな時に、ずるい。
雅樹は、僕の力が緩んだすきに、僕の首筋に、ちゅっ、っとキスをした。
そして、舌を出してペロリと舐める。
あっ……。
声がでる。雅樹の舌が、ツゥーっと首筋を這う。
あん。だめ……。
気持ちよくて、息が荒くなる。
「だめ、感じちゃうよ、はぁ、はぁ」
あごが上がり、頭が後ろに仰け反る。
司会者のアナウンスが聞こえる。
「あっと! 雅樹君、期待を裏切らない積極的な攻めだ! 今度は、さすがにめぐむ君も感じている。さぁ、心を開くか?」
会場の注目を浴びているのがひしひしと伝わる。
恥ずかしいけど、気持ちがよくて抗うことができない。
雅樹は、僕の首元に舌を這わせながら言った。
「せっかくだから、サービスしちゃおうかな」
「はぁ、はぁ、なに? サービスって」
雅樹は舌をそのまま下へ這わして、僕の胸まで来た。
まさか!?
雅樹はいたずらっ子のように、ニヤッと笑い、僕の乳首をペロリと舐めた。
あっ……。
そんなぁ、だめ。
そして、ちゅぱっとしゃぶった。
体に電気が走り、背筋が弓のようにしなる。
「そこだめ、雅樹、だめって!」
「ん? めぐむのここ。立っているよ」
れろれろと乳首の先をいやらしく舐める。
会場からは、キャーとか、わぁーとか、なんだかよくわからない声が飛び交っているようけど、僕はそれどころではない。
雅樹の攻めに耐えるので精いっぱい。
気持ちが良くて意識が遠のく。
ダメだ。
こんな人前で気持ち良くなっては……。
僕は、もっとして欲しい気持ちを振り切る。
「やだ!」
僕が付き飛ばすと、またもや、雅樹は大袈裟に転がった。
ここで、ようやく司会者のアナウンスが聞こえた。
「はぁ、はぁ、いやー、びっくりしました。雅樹君、我慢できずに焦ってしまったようです。目の保養、いや目を覆うような場面でした。オホン」
「さぁ、いよいよ、上級者編です。ここでは育んだ愛を確かめ合ってもらいます!」
会場がざわつく。
「ここからは、難易度が高いですので、チャレンジするカップルは手を挙げてもらいます」
雅樹が僕の顔を見る。
「難易度が高いってよ。俺たちじゃ、駄目かもな?」
僕は怪しげな目つきで雅樹を見る。
「ねぇ、雅樹。目がキラキラしているんだけど?」
「ははは。バレたか。ちょっと楽しみだな」
「二人で一緒にソフトクリーム舐めです!」
司会者の説明だと、同時に舌を出し合って舐めるようだ。
雅樹は、腕組みをした。
「なるほどね。さすがにちょっと過激だよね」
「うん。だって舌と舌が触れるもんね。ディープキスみたいなもんだもんね」
司会者はステージの参加者を見回す。
「さて、挑戦するカップルはいますでしょうか? あっと、翔馬ジュンペア、参加でしょうか?」
僕は驚いてジュンの方をみた。
ジュンが、飛び跳ねて、はい、はい。と手を挙げている。
それを、翔馬が止めているようだ。
よく見ると、ジュンは、興奮状態だ。
あれ? まさか……。
僕と雅樹は顔を見合わせた。
翔馬フェロモン!
きっと、そうだ!
ずっと、半裸の翔馬とキスしたり、抱き着いたり、体を合わせたりしたんだ。
翔馬の男の魅力にとりつかれたに違いない。
僕は、あちゃーと額に手をついた。
翔馬に止められ、ジュンは不服そうな態度だったが、そのまま翔馬に抱き寄せられるとおとなしくなった。
それにしてもすごいな、翔馬のフェロモン……。
司会者の声に、いくつかのカップルが手を挙げたようだ。
「他にはいませんでしょうか? はい、そこ! 雅樹めぐむペア。我らが雅樹君。頑張ってください!」
拍手と同時に、雅樹くーん、頑張って!の声。
えっ?
僕は驚いて、横で手を挙げている雅樹をみる。
「ちょっと、雅樹。さすがに、これはまずいよ!」
「どうして? 触れないように舐めればいいんじゃない?」
雅樹は、さも当たり前のように答えた。
「ああ、なるほど。さすが、雅樹」
「だろ? せっかくソフトクリーム食べれるのにもったいない。ははは」
それにしても、雅樹を応援する声をよく耳にするようになった。
司会者も、雅樹びいきだし……。
いつの間にか、会場を虜にしているんだ。
さすが、僕の雅樹だ。
僕は、そっと雅樹の顔を盗み見てほくそ笑んだ。
係の人からソフトクリームを渡された。
僕は舌なめずりをして言った。
「美味しそう!」
「本当に!」
雅樹が受けあう。
「じゃ、僕は上から舐めるね。雅樹は周りからね」
「オーケー」
司会者の開始の合図で、一斉に舐め始める。
ペロペロ。
「うーん。美味しい」
「美味しいな」
僕達は順調にソフトクリームを舐めていく。
でも、他のカップルたちは開始直後から続々とギブアップしているようだ。
照れてしまったり、笑って吹き出してしまったり、舌同士の絡みに我慢できなかったり。
その辺、僕達は変に意識することはない。
ソフトクリームを純粋に食べたいだけ。
半分ぐらい舐めたところで、司会者の声が耳に入った。
「さて、残ったカップルは、雅樹めぐむペアのみ。順調にソフトクリームがなくなっていきます」
僕達は、ソフトクリームをいかに早く口に入れられるか、それこそが勝負になっている。
ペロペロ。
「雅樹、息があたるんだけど!」
「こっちだって、めぐむの息があたっているぞ!」
ペロペロ。
「ちょっと、雅樹。いま、雅樹の舌がふれたよ!」
「そんなの、こっちだって触れたぞ!」
ペロペロ。
「あー。もう、雅樹。残りは僕がたべるよ!」
「ずるいぞ! 俺だって食べたい!」
ぴちゃ、ぴちゃ。
「あん、ちょっと、雅樹、舌絡めないで……」
「めぐむこそ……」
いつの間にか、相手の舌についたソフトクリームを舐めはじめる。
司会者は、僕達の舌の絡みに見入っていたようだ。
「……オホン。すごい光景です。雅樹めぐむペア、これは、もうディープキス? なのではないでしょうか?」
あれ?
もしかして、これってキスにみえるの?
急に恥ずかしくなって、舌をひっこめた。
雅樹は、へへーん、と勝ったぞの表情をすると、最後のコーンをパクっと口に放り込んだ。
悔しいけど、それ以上に恥ずかしい。
会場からは、二人すてきー! とか、もっとキスしてー! とか冷やかしの声が聞こえる。
たかがソフトクリームを食べるのにちょっとムキになっちゃった、かな……。
僕は、勝ち誇って得意げな雅樹を恨めしそうに見つめた。
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