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4-12-1 同好会活動!(1)

お昼休み。 僕は、ジュンと談笑していた。 最近の流行ネタは、先生同士の恋ばな。 どうやら、古文のマドンナ先生に、物理の真面目と、英語のムッツリが求婚をしていると言うのだ。 「僕は、ムッツリだと思うな。マドンナ先生って、面食いって聞いたもん」 僕は、意見を言う。 ジュンは、物知り顔で指を振る。 「いやいや、多分真面目で決まり。だって、お金たんまり溜め込んでいるらしいよ」 「へぇ、それは手堅いね」 「でしょ? でも大穴はね」 ジュンは、得意げに言った。 「山城先生!」 「ぶっ!」 僕は、思わず吹き出す。 「そっ、それは無いんじゃない?」 「いや、めぐむは山城先生推しだから、否定したい気持ちってのは分かるけど……。マドンナ先生の山城先生を見る目がさ。あれは、恋する目と言うか肉食獣の目だよ」 「肉食獣って……」 確かに、山城先生は生徒達には男女を問わず絶大な人気を誇る。 だから、年の若いマドンナ先生も、僕達と同じように心を寄せるのは十分あり得る。 でも、山城先生には美人のアキさんって恋人がいる。 だから、その恋が実る可能性は薄い。 あぁ、この事をジュンに言えないのがもどかしい。 「そんなわけだから、山城先生が今後どう絡んで来るのか楽しみだね。ふふふ」 僕は、そうだね、と笑いながら答えた。 と、いうことでこのネタはしばらく楽しめそうだ。 受験勉強ばかりだと、単調な日々が続く。 なので、こんな噂話が楽しく仕方ない。 そこへ教室の扉付近にいたクラスメイトから声がかかった。 「ちょっと! 青山君、1年生が来ているよ」 「はーい!」 誰だろう? 1年生というと図書委員の後輩かも知れない。 僕は、急いで教室を飛び出して廊下に出た。 そこには意外な人がいた。 一見して怖い顔。 巨漢が僕を見下ろす。 普通だったら縮こまってしまうだろう。 でも僕は、普通に見上げて言った。 「ああ、松田君。久しぶり!」 「お久しぶりっす! 会長!」 周りにいた人が一斉にこちらを振り向く。 学校最強1年生として有名人の松田君が、『会長』と言いながら僕に頭を下げるのだ。 こんな、シチュエーションは普通じゃない。 僕は、慌てて松田君の手を引いてツカツカ歩き出す。 「ちょっと、そういう言い方、やめてよ! 人がいるから」 「あっ、すみません。会長!」 「もう!」 中庭まで来た。 花壇の縁に座る。 ここなら、周りに聞かれる心配はない。 僕は、松田君に話しかける。 「松田君、柔道部はどう?」 「まずまずっす」 柔道部は3年生が引退し、2年生を中心とした活動に移行している。 あの事件以降、山城先生の計らいで松田君は柔道部に入部した。 先生としては、柔道部を立て直す狙いだろうけど、松田君としては、先生の頼みを聞くのは本懐なのだろう。 2年生は、揉め事の多かった3年生が引退して、伸び伸びとしているようだ。 松田君が言うには、いい雰囲気で練習に打ち込んでいる、とのこと。 柔道部の近況を聞いたところで本題に移る。 「ところで、僕に何の用事?」 松田君は、背筋をピンと伸ばしてあらたまる。 コホンと咳払い。 そして、言った。 「俺、山城先生に告白したんですよ」 「おー、凄い!」 僕は、思わず声を上げた。 男らしい。 さすが、松田君。 でも、山城先生は、彼女、いや彼氏がいるからな……。 僕が口を出すようなことではないけど、ちょっと可愛そうに思う。 松田君は、話を続ける。 「そうしたら、既に付き合っている人がいるって言われて……」 「そっか」 山城先生ならキッパリ言うだろうな。 僕は、松田君の肩をポンっと叩く。 「残念だったね」 と言おうとして僕の言葉は遮られる。 「俺は、別に構わないって言ったんですよ」 「えっ? どういう事。山城先生に、他に好きな人がいるのにいいの?」 僕は、驚いて問い直す。 「そりゃ、俺を好きになってほしいですけど、少しでも気にかけてくれるだけでも俺は嬉しいっす」 何とも健気。 思わず抱きしめたくなる。 「ふーん。そうなんだ……」 松田君は、明るく言った。 「なので、せめてと思って弟子にしてもらいました」 「おー、よかったじゃない!」 弟子とは古風だけど。 まぁ、松田君らしいと言えば松田君らしい。 僕も何だか嬉しい。 「そういう関係も良いよね!」 「へへへ。まぁ、そうですね」 松田君は、嬉しそうに頭を掻いた。 「弟子なら、お側付きって事だよね? 山城先生の側に居られるのは良かったね」 松田君は、深くうなづく。 「ええ、あんなに凄い人なんだ。恋人の2、3人いたっておかしくない。俺は、そのうちの1人に加えてくれるだけで満足です」 ちょっとニュアンスは違うけど、本妻に対して、妾みたいに思っているようだ。 いや、松田君の場合、正室に対して側室かな。 僕は、卒直に感想を述べる。 「そんな風に考えられるって凄いね」 「そうっすか? 愛する人が何を求めていようが、それを全てひっくるめて愛していますから」 「なるほどね。そんな愛し方もあるんだ」 僕が感心していると、松田君は照れながら言った。 「主君に仕える騎士のようなもんですよ。へへへ」 「ああ、なるほどね。じゃあ、手柄を立てたらご褒美が欲しくなったりしそう。なんてね。ははは」 「そうです! まさに、それが相談なんです!」 「へ?」 松田君は、話し始める。 「俺、先生のお言いつけ通り、柔道部に入って、新人戦でも活躍したんですよ」 「うん」 これは、僕でも知っている。 ここ数年来の快挙とうたわれる。 松田君が、相手校の選手をバッタ、バッタと投げ飛ばし、次は全国大会か! というところで惜しくも敗退。 でも、松田君の名は学校中に鳴り響いた。 「だから、山城先生のもとに行って、『ぜひ、ご褒美を下さい』ってお願いをしたんです」 「へぇ、褒美をね。それで?」 「そうしたら、『俺はお前を家来にしたつもりはない』って言うんです。酷くないですか?」 松田君は、不満をあらわにした。 ただでさえ、怖い顔がさらに怖くなる。 ああ、松田君を怒らせたら僕は生きてないだろうな。 そんな風に思って、目を逸らす。 それにしても……。 確かに、松田君の功績からして何らかのご褒美や労いがあっても良さそうだ。 弟子だから、師匠の言う事を聞いていればいい、というのは、ちょっと酷。 僕は、松田君に同情して言う。 「うんうん。弟子だったら、ご褒美ぐらいは欲しいよね」 「はい。それで、お願いなのですが、どうか山城先生へ口添えをお願いしたいのですが」 「口添え? どうして僕に?」 突然の依頼でビックリした。 松田君は、僕の顔をまじまじと見つめる。 「いや、なんとなく会長の言う事だったら、聞く耳を持ってくれそうな気がして……」 「そっ、そんな風に見える?」 僕は、焦りながら言う。 まさか、僕と山城先生の秘密を知っている? とか……。 「はい。もしかして、青山先輩って山城先生の恋人の一人かもって疑ぐったりしています。すみません」 松田君は、そう言って頭を下げた。 「もう! 冗談はやめてよ。ははは」 って、ちょっと鋭い。 恋人じゃないけど、ペニスを舐められ舐める仲。 これは、どんな関係なんだろう? エッチするわけじゃないから、まぁビジネスパートナーって感じかな。 でも、他人から見たら、恋人に見えちゃうかもな……。 「松田君。わかったよ。とりあえず、山城先生にはそれとなく聞いてみるから。ほら、頭を上げてよ」 「まじっすか? 是非、お願いします! 会長!」 僕は、『会長』の部分は無視して、「任せておいて!」と自分の胸をポンと叩いた。

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