37 / 60
4-13-1 雪月風花(1)
紅葉が美しい季節。
僕は、教室から外を眺めて、秋色に色付く街並みに見とれていた。
ジュンが後ろから声をかけてくる。
「めぐむ、やっと中間テスト終わったね」
「うん。ジュンはどうだった?」
「ふぁーあ。まぁまぁかな。めぐむは?」
ジュンは、あくびをしながら言う。
「僕も、まぁまぁかな」
僕は伸びをする。
ジュンは、帰り支度をしながら言った。
「明日はどうするの?」
中間テストの後は、授業は休みになるのだ。
「明日はのんびりして、また受験勉強かな」
「そうだよね。学校のテストなんて息抜きみたいな物だもんね」
「ふふふ。言えてる」
「じゃあね、めぐむ。お先!」
「またね、ジュン」
僕も帰り支度をする。
雅樹は、明日も予備校だったかな。
昇降口で靴を履き替える。
そのとき、スマホに連絡が入った。
僕はメールを読む。
『めぐむさん。お久しぶりです。すみません、突然のメール。ご相談がありまして、お会いできないでしょうか? 久遠』
久遠さん?
すごい、久しぶりだ。
僕はすぐに返信を送る。
『いいですよ。明日でしたらいつでも』
着信音。
『ありがとうございます。では、明日午前10時、待ち合わせ場所は……』
久遠さんか……。
そうだ。
前に会ったときは、確かゴールデンウィーク。
キスしちゃったんだよな。
ふふふ。
久遠さん、元気かな。
『分かりました。では、明日』
僕は返信を送る。
しばらくして、着信があった。
『できれば、女装で来て頂けないでしょうか?』
女装?
ああ、そっか。
僕の女装写真を見せたんだっけ……。
もしかして、久遠さん、僕の女装姿に惚れてしまったとか。
そんなことを思って、勝手に頬が熱くなる。
ふふふ。
でも、そんな訳はないか。
だって、ユヅキさんのことが好きなんだもんね。
本当に写真通りなのか、興味があるのかもしれない。
よーし。
それなら、気合を入れて久遠さんを驚かせてやろう。
女装も久しぶりだからちょっと楽しみ。
『いいですよ』
僕は、そう返信をすると、ウキウキしながら、家路についた。
次の日。
僕は、待ち合わせ場所の、美映留中央のとある喫茶店に向かった。
久遠さんと会うんだ。
ちょっと落ち着いたファッション。
ニットに、チェックのミニスカート。
タイツを穿いてショートブーツ。
あとは、寒いかもしれないからストールを羽織ってきた。
うん。
これなら、久遠さんみたいな大人の人と一緒に歩いてもおかしくないはず。
待ち合わせの喫茶店に入ると、窓際の席にいる久遠さんを直ぐに見つけた。
僕は、早足で近づく。
「久遠さん、お久しぶりです……」
そう言ってから、久遠さんの横にいる人物の姿が目に留まる。
「えっと、そちらの方は……」
「お久しぶりです、めぐむさん」
久遠さんは、隣の人物を紹介する。
「めぐむさん、ユヅキです」
隣の人物、ユヅキさんはお辞儀をする。
「はじめまして、雪月 です」
えっ?
雪月さんって、あのユヅキさん?
久遠さんの思い人の?
僕は、頭の中を高速回転させる。
そうだ、この人が、ユヅキさんなんだ。
それにしても……。
ああ。
なんて、綺麗な人。
男の人だよね?
華奢な体つきで、線が細い。
小顔だけど、可愛いというか凛とした男性の顔。
そうだ、宝塚の男役、といったらイメージが合う。
「はじめまして、青山 恵です」
僕もお辞儀をした。
久遠さんの話を聞いた。
あの後、直ぐにユヅキさんに連絡を取って、今では、ちょくちょく会うようになったとのこと。
久遠さんは、僕の手を握る。
「本当に、めぐむさんに勇気をもらったおかげです!」
「そっ、そんな……」
僕は、照れて頭を掻く。
「めぐむさん、本当にありがとうございました」
ユヅキさんも僕のもう一方の手を取り言った。
久遠さんは言った。
「めぐむさん、写真より、お綺麗ですね」
「そっ、そうですか? ありがとうございます」
「めぐむさんは、本当に男性なんですか?」
ユヅキさんが言う。
最高の誉め言葉に、僕は思わず口元が緩む。
「はい。ちゃんと、ついています!」
冗談っぽく言ったつもりだったけど、ユヅキさんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
しまった……。
口を押える。
この人は大人だけど、純粋な人なんだ。
僕は申し訳なく思って反省した。
しばらく、久遠さんとユヅキさんの話を聞いていた。
ユヅキさんは僕の想像通り。
大人しくて、優しそうな性格。
でもしっかりしていて芯は強そうな人。
笑顔が可愛くて、僕もキュンとしてしまうほど。
なるほど、この笑顔に久遠さんは、参ってしまったんだ。
僕は、心の中でほくそ笑む。
話が途切れた。
久遠さんは、ユヅキさんに目でサインを送っている。
ユヅキさんは口を開いた。
「あの、お願いがあります。めぐむさん」
改まった口調に、今日、ここに呼び出された本題だと予感した。
「はい」
僕は、気を引き締めた。
ユヅキさんのお願いは、女装を教えてほしい、ということだった。
最初、僕はあっけに取られた。
でも、話を聞いているうちに、なるほどと思うようになった。
どうやら、ユヅキさんは、まだフーカ君とは会っていないらしい。
それで、どうやって接すればいいかを二人で相談したところ、ユヅキさんは新しいお母さんになったらどうか、ということになったのだ。
でも、女装なんて、どうすればいいのかわからない。
そこで、僕の出番。
女装が得意な知り合いがいたことに気づいた久遠さんは、僕に連絡した。
ということだ。
「でも、ユヅキさん。たまにの女装ならいいですけど、お母さん替わりといったら、ずっとですよ」
「はい。覚悟はできています!」
真剣な目つき。
きっと、何度も話し合った結果なのだろう。
そして、私生活を犠牲にしても久遠さんを愛している。
そんな覚悟の上なんだ。
「今日は、買い揃えたものを一式もってきています」
ユヅキさんは、大きな紙袋を指さす。
久遠さんが言った。
「今日、フーカが小学校から帰ってきたとき、ユヅキを紹介しようと思っています。めぐむさん。これから、一緒に僕の家に来て、ユヅキの女装を手伝ってもらえないでしょうか?」
「それは、いいですけど……」
中央駅の駐車場から車に乗り込み、久遠さんの家に向った。
ユヅキさんは初めて来たようだ。
なんだか、そわそわして落ち着かない様子。
そんなユヅキさんに、久遠さんは優しく声をかける。
「大丈夫だよ、ユヅキ。今日からここが君の家になるんだ」
「ええ、でも……」
「フーカの事かい? 大丈夫。フーカは君の事を気にいると思う」
「ありがとう、徹さん……」
二人は固く手を握り合っている。
うん。
こう見ると、とってもお似合いのカップル。
別に女装なんてしなくても……。
「めぐむさんも早く入って」
「はーい」
僕は、二人の後について家に入った。
ともだちにシェアしよう!