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4-13-1 雪月風花(1)

紅葉が美しい季節。 僕は、教室から外を眺めて、秋色に色付く街並みに見とれていた。 ジュンが後ろから声をかけてくる。 「めぐむ、やっと中間テスト終わったね」 「うん。ジュンはどうだった?」 「ふぁーあ。まぁまぁかな。めぐむは?」 ジュンは、あくびをしながら言う。 「僕も、まぁまぁかな」 僕は伸びをする。 ジュンは、帰り支度をしながら言った。 「明日はどうするの?」 中間テストの後は、授業は休みになるのだ。 「明日はのんびりして、また受験勉強かな」 「そうだよね。学校のテストなんて息抜きみたいな物だもんね」 「ふふふ。言えてる」 「じゃあね、めぐむ。お先!」 「またね、ジュン」 僕も帰り支度をする。 雅樹は、明日も予備校だったかな。 昇降口で靴を履き替える。 そのとき、スマホに連絡が入った。 僕はメールを読む。 『めぐむさん。お久しぶりです。すみません、突然のメール。ご相談がありまして、お会いできないでしょうか? 久遠』 久遠さん? すごい、久しぶりだ。 僕はすぐに返信を送る。 『いいですよ。明日でしたらいつでも』 着信音。 『ありがとうございます。では、明日午前10時、待ち合わせ場所は……』 久遠さんか……。 そうだ。 前に会ったときは、確かゴールデンウィーク。 キスしちゃったんだよな。 ふふふ。 久遠さん、元気かな。 『分かりました。では、明日』 僕は返信を送る。 しばらくして、着信があった。 『できれば、女装で来て頂けないでしょうか?』 女装? ああ、そっか。 僕の女装写真を見せたんだっけ……。 もしかして、久遠さん、僕の女装姿に惚れてしまったとか。 そんなことを思って、勝手に頬が熱くなる。 ふふふ。 でも、そんな訳はないか。 だって、ユヅキさんのことが好きなんだもんね。 本当に写真通りなのか、興味があるのかもしれない。 よーし。 それなら、気合を入れて久遠さんを驚かせてやろう。 女装も久しぶりだからちょっと楽しみ。 『いいですよ』 僕は、そう返信をすると、ウキウキしながら、家路についた。 次の日。 僕は、待ち合わせ場所の、美映留中央のとある喫茶店に向かった。 久遠さんと会うんだ。 ちょっと落ち着いたファッション。 ニットに、チェックのミニスカート。 タイツを穿いてショートブーツ。 あとは、寒いかもしれないからストールを羽織ってきた。 うん。 これなら、久遠さんみたいな大人の人と一緒に歩いてもおかしくないはず。 待ち合わせの喫茶店に入ると、窓際の席にいる久遠さんを直ぐに見つけた。 僕は、早足で近づく。 「久遠さん、お久しぶりです……」 そう言ってから、久遠さんの横にいる人物の姿が目に留まる。 「えっと、そちらの方は……」 「お久しぶりです、めぐむさん」 久遠さんは、隣の人物を紹介する。 「めぐむさん、ユヅキです」 隣の人物、ユヅキさんはお辞儀をする。 「はじめまして、雪月(ユヅキ)です」 えっ? 雪月さんって、あのユヅキさん? 久遠さんの思い人の? 僕は、頭の中を高速回転させる。 そうだ、この人が、ユヅキさんなんだ。 それにしても……。 ああ。 なんて、綺麗な人。 男の人だよね? 華奢な体つきで、線が細い。 小顔だけど、可愛いというか凛とした男性の顔。 そうだ、宝塚の男役、といったらイメージが合う。 「はじめまして、青山 恵です」 僕もお辞儀をした。 久遠さんの話を聞いた。 あの後、直ぐにユヅキさんに連絡を取って、今では、ちょくちょく会うようになったとのこと。 久遠さんは、僕の手を握る。 「本当に、めぐむさんに勇気をもらったおかげです!」 「そっ、そんな……」 僕は、照れて頭を掻く。 「めぐむさん、本当にありがとうございました」 ユヅキさんも僕のもう一方の手を取り言った。 久遠さんは言った。 「めぐむさん、写真より、お綺麗ですね」 「そっ、そうですか? ありがとうございます」 「めぐむさんは、本当に男性なんですか?」 ユヅキさんが言う。 最高の誉め言葉に、僕は思わず口元が緩む。 「はい。ちゃんと、ついています!」 冗談っぽく言ったつもりだったけど、ユヅキさんは恥ずかしそうに頬を赤らめた。 しまった……。 口を押える。 この人は大人だけど、純粋な人なんだ。 僕は申し訳なく思って反省した。 しばらく、久遠さんとユヅキさんの話を聞いていた。 ユヅキさんは僕の想像通り。 大人しくて、優しそうな性格。 でもしっかりしていて芯は強そうな人。 笑顔が可愛くて、僕もキュンとしてしまうほど。 なるほど、この笑顔に久遠さんは、参ってしまったんだ。 僕は、心の中でほくそ笑む。 話が途切れた。 久遠さんは、ユヅキさんに目でサインを送っている。 ユヅキさんは口を開いた。 「あの、お願いがあります。めぐむさん」 改まった口調に、今日、ここに呼び出された本題だと予感した。 「はい」 僕は、気を引き締めた。 ユヅキさんのお願いは、女装を教えてほしい、ということだった。 最初、僕はあっけに取られた。 でも、話を聞いているうちに、なるほどと思うようになった。 どうやら、ユヅキさんは、まだフーカ君とは会っていないらしい。 それで、どうやって接すればいいかを二人で相談したところ、ユヅキさんは新しいお母さんになったらどうか、ということになったのだ。 でも、女装なんて、どうすればいいのかわからない。 そこで、僕の出番。 女装が得意な知り合いがいたことに気づいた久遠さんは、僕に連絡した。 ということだ。 「でも、ユヅキさん。たまにの女装ならいいですけど、お母さん替わりといったら、ずっとですよ」 「はい。覚悟はできています!」 真剣な目つき。 きっと、何度も話し合った結果なのだろう。 そして、私生活を犠牲にしても久遠さんを愛している。 そんな覚悟の上なんだ。 「今日は、買い揃えたものを一式もってきています」 ユヅキさんは、大きな紙袋を指さす。 久遠さんが言った。 「今日、フーカが小学校から帰ってきたとき、ユヅキを紹介しようと思っています。めぐむさん。これから、一緒に僕の家に来て、ユヅキの女装を手伝ってもらえないでしょうか?」 「それは、いいですけど……」 中央駅の駐車場から車に乗り込み、久遠さんの家に向った。 ユヅキさんは初めて来たようだ。 なんだか、そわそわして落ち着かない様子。 そんなユヅキさんに、久遠さんは優しく声をかける。 「大丈夫だよ、ユヅキ。今日からここが君の家になるんだ」 「ええ、でも……」 「フーカの事かい? 大丈夫。フーカは君の事を気にいると思う」 「ありがとう、徹さん……」 二人は固く手を握り合っている。 うん。 こう見ると、とってもお似合いのカップル。 別に女装なんてしなくても……。 「めぐむさんも早く入って」 「はーい」 僕は、二人の後について家に入った。

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