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4-15-1 イブに会おうよ(1)

12月も半ば。 家ではほとんどの時間を勉強に費やしていた。 今日も夕ご飯とお風呂を済ませて、机に向かう。 勉強の方は順調に進められていると思う。 でも、カレンダーを見る度に、ため息が出ちゃう。 クリスマス。 去年も一昨年も雅樹と一緒に出かけた。 でも、今年は……。 受験生にはクリスマスなんてない。 そんなことは、分かっているんだ。 でも、雅樹と一緒に過ごしたい。 クリスマスパーティーなんて大ごとじゃなくていいんだ。 ちょっと会って話すだけでいい。 二人っきりで。 「そういえば、あれ以来ロクに話をしてないなぁ……」 僕は、勉強の手を休め、ホットココアを口に運ぶ。 ホッと息を吐く。 学校ではクラスが違うとなかなか会えない。 せめて、同じクラスだったら少しは話が出来たのに。 学校帰りに話しかけようとしても、雅樹はそのまま予備校に行ってしまう。 この間の模試の結果で雅樹は少し弱気になっていた。 でも、もういつもの頑張り屋の雅樹に戻っているはず。 きっと、集中して勉強に専念している。 頑張っているんだ。 そんな雅樹に声をかけるのは気がひける。 「あーあ。何か、いいきっかけが欲しいなぁ」 次の日。 学校で、いつものようにジュンとご飯を食べていると、珍しい人物から声をかけられた。 「こんにちは、青山君、相沢君」 「こんにちは、黒川さん」 僕とジュンは黒川さんに挨拶を返した。 「ちょっと、青山君。放課後、話があるんだけど、時間取れないかな?」 僕とジュンは顔を見合せる。 なんか、嫌な予感がする。 「僕だけ?」 「ううん。あと、高坂君もなんだ」 「へぇ、雅樹もか……」 ジュンは小声で僕に言った。 「また、美映留三校祭みたいな話かもよ? 嫌ならちゃんと断わりなよ」 「うん、分かった。ありがとう」 僕も小声で返した。 そっか。 雅樹もか。 ジュンが言う通り、黒川さんの話というのは大体想像出来る。 雅樹と一緒というのなら、前にやったモデルのような依頼なのだろう。 それでも、心がワクワクしてくる。 雅樹と会えるから。 やった! 僕はそんな気持ちはおくびにも出さずに答えた。 「黒川さん、分かったよ。どこに行けばいい?」 その日の放課後。 僕と雅樹は美術準備室に来ていた。 雅樹は僕の姿を見ると、嬉しそうな顔をする。 「めぐむも呼ばれたっていうからさ。つい、予備校サボって来ちゃったよ」 「実は僕も。雅樹に会いたくて」 僕も正直に話す。 「そっか。同じだったか。ははは」 「うん。一緒だね。ふふふ。ところで、勉強の進み具合はどう?」 雅樹は自分の胸を叩く。 「それが、絶好調。めぐむに励まされてからというもの、やばいくらいに頭にスッと入ってくる。俺、天才かも!」 「本当? それは良かった。安心したよ」 「あの時は心配かけて悪かったな」 「ううん。でも、本当に良かった」 二人で和やかに話していると、黒川さんが冊子のような物を持って現れた。 「ごめんね。待たせちゃって。高坂君、青山君」 そう言って、パイプ椅子に腰を下ろした。 「さてと、さっそく、二人に来て貰った訳なんだけど」 「モデルとかはやらないぞ。勉強で忙しいからな」 雅樹は先に答えた。 雅樹も僕と同じような想像をしていたようだ。 黒川さんは手を横に振る。 「違う、違う。ちょっと許可を欲しいのよ」 「許可?」 今度は僕が質問する。 「うん。年末に漫画の創作イベントがあるんだけど知っている?」 僕と雅樹は首を横に振る。 「そこに出展する事になってね」 「へぇ、それはすごいですね」 イベントに出展か……。 文化部の楽しいところって、そういう場でお披露目出来るところなんだろうな。 頑張った成果を大勢の人に見てもらい、反応をもらえる。 才能がある人達って、本当に羨ましい。 黒川さんは続ける。 「でね。許可と言うのは、その漫画のモデルがあなた達二人なのよ」 「えっ?」 雅樹と僕は同時に声を上げた。 「見てもらう方が早いわね。はい、これ」 黒川さんは手に持っていた冊子を一部づつ僕達に手渡した。 僕はペラペラとめくって見る。 えっ、これって。 要は、男同士のラブストーリー。 というか、結構、エッチな内容だ。 雅樹らしい人と、僕っぽい人が裸で触れ合っている。 キスもあるし、その先も……。 見てるだけで、赤面してくる。 僕は、横目で雅樹を見た。 雅樹も食い入るように眺めている。 「これ女子向きだから。男の子には馴染みがあまり無いと思うけど。この手のジャンルは割と人気なのよ」 黒川さんの堂々とした言いっぷりにそんなものかと思ってしまうのが怖い。 「で、どうかな? 一応、苗字は伏せるし、顔も似せてはいるけど写真というほどでは無いからバレないと思う」 ここまで完成度の高い作品。 今更ダメとは言い出しにくいし、何よりここに描かれている雅樹のキャラの絵はすごく魅力的だ。 「僕は別に構わないけど……」 「俺もかな……」 雅樹は、まだ冊子をペラペラめくっている。 黒川さんは、嬉しそうに両手を合わせた。 「そう良かった! 二人ともありがとう」 表紙の絵は綺麗に色が塗られている。 プロのデザイナーが描いた、と言っても驚かない。 そんな出来に仕上がっている。 僕は感心して言った。 「それにしても、絵が上手ですね」 「ありがとう。うちの高校、漫研ないでしょ? だから、美術部が兼ねているのよ。それで、漫画が上手な子も多いの」 「ところで、どうして僕達をモデルにしようとしたの?」 「それはね。この間、モデルをしてもらったでしょ? あれから、部員が漫画にしてみたいって話になって。そうしたら、私も、私も、って。凄い事になっちゃって」 黒川さんは、その時の事を思い出しているのか楽しそうに話す。 「気がついたら、コミケ、いえ創作イベントに出展することになってて」 黒川さんも部員に押し切られた口なのかもしれない。 「そういえば、美映留女子の漫研も出展したいって言ってたな。ほら、美映留三校祭で、あなた達凄かったから」 僕と雅樹は顔を見合わせて苦笑した。 黒川さんは、今日はありがとう、と言うと席を立つ。 「あぁ、そうだ。その冊子、持って行って。ダメなところは早めに言ってもらえれば直せると思うから」 やった! 実は、じっくりと読みたかったんだよね。 雅樹もさっそくカバンにしまっている。 「じゃあ、お言葉に甘えて」 僕は、お辞儀をした。 僕達は、学校を出た。 駅に向かう道すがら、さっそく先ほどの漫画の話をする。 雅樹は、よほど気に入ったのか、いささか興奮気味。 「それにしても、びっくりしたよな! 俺達がモデルの漫画だもん」 「すごいよね。うちの美術部」 「あぁ、モチベーション高いよな!」 「ねぇ、雅樹が結構イケメンに描かれていたね。家でちゃんと読んで見なきゃ」 「めぐむも可愛く描かれていたな。これを見たら許可せざるを得ないと思ったよ。ははは」 僕は、雅樹の笑顔につられて、にっこりとした。 そうだ! せっかく、二人きりなんだ。 あの話をしなきゃ。 僕は話を切り出す。 「雅樹、話変わってもいい?」 「ん? なんだ?」 「あの、本当に迷惑じゃ無かったらでいいんだけど」 「何?」 「クリスマスイブに会えないかなって。あっ。ううん。勉強で忙しいのは分かっているから、無理ならいいんだ」 僕は、そっと雅樹の顔をうかがう。 雅樹は、クリスマスなんて全く頭になかったようだ。 「そっか、もうすぐクリスマスかぁ……」 雅樹は、うーんと唸る。 しばらくして、指をパチリと鳴らした。 「よし! イブは俺の家に来ないか? 一緒に勉強しようよ!」 「えっ! いいの?」 僕は嬉しくて飛び上がりそうになる。 「あぁ、予備校は講座無かったと思うし。家には兄貴がいるかもだけど、まぁいいだろう?」 「うん。やった!」 「そんなに嬉しいか?」 「うん。嬉しい!」 今度は、僕の笑顔につられて、雅樹はにっこりした。

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