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4-15-3 イブに会おうよ(3)
僕と雅樹は、手足を伸ばす。
休憩のひと時。
雑談をしていると、僕はある事に気付いた。
「あれ、ベッドに置いてあるのって、黒川さんがくれた冊子?」
「そう。いつも、息抜きに読むようにしているんだよ。やっぱり、ここに描かれているめぐむって可愛いんだよな……」
雅樹は、うっとりとした表情を浮かべた。
僕は、いそいそとカバンから同じ冊子を取り出す。
「じゃーん! 僕も、持ってきちゃった!」
「ははは、すごいな! 携帯しているとは」
「僕も、勉強の合間に読むんだ。雅樹の絵を見ると癒されるっていうかさ」
「へぇ、でもエッチなやつもたくさんあるよね? それ見ながら、一人エッチしているんじゃない?」
「そっ、そんな事ないもん! 雅樹こそ!」
ドキっとして早口になる。
「俺は良くしてるぜ。特にこのめぐむがメイドのコスプレでよがっている絵が気に入っている」
「ちょ、ちょっと! さらりと言わないでよ。そんなエッチな事。恥ずかしいな!」
「恥ずかしい? そんな訳、あるものか! めぐむの事が好きなんだから、エッチな気持ちになって当然だろ?」
「そうだけど……」
そこまで、はっきり言われると言い返せない。
僕は、言いくるめられたまま、恥ずかしくてうつむく。
雅樹は、冊子をペラペラめくりながら言った。
「ところで、めぐむはどの話が一番良かった? オレ、めぐむ生徒会長を好きになっちゃう、この話が良かったな」
「あっ、それ、僕もキュンときた!」
「おー。気が合うな!」
「えへへ」
僕も冊子を開いて、『生徒会M&M』を見る。
生徒会のお話だ。
僕は、真面目で厳格な会長。
対して、雅樹は、従順な副会長。
副会長は、密かに会長に恋心を抱いてしまい、いつしか我慢できず禁断の愛を燃え上がらせてしまう。
僕は、ここに描かれている会長の気持ちに、自然と感情移入してしまうのだ。
なかなかの名作だ。
雅樹は、提案する。
「ちょっと、二人でなりきって読んでみない?」
「あっ、面白そう!」
僕は、手を叩いて同意した。
『生徒会M&M』のストーリーは、とある高校の生徒会室で繰り広げられる。
雅樹は、声色を変えて本格的に読み上げ始めた。
『会長、オレたち二人っきりっすよね』
『そうだが』
僕も、会長になり切って読み上げる。
雅樹と目が合う。
よし、お互い、気持ちを入れてやろう!
そんなことを、無言で確かめ合う。
『会長、オレ、前から言いたかった事、あるんですけど』
『なんだ?』
『オレ、一目見た時から会長の事……』
『冗談はよしたまえ! 副会長、さっさと書類を片ずけるぞ』
『オレ、本気っす!』
『これ以上私をからかうと怒るぞ!』
『会長!』
漫画のコマは、副会長が会長をガバッと襲うシーンだ。
会長は必死に抵抗する絵づら。
僕は、それをイメージして読み上げる。
『なっ、何をするんだ!』
『オレ、もう我慢できないっす!』
えっ? 何?
読んでいる途中で、雅樹は、いきなり本当にキスして来た。
「うぅ。んっ、んっ、ぷはっ……ちょ、ちょっと、雅樹!」
僕は、やっとの事で雅樹を引き離した。
「はぁ、はぁ、雅樹。本当にキスするの?」
「当たり前だろ? じゃないと、上手く演じられないだろ?」
雅樹は、口を拭いながら言う。
「そういうもんかな……」
「そういうもんさ。さぁ、つづけるぞ、次、めぐむからだぞ」
僕は、腑に落ちないなま、続きを読み始めた。
『やっ、やめないか……いっ、いきなりキスとは』
『どうしたら、オレの愛を受け入れてくれますか?』
『そんなの事。だっ、ダメに決まっているだろ、男同士で……』
『それ、回答になってないっす。オレは、会長の気持ちを知りたいんです』
『あん、急に抱きつくなんて……ダメ……副会長』
雅樹は、漫画の通り僕を抱きしめた。
「もう! 雅樹、いきなり抱き着くなんて……セリフ、読めないよ……」
「いきなりじゃいさ、ほら、次は、そのままお尻を触るからな。ちゃんと、セリフ覚えておかかないと!」
雅樹が指したコマは、副会長が会長に抱きながらお尻を鷲掴みにするシーンだ。
「えっ? ここも本当にするの?」
「もちろん!」
「セリフなんて覚えられないよ……」
僕は、困った顔を雅樹に向けた。
「ははは。俺なんか、何度も読んだから、大体わかるぞ!」
「ぶっ! 雅樹は演劇部にでも入ればよかったんじゃない?」
雅樹は、僕の皮肉にもまったく動じていない。
「それでもよかったかな! ははは。じゃあ、続きいくぞ!」
雅樹は、嬉しそうに笑った。
次のコマに進む。
雅樹のセリフからだ。
『会長って、普段怖いですけど、体、ぷにぷにして柔らかいっすね』
『はっ、恥ずかしい事を言うな。あっ、どこを触っている! お尻を触るな!』
『あれ? 会長、もしかして、感じているんじゃないっすか?』
『なっ、何を! 男同士で』
『もしかして、ココって……』
雅樹は、僕のお尻をいやらしく揉み始める。
僕は、堪りかねて言った。
「はぁ、はぁ、雅樹、ちょっとまって! お尻激しく揉みすぎ!」
「ははは、何言ってるんだよ。そうなっているだろ? ほら」
雅樹は、冊子の絵を指差す。
「だからって……」
もしかして、このまま漫画の通り進むと、まさか……。
「雅樹、次の展開って、このまま脱がされて、その、ごにょごにょって言う展開だけど……」
「ああ、もちろん、同じでいくぞ!」
「えっ、だって……」
「だから、めぐむ! 服は脱いでおこうよ」
雅樹は、ノリノリだ。
目がらんらんとしている。
「脱いでおくって」
「漫画だと、無理やりに脱がすだろ? 実際にはそんなに早くはだめだからさ」
「そんなぁ……」
雅樹は、僕が脱ぐのをじっとまっている。
「もう! しょうがないな……」
僕は、しぶしぶと、ズボンとパンツを脱ぐ。
「よし! じゃあ、次いくぞ。めぐむのセリフからね」
『やめなさい! 副会長。罰をあたえるぞ!』
『えぇ、そんな……もう、こうなったら、やけくそだ! 裸にひん剥いてやる!』
漫画のコマでは、野獣と化した副会長が会長に魔の手を伸ばしている。
『あっ、だめ。やめて、脱がさないで……』
『へぇ、会長のお尻の穴、可愛いっす』
『はぁ、はぁ、見ないで、お願いだから……』
『ちょっと、触ってみていいっすか?』
僕は、演技しながらも漫画の中の副会長のエッチな行為にドキドキしてくる。
いや、それどころじゃない。
雅樹も副会長さながら、僕のアナルを触りだす。
『ダメ! さっ、触っちゃ……あっ、あん』
『おや? 会長、もしかして、アナル、感じちゃってます?』
『感じてなんかない! あっ、やめて、バカ、舐めるな! あん』
雅樹は、僕のアナルをペロペロと舐める。
もう、漫画と現実がごっちゃになってきた。
「はぁ、はぁ、雅樹。もう、やめよう……このままだと本当に気持ちよくなっちゃうよ……」
僕は、体を小刻みに震わす。
雅樹は、ふふふ、とほくそ笑むと平然と答えた。
「いいよ、気持ち良くなって。さあ、指入れるよ」
「えっ?」
「ほら、次は、指を入れる場面だろ?」
確かに、次は指で攻められるシーン。
雅樹は、有無を言わさず、スッと、アナルに指を挿入してきた。
「雅樹、だめ、入ってきた! あーっ」
「ほら! めぐむ、よがってないで次のセリフ」
そんな……このまま続けるなんて。
僕は、雅樹に目で訴えるけど、雅樹は、ダメ、と首を横に振った。
もう! いじわる!
僕は四つん這いの体勢で、喘ぎながら、次のページをめくる。
『あっ、副会長……お願い、指を入れないで……』
『会長、何言っているんだ? エロい顔して、ほら、自分から腰を動かしてみろよ』
『副会長、許して……お願い』
『お願いされてちゃったから、もう一本指を入れるかな』
『そっ、そんな……』
雅樹は、セリフを暗記しているようだ。
冊子を全く見てないでスラスラと言う。
指は、僕のアナルに突っ込みっぱなし。
そして、僕の気持ちいのいいところを執拗に攻める。
そんなことをしたら、駄目なのに……。
『ほら、会長、気持ち良いって言えよ。ほらほら』
『あっ、あっ、こんなことをして、絶対に許さない! あっ、あん……』
『やばい! 会長のアへ顔、可愛いすぎる!』
だめだ……。
本当にだめだ。
僕は、堪りかねて声を上げる。
「あっ、あっ、駄目だよ。雅樹、本当に、感じちゃってる、いっちゃうよ!」
僕は、下半身が熱くなり、ビク、ビクっと痙攣してきている。
「めぐむ、気持ちよくなるの漫画より早くないか? ははは。そら、どんどん攻めるぞ」
「あっ、だめ……本当にだめだから」
よだれが本の上にぽたぽた落ちる。
「次のセリフに行かないと、どんどん攻めるからね。めぐむ」
「あっ、そっ、そんなぁ……」
意識が飛びそうなのを耐えながら僕は続ける。
『何を! 離せ! 離さぬか!』
『会長、実は男同士がいいんじゃ無いですか? こんなにペニスを大きくして』
『あぁ、そこは、やめて、副会長……』
ああ、次は、ペニスを攻められちゃうんだ……。
でも、一向にくる様子はない。
「あれ、雅樹は、僕のペニスは触らないの?」
「ああ、だって、本物のめぐむは、ペニスを触るといけなくなるんじゃなかった?」
雅樹は、ケロっとして言う。
「そっ、そうだけど……触ってくれるほうが、いけなくて良かったかのに……」
「ははは、そうはいかないぞ! しっかりといってもらうから!」
「もう、こんな時だけずるして! 意地悪なんだ!」
「つべこべ言わない! じゃ、次いくぞ!」
雅樹は、舌なめずりをして続ける。
『やめてくださいだろ?』
『あっ、あぁ、やめて……ください。副会長』
『ふふ、会長、本当は感じているんだろ? 本当にやめていいのか?』
『そんな……』
いよいよ、クライマックス。
漫画だとここから更にエスカレートするんだ。
そう、副会長に無理やり挿入されて、快楽の渦に溺れていく……。
ところが、ずいぶんと長い間 。
沈黙。
待っていても、一向に雅樹のセリフがやってこない。
あれ?
続きは?
そういえば、僕のアナルに入っていた雅樹の指も止まっている?
僕は不審に思い、後ろを振り返った。
「雅樹? 次は、雅樹でしょ? どうしちゃったの?」
スー、スー。
雅樹の寝息が聞こえる。
よく見ると、雅樹は僕のアナルに指を入れたまま眠っていたのだ。
僕は、そっと雅樹の指を抜くと、雅樹の腕を優しく下ろした。
「もう、おしまい、かな? ふふふ」
僕は、雅樹の寝顔を覗き込む。
幸せそうな安らかな寝顔。
もう、途中で寝ちゃうなんて……。
クスッ、仕方ないなぁ。
いつも、勉強頑張っているから寝不足なんだよね。きっと。
僕は、雅樹の頭をそっと膝の上に乗せる。
そして、体を屈めて、チュッとキスをした。
会長と副会長かぁ……。
こんな出会い方だったとしても、僕はきっと雅樹の事好きになっちゃったな……うん、間違いない。
すやすや、子供のように眠る雅樹。
僕は、そんな雅樹に独り言を投げかける。
「雅樹、メリークリスマス。受験、頑張ろうね!」
今は、おやすみ。僕の雅樹……。
僕はそっとつぶやいた。
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