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4-18 合格発表

合格発表当日。 「やぁ、めぐむ」 「雅樹、おまたせ」 大学の最寄駅の改札。 僕は、電車を1本乗りそびれて遅れてしまった。 雅樹と落ち合って、一緒に大学へ向かう。 「なぁ、めぐむ。緊張するな」 僕は、雅樹に手を引かれて横断歩道を渡る。 「うん。昨日は緊張してよく眠れなかった」 いまも、緊張している。 他の受験生も大学に向かって歩いている。 少しうつむき加減。 みんな同じ気持ちなのだろう。 雅樹は、緊張している僕を見て、ははは、っと笑う。 「めぐむは大丈夫だよ!」 僕の手をぎゅっと握る。 「でも……」 僕は雅樹を見る。 「俺なんか、やるだけのことはやったから、これでダメでも諦めがつく!」 あの模試の一件以来、雅樹は完全にふっきれている。 いまの雅樹は、すっきりとした顔をしている。 僕達は校門に入った。 人だかりができている一角が見えてきた。 「めぐむ、あそこじゃない?」 「うん」 怖くて、前を見て歩けない。 人だかりまでやってきた。 ボードに合格者が貼り出されている。 僕は、下を向いた。 直視できる勇気が無い。 雅樹が受験番号をブツブツ言うのが聞こえる。 すごいな、雅樹は……。 それに比べて僕はなんて臆病なんだ。 足がすくみ、手の震えが止まらない。 神様、どうかお願いします……。 「あれ、めぐむの番号じゃない?」 雅樹の声だ。 僕は顔をあげる。 雅樹がほら、という指さす方をみる。 あっ、あった! 僕の番号だ。 「俺も、あったぞ。めぐむ!」 雅樹のにこやかな笑顔。 「やったな。めぐむ!」 「うん。やったね!」 僕は、思わず雅樹に抱き着く。 良かった。 本当に良かった。 二人とも合格できたんだ! 雅樹は、にっこりして言った。 「これで、大学でも一緒にいられるな!」 「うん。これからもよろしく!」 僕は、雅樹の手をぎゅっと握って、空を見上げた。 ありがとう……。 僕は、誰にともなくお礼を言った。 周りでも、同じように喜ぶ声が聞こえていた。 僕達は、早速、家に連絡をした。 合格した。 二人で合格したんだ。 徐々に、実感が沸いて来る。 来年からは、晴れて雅樹と大学生活。 ふふふ。 嬉しい。 僕が一人、喜びを噛み締めていると、雅樹が提案した。 「なぁ、めぐむ。大学の近くに下宿するかも知れないから、物件を下見して帰らないか?」 「いいよ! 行こう、行こう!」 僕達は、大学の最寄駅の商店街を歩く。 来年からは、お世話になる街。 そう思うと、どのお店も一度入って品揃えを確認したくなってしまう。 我ながら気の早い事だ。 不動産屋さんはすぐに見つかった。 ガラス窓には、物件がずらりと貼ってある。 僕達は、順繰りに確認していく。 うーん。 相場は大体分かった。 思ったより高い。 雅樹もそう思っているようだ。 顔が険しい。 一人暮らしだと、ワンルームが精一杯といったところ。 「意外とするなぁ……」 雅樹はぼやく。 でも、もしかしたら、これが二人一緒の新生活の始まりになるかも知れない。 僕は、ふつふつとテンションが上がって来るのを感じた。 ああ、雅樹と一緒に暮らすのって、どんな感じだろう。 目を閉じると、直ぐにモヤモヤがやってきた。 「ただいま。あれ? めぐむ、早かったね」 雅樹の声が玄関から聞こえる。 僕は、パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関に向かう。 「お帰り、雅樹! 今日の夕ご飯は、僕の当番だから早く帰って来たんだ。ちょっと張り切っちゃった」 雅樹は靴を脱いで部屋に踏み出す。 僕は、雅樹の鞄を受け取る。 雅樹は、僕の姿を見て驚いた様子。 「めぐむ! その格好、すごいな!」 「ふふふ」 僕は、雅樹がそろそろ帰ってくるのを見越して、予め裸エプロンになっていたのだ。 「ねぇ、ところで、お風呂もできているよ。あっ、そうだ。ご飯とお風呂どっちにする?」 雅樹は、僕を抱きしめる。 「じゃあ、ご飯かなぁ……」 「もう! 意地悪言わないで!」 僕は頬を膨らませて、雅樹を睨む。 「あはは、うそうそ! もちろん、めぐむ!」 直ぐに僕のお尻を揉み始める。 「あっ、あっ、だめ。気持ちよくなっちゃう」 「いいだろ?」 雅樹はそういうと、僕の唇を唇で塞ぐ。 激しく吸い付く。 んっ、んっ、ぷはっ……。 「雅樹、そんなに激しく吸い付いたら苦しいよ」 「ん? 何が苦しいって?」 はっ! 僕は、一気に現実に戻される。 僕の顔をじっと見る雅樹。 「えっと、その……」 僕が口ごもっていると、雅樹が頷いた。 「確かにな……ワンルームは息苦しいかもな」 ホッ、良かった。 勝手に勘違いしてくれた。 雅樹は、続ける。 「こっちのシェアルームなら、真ん中にリビングが有って良いかもな。4人なら家賃はかなり抑えられそう」 「シェアルームかぁ……」 再び僕はモヤモヤの中に飛び込む。 ルームメイトの双子は、今日は帰りが遅い日だ。 僕と雅樹はリビングのソファで二人だけの時間を楽しむ。 「賑やかなのも良いけど、二人っきりって良いよな、めぐむ」 ルームメイトの双子は人懐こくて、いい子達。 難を言えば、少し雅樹に好意を寄せている点。 「うん。ねぇ、雅樹。ちょっと、くっついても良い?」 「ああ、いいとも。おいで」 僕は、雅樹に飛びつく。 そして、ギュッと抱きしめる。 「雅樹、大好き」 「俺も大好きだよ。めぐむ」 僕は、雅樹に頬擦りして、そのまま唇を軽く合わせる。 そして、ねっとりと雅樹の下唇を甘噛みする。 プルンとした感じ。 唇同士が、くっついては離れて、またくっついては離れる。 そうする度に、ぴっちゃ、ぴっちゃといやらしい音を立てる。 僕は、甘えるように雅樹の唇を人差し指でなぞる。 ああ、なんて心地いい甘い時間。 ゆっくりと時間が過ぎていく。 雅樹と目が合う。 雅樹の優しくて穏やかな表情。 僕だけに見せる心から安心した顔。 トクンと胸が高鳴る。 はぁ、雅樹、愛してる。 その時、玄関から大きな音が聞こえた。 バタンと扉が閉まる音。 「あれ、二人とも何しているの?」 「もしかして、キスしてたんじゃないでしょうね」 ああ、まずい。 ルームメイトの双子が帰ってきてしまった。 僕は、慌てて取り繕うが、タッチの差で間に合わない。 「ちょっと! めぐむ、抜け駆けは良くないよ!」 「そうだよ! 僕達だって、雅樹くんの事が好きなんだから!」 二人は、雅樹に飛びつく。 「おいおい、お前たち、重いって!」 雅樹は、両の手で双子を一人づつ抱える格好になった。 あっ、僕の雅樹が……。 僕も、雅樹に飛びつくけど、二人にはねのけられてしまう。 「痛ったーい!」 「めぐむの番は終わり! 僕達の番!」 僕が尻もちを付いている間に、双子は雅樹の唇の取り合いをし始める。 ちゅっぱ、ちゅっぱ。 雅樹も、シェアルームなのだから仕方ないと諦めている様子。 やめて! 雅樹は僕のもの。雅樹をシェアするつもりなんて無いんだから! 「でも、シェアするってのも気を遣っちゃうか……」 はっ! 雅樹の声で意識が戻る。 ふぅ。 嫌な妄想だった……。 「そうだよ! 雅樹! 絶対にシェアルームなんてダメ!」 「どうしたんだよ、急に?」 「どうもしてないよ!」 ライバルが増えてしまったら大変だ。 「まぁ、確かに、めぐむを好きになっちゃう奴が現れたら大変だもんな……」 「えっ?」 雅樹は、心配そうに僕を見つめる。 もう、雅樹ったら。 嬉しい。 そんな心配してくれるんだ。 僕は、照れ隠しに雅樹の腕のあたりをパンチした。 帰りの電車の中。 雅樹は、早速、一人暮らしの算段を考えているようだ。 顔がにやけたり、困った顔をしたりして忙しい。 クスクス。 可愛い。 でも、こうやって受験勉強以外の事を考えるのって久しぶり。 ついこの間までは、あまりにも必死で今のような開放感を想像も出来なかった。 なんだか夢のよう……。 僕は、言った。 「ねぇ、雅樹。受験が無事に終わったから、デートしようよ!」 「ああ、そうだな。まずは、二人っきりでお祝いしよう!」 「うん! あと、卒業までに高校生でのやり残しを全部しようね」 「そうだな! よっしゃ! 忙しくなって来たぞ!」 雅樹は、目をキラキラさせて、腕まくりをする仕草をする。 ふふふ。 僕は、微笑みで返す。 簡単な道のりでは無かった。 特に雅樹は、僕なんかとは比べようもないほどの努力をしたんだ。 雅樹、よく頑張ったね。 本当におめでとう! 心からそう思った。

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