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4-19-1 高校の思い出 僕達の場所(1)

お祝いデートの当日。 僕は、張り切って、待ち合わせのショッピングモールにやってきた。 ちょっと早くきちゃったかな? 時計を見る。 だいぶ早い。 よし! このまま待っていよう! 行き来する人達を眺める。 あぁ、こうやってここで雅樹と待ち合わせをするのも久しぶりだ。 数か月振り。 なんだか、なつかしい気になってくる。 そして、高校を卒業して大学にいくようになると、さらに足が遠のく。 そう思うと、少し寂しい気持ちにもなる。 それほどまでに、このショッピングモールで過ごした時間は長い。 僕と雅樹の思い出が沢山詰まっている。 そんな思いにふけっていると、僕のスカートの裾を誰かに掴まれていることに気が付いた。 キャッと叫びそうになって思いとどまる。 小さい男の子が僕を見上げていたからだ。 迷子かな? 不安そうな顔をしている。 僕はしゃがみこんで男の子に問いかける。 「迷子になったのかな?」 男の子は、首を横に振った。 じゃあ、どうしたんだろう? 僕は、きょろきょろして、お母さんかお父さんが近くにいないか探した。 とくにそれらしい人物はいない。 「ねぇ、お母さんはどこにいるの?」 僕が話しかけると、男の子は嬉しそうに微笑んだ。 僕はつられて微笑む。 「めぐむ、どうしたんだ?」 後ろを振り返ると、雅樹が僕を見下ろしていた。 僕は慌てて立ち上がる。 「あっ、雅樹。いまね、迷子の男の子が……」 雅樹に説明しようと男の子を指さすと、そこにはもういなかった。 「あれ? どこに行ったのだろう? いまここにいたんだけど……」 「へぇ。まぁ、親のところに戻ったんじゃないのか?」 「うん。そうかも……」 周りを見回しても男の子の姿はない。 そうだね。 お母さんを見つけたのかもしれない。 「さぁ、いこう! めぐむ」 「うん」 僕は、すぐに男の子のことは忘れて、雅樹の腕にしがみ着いた。 あれ? 雅樹が大きめのカバンを持ってきているのに気付く。 「あれ、もってきたの?」 「うん。約束だからな」 「本当にやるんだ?」 僕は笑いながら言う。 「もちろん。ちゃんと勉強もしてきたぞ!」 雅樹はちょっと照れて言う。 勉強ね……。 僕は、雅樹の照れた顔を覗き込んで、エッチ! と笑いながら言った。 「ははは。さ、まずは、フードコートでご飯でも食べよう!」 雅樹は誤魔化すように言った。 フードコートでご飯を食べるのもすごく久しぶりだ。 よく、二人でご飯食べたっけ。 そんな思い出話をしながら、僕達は箸を進める。 女装する前は、手も繋げずもどかしい思いをした。 今は、こうして自由に手を繋げる。 僕は、雅樹と繋いだ手を見つめる。 雅樹は、フードコートを見回しながら言った。 「あぁ、ここも大学に行ったらしばらく来れなくなるな」 「うん。そうだね」 雅樹も、僕と同じように寂しく思っているようだ。 僕は、嬉しくなって雅樹の手をぎゅっと握った。 ご飯を食べ終わり、食器の返却に向かう。 トレーには、レジでもらったサービス券がおいてあった。 「出会った頃はよく集めていたよねサービス券」 「そうだね。まだ財布に残っているけどな」 雅樹は何枚か出して言う。 「そうだな、もうこれもいらなくなるな」 雅樹は、そのまま名残惜しそうにトレーにのせた。 ふと、フードコートの入り口付近で、先ほどの男の子の姿が目に入った。 あれ? 目を凝らして見ると、手を振っている。 誰に手を振っているのだろう? 僕は、きょろきょろする。 もしかして、僕に手を振っている? 僕を呼んでいるのだろうか? 「めぐむ? どうした?」 雅樹の声ではっとした。 「うん、さっきの男の子が……」 そう言いかけてまたしても男の子を見失ってしまった。 おかしいな……。 男の子も気になるけど、せっかくだからと僕は雅樹に提案する。 「ねぇ、雅樹。大学にいったらしばらくここには来れなくなるから、懐かしみながら、ちょっと散歩しない?」 「いいね。映画まで時間あるし」 雅樹は快諾する。 僕は、雅樹の手を引っ張ってフードコートを出た。 最初はドーナツ屋の前を通りかかる。 ここは、雅樹に本気の告白をしてもらったところ。 はっきりと「愛している」と言ってもらった。 目を閉じて、あの日のことを思い出す。 「ねぇ。雅樹。もう一度言ってよ!」 僕は雅樹を見上げて言った。 雅樹は一瞬、何の事だ? と、いう顔をしたけど、すぐに僕の言葉の意味を理解したようだ。 「え、嫌だよ。恥ずかしい……」 雅樹はそっぽを向く。 「ねぇ。お願い!」 お願いしますの手をしてねだる。 雅樹は、チラッと僕の顔を見て、溜息をついた。 しようがないな。 そんな表情をした。 「愛してる」 雅樹は小さい声で言う。 「これでいいだろ?」と、照れた口調。 クスッ。 思わず笑ってしまう。 可愛いんだから、雅樹は! あれ? まただ。 男の子の姿が見えた。 でも、すぐにショッピングモールの人込みの中に溶け込むように消えた。 やっぱり気になる。 「さぁ、雅樹。こっちにいってみようよ!」 僕は、気になって、男の子の方へ雅樹を引っ張った。 ショップが並ぶ通路を進む。 僕達は見覚えのあるショップの前を通りかかった。 「ねぇ、雅樹。このチョーカーをプレゼントしてくれたのここだよね」 僕は、今日しているチョーカーを触りながら言う。 そうなのだ。 初めて女装でデートした時、雅樹はこっそり買って、そしてサプライズでプレゼントしてくれたのだ。 ああ、つい昨日の事のように思い出せる。 雅樹も、ああ、そうだったなぁ、しみじみとつぶやいた。 そして、雅樹は寂しさを吹き飛ばすかのように明るい声で言った。 「そう言えば、またいいチョーカー見つけたぞ。鈴が付いているやつ」 「鈴? それ、猫型ロボットがしているやつじゃあ?」 「ははは。今度プレゼントしたいな」 「ふふふ。似合えばいいけどね」 「絶対に似合うって!」 雅樹は、俺に任せろ、とあごを突きだした。 僕が、そうだね、と雅樹に微笑むと、雅樹は優しい微笑みで返してくれた。 きっと、雅樹が見立てたものだったら、僕に似合うはず。 今までもそうだったし、きっと、これからもそうだ。 ふと、通路の先でまた男の子の影が目に入った。 お母さんを探している? やっぱり、迷子なのかも。 僕達は、男の子の後を追うように歩みを進めた。

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