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4-19-2 高校の思い出 僕達の場所(2)

吹き抜けのエリアを通り、中央出口を出る。 そこには、二人きりになるためによく来た公園がある。 男の子の姿は見えない。 お母さんと会えたのかな? 僕は、男の子のことはスッと頭からどかし、いつも座るベンチに駆け寄る。 「ねぇ、なつかしいよ。このベンチ」 「そうだね……」 3月のぽかぽかの日差しが僕たちを照らす。 ここにもいろんな思い出が詰まっている。 女装での初キスはここだった。 それに、喧嘩の仲直りのキスもここ。 ああ、懐かしいな……。 甘く切ない思い出がいっぱい。 目をつぶる。 またね。 僕は公園に声をかけた。 その後、雅樹の提案で、ゲームセンターのフロアに来た。 ここもよく来たところだ。 ゲームセンターの入り口をくぐる。 このショッピングモールに来たてのころは、コインゲームをよくしていた。 それからも、太鼓のゲームやレースゲームでよく勝負をした。 たくさん笑い、たくさん話をした。 楽しかった思い出ばかり。 ああ、昨日のことのように思い出される。 本当に、このショッピングモールは僕達の遊び場だったんだな、としみじみ思う。 映画館に着くころには、開演時間ギリギリになっていた。 チケットブースを通り抜け劇場に入っていく。 僕と雅樹は席に座った。 今日は、ほのぼのギャグ系の海外アニメ。 「ごめん、今日の映画、僕に合わせてもらって」 「いや、いいよ。俺も楽しみだから」 ああは言っても、雅樹は海外アニメはあまり好きじゃない。 映画が始まる。 雅樹は退屈になると、きまって僕にちょっかいを出してくる。 もう! やっぱり退屈なんじゃん! 繋いだ手を振りほどくと、膝を触り、太ももを撫でる。 それに飽きると、スカートをたくし上げてスッと手を入れてくる。 ちょっと! 僕は、咄嗟にスカートを抑えるけど、雅樹は、構わずショーツの上からあそこをなでなでしてくる。 もう! 僕は雅樹の手をつねる。 そうすると、ササっとひっこめる。 もう、集中して見れないじゃん! でも、こんなじゃれ合いが楽しい。 薄暗くてよく見えないけど、雅樹の顔を伺う。 きっと、いたずらっ子の顔をしているのだろう。 ふふふ。 こんな些細な事も、いつかいい思い出になるんだろうな……。 映画を見終わった後は、レストラン街のラーメン屋で夕ご飯をとることにした。 雅樹の提案だ。 「雅樹は本当に好きだよね。ラーメン」 「ああ、これだけはやめられないな」 「僕とラーメン、どっちが好き?」 「えっ、究極の選択だな、それ……うーん」 「悩んじゃうんだ。ふふふ」 僕は、ラーメンに負けちゃうかな? なんて思っていると、またさっきの男の子の姿。 ちょうど、ラーメン屋に入っていく。 今度こそ! ラーメン屋に入ると、僕はすぐにきょろきょろした。 「めぐむ、どうしたんだ? 何か落ち着きがないようだけど」 「うん。実はさっき言っていた男の子を見かけたような気がして……」 「男の子?」 雅樹は、そう言って店内を見渡す。 そんなに広い店内ではない。 「見間違いじゃないのか? めぐむ」 雅樹は首をかしげる。 「もしかして、幽霊とか? 男の子の」 僕はすぐに否定する。 「でも、悪い感じじゃないんだ。お化けとか妖怪とかじゃなくて……」 雅樹の言う通り、男の子に見えたけど、人ではないのかも。 現れたと思うと消える。 消えたと思うと現れる。 でも人じゃないとすると、なんなのだろう? 「まぁ、めぐむ、いいじゃん。ラーメン食べようぜ!」 「うん。そうだね」 いないものを一所懸命に考えてもしようがない。 僕は、雅樹の後についてテーブルについた。 残念なことに、僕がいつも食べるあっさり味のメニューがなくなっていた。 「あれ? メニュー変わったね」 「確かにな。しばらく来ないうちにリニューアルしたみたいだな」 雅樹も、充てにしていたメニューがなくなっていて、少しがっかりしたようだ。 僕は腕組みをする。 「どうしよっかな……」 定番の醤油にするか、塩で勝負するか。 メニューのサンプルを眺めて唸っていると、雅樹が耳元でささやいた。 「ねぇ。餃子食べていい?」 「いいよ。どうして?」 なにやら雅樹は、もじもじしている。 「ほら、ニンニク入っているから。キスとかさ……」 えっ? 僕は苦笑する。 何をいまさら……。 でも、雅樹はこうゆう変なところを気にするところがあるんだ。 クスクス。 まったく、雅樹は。 食べ終わると、僕と雅樹はショッピングモールの出口に向かう。 卒業までにまだ来る機会はあるかな? そんなことを思っていると、いつの間にか男の子が姿を見せた。 今度は、僕の手をぎゅっと握りしめている。 「ねぇ、雅樹、ほら、男の子……」 「えっ、どこ?」 雅樹はきょろきょろしている。 やっぱり……。 僕にしか見えてないんだ。 男の子は僕を見上げて微笑む。 そっか。 君は、もしかして……。 「ねぇ、雅樹。僕は思うんだ」 「ん? 男の子はいいのか?」 「うん。このショッピングモールって僕達にとってはかけがいのない場所だったって思うんだ」 「ああ、そうだな。僕達が居てもいい場所。まさに俺達の場所だな……」 雅樹の言葉に、僕は手で口を塞いだ。 涙が出てきそうだったから。 僕達が居てもいい場所……。 そうなんだ。 僕達がショッピングモールの入り口を出ると、男の子は手を離した。 僕は振り返る。 男の子は、満面の笑みで、僕に手を振る。 さようなら……。 そう言っているように見えた。 僕は、こらえていた涙が一気に流れ落ちた。 「あれ、あの男の子って一体……」 雅樹にも見えたようだ。 「雅樹、あの子は、ここに住んでいる妖精だよ。きっと」 僕は、嗚咽が出るのを我慢して、声を絞り出す。 「きっと僕達をずっと見守ってくれていたんだ……」 「そっか……きっと、そうだな」 僕と雅樹は、男の子に手を振り返した。 僕は言った。 「ありがとう。僕達に居場所をくれて」 「どういたしまして。これからも、ずっと元気でね……」 男の子は、そう言ったような気がした。 僕と雅樹は、ショッピングモールを離れ中央駅の方へ歩きだす。 僕の涙はもう乾いていた。 目をつぶり、つぶやいた。 「僕達の高校時代は、ここ無しにはあり得なかった。僕達は旅立つけど、ここでの沢山の思い出、幸せな時間を絶対に忘れない」 雅樹もきっと、そう思ってくれている。 だって、つないだ僕の手をぎゅっと握ってくれたのだから。

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