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4-22-1 グランドフィナーレ!(1)

僕は、久しぶりのチェリー公園に胸を躍らせていた。 公園の入り口に差し掛かり、公園内をキョロキョロと見回す。 ああ、何も変わってない。 公園の植え込み、桜の木、ベンチ、遊具の数々。 人気の砂場は今日も親子連れで賑わっている。 僕は、お気に入りのベンチの方へ向かって歩き出す。 すると、目を閉じて気持ち良さそう日向ぼっこをしているシロの姿を発見した。 僕は、嬉しくなって駆け出す。 「やあ! シロ!」 「おう、めぐむか。久しぶりだな。どこに行っていたんだ?」 シロは薄目を開けて、クールにそう言ったけど、口調は嬉しそうだ。 今は、ゴールデンウィーク。 すっかり初夏の陽気で、爽やかで過ごしやすい。 シロの服装も、Tシャツに薄手のジャケット、それにジーンズで、ストリート系ファッションのど真ん中。 うん。 似合っている。 って、僕がイメージした通りだから、そうだよね……。 クスっ。 「なんだ、会って早々にへらへらして気持ち悪いな。めぐむは」 「あ! なんだよ、シロ! 生意気言って!」 僕はすかさず、シロの頭を撫でようとするけど、シロはそれを見抜いて、さっと手で遮る。 「おっと、危ない。ははは」 「ケチ! あはは」 僕は、この春から大学に通っている。 シロと会っていない期間は、まだほんのひと月ぐらいだけど、もうずいぶん会っていない気がする。 シロは、急にまじめな表情で言った。 「病気でもしてたのか?」 「ううん。ごめん、違うんだ。心配させちゃったね」 「しっ、心配なんて、してねぇよ……別に」 シロは、ぷいっと顔をそらしたけど、ホッとした表情。 ありがとう、シロ。 やっぱり、シロ、君は僕の親友だ。 ちゃんと大学の事を伝えてなかったのは僕の落ち度。 僕は頭を下げてシロに話し始める。 「あのね、シロ……」 僕は、シロに大学に進んだこと、そして、引っ越したことを報告した。 シロは、驚いた様子で言った。 「へぇ、そうなのか。どうりで最近見かけないと思ったよ」 「ごめんね。ちゃんと言ってなかったから……」 「なんだ、謝ることないぜ。で、彼氏とはどうなった?」 「うん。いま一緒に住んでいるよ」 僕がそう言うと、シロは目を輝かせた。 「おー。おめでとう! めぐむ! よかったな!」 「うん。シロにはいろいろと相談に乗ってもらったよね」 「俺もめぐむには迷惑かけたけどな。おあいこだろ?」 「ふふふ。そうだね」 シロは、僕と雅樹との事を自分の事のように考えてくれている。 それが、本当にうれしい。 僕達は、二人の特等席のベンチに腰掛けた。 こうやって、シロと座っていると、まだ高校生だったかと錯覚を起こす。 チェリー公園の居心地の良さがそうさせるのだろう。 なんと言っても、僕の一番の憩いの場所だったのだから……。 僕は、シロに問いかけた。 「ところで、クロ君は元気?」 「あぁ、元気、元気。あいつ、ますます可愛くなりやがってさ」 「ぷっ。なにそれ? おのろけ?」 「ちっ、ちがうよ。心配だってことさ」 シロのクロ君へ向けられた愛情は相変わらずのようだ。 何も変わっていなくて、何だかホッとする。 「じゃあ、ちゃんと捕まえておかないとね」 「毎週、会いにいっているよ。変な虫が付かないようにな」 「それだけじゃないでしょ? エッチもしたいんでしょ? クロ君と」 「まぁな。でも、それはついでだ」 シロは、すこし頬を赤らめる。 「照れない、照れない! でも、そうだよね。今日は、実は、僕の今住んでいるところに来てほしいって言いに来たんだけど。やめておくね」 「めぐむ。俺は行ってもいいぜ」 シロは、俺をみくびるなよ、と言わんばかりに躊躇無く言った。 「ううん。シロはやっぱり、チェリー公園にいて。ここは、いろんな思い出のあるところ。その思い出をシロが守っていてよ」 「なんだか、よくわからないけど……分かったよ」 僕は、無意識にシロに右手を握っていた。 シロはそれで、僕の気持ちを察してくれたようだ。 僕にとってどんなにチェリー公園が大事なのかってことを。 「僕も、実家に帰ってくるときは必ずここに立ち寄るからね」 「おう。で、今日は、どこかいくのか?」 僕は、シロのその一言に嬉しそうに答える。 「うん。ちょっとね。久しぶりにみんなと会うんだ。あぁ、楽しみ!」 「そっか。俺もこれから、クロとピクニックにいくぜ!」 シロも嬉しそうに言う。 こんないいお出かけ日和。 猫だってゴールデンウィークはお出かけしたいよね。 僕は、ちょっと意地悪そうに肘でシロをツンツンしながら言った。 「へぇ……ピクニックねぇ。お盛んなことで! ウヒヒ」 「おいおい、変な事を想像するなって……こんないい天気だろ? ちょっと遠出もいいかなって思ってさ」 僕の茶化しに平然と答えるシロ。 へぇ、シロもすこしは、成長したみたい。 僕は、笑いながら言った。 「うふふ。冗談だって! 気を付けてね」 「めぐむもな、じゃあ!」 僕は、ベンチを立ち上がろうとして、はっとして踏みとどまる。 「あっ、ちょっと待って……」 僕は、シロを上目遣いに見ながら、さりげなくシロの頭に手を伸ばす。 「なんだ? って、また頭を撫でるのかよ!」 シロは、文句を言いながらも、今度は僕の差し伸べた手を受け入れてくれた。 そして、僕に撫でられるがままに、気持ちよさそうに目を細める。 ああ、癒される……しばらく、会えないから思う存分味わっておかないと。 シロはしばらくすると、僕の膝に倒れ込み、うつらうつらとうたた寝を始めた。 僕は、そんなシロを愛おし気に見守り、そして、額にチュッと、キスをした。 さて、新しい生活が始まって約一か月。 僕、雅樹、翔馬、ジュンの4人は、久しぶりに会うことになったのだ。 場所は、ここ樹音公園の池の畔にあるリゾートホテル。 どうして、ここで集まるのかというと、理由がある。 雅樹のお兄さん、拓海さんから、ウエディング雑誌の写真撮影があって、それに協力してくれないか? という依頼があったのだ。 要は、チャペルに列席する友人役のバイトだ。 拓海さん自身も頼まれ仕事のようで、雅樹が言うには、別に断ってもいいらしい、とのことだったけど、面白そうだ、という翔馬とジュンの声もあって参加することになったのだ。 久しぶりに会うついでに、少しお小遣いを稼ごう、っていう訳だ。 それで、僕と雅樹は久しぶりに美映留の地に戻ってきたのだ。 バイトの控え室になっているホテルの一室に、4人が揃った。 こうやって揃うのは卒業式以来。 大学生になって、翔馬もジュンも明らかに雰囲気が変わった。 大人の雰囲気……。 僕は、気後れしている自分に気が付いた。 今日のバイトの為に、お洒落なスーツ姿、というのもその要因の一つなのはわかる。 でも、変わってないのは自分だけのような気がしてならない。 そんな僕に、翔馬は肩を組み、ジュンは手を握った。 「おう! めぐむ、元気か?」 「めぐむ! 元気してた? 会いたかったよ!」 という、翔馬とジュンの変わらない言葉に、僕はすぐに元の自分を取り戻した。 「うん! 僕も会いたかった! 二人とも、久しぶり!」 再会の挨拶も早々に、雅樹はすまなそうに頭に手をやりながら言った。 「ごめんな、みんな。付き合ってもらってさ……」 「何言っているんだよ、水臭いな!」 と、翔馬。 ジュンも、「そうそう。ボクはすごく楽しみでさ」と返した。 「そう言ってもらえると、助かるよ」 雅樹はそう言うと、「じゃあ、今日は楽しもうぜ!」とガッツポーズをした。 翔馬、ジュン、そして僕は互いに顔を見合わせると、「おー!」と同じくガッツポーズをした。 集合時間が近づくと、拓海さんが控室に姿を現した。 もう一人男性を連れている。 拓海さんは、まっすぐに僕達のところに来ると声を掛けてきた。 「おー、雅樹にめぐむ。それに、お友達も、今日はありがとう」 「いいえ!」 僕達三人は声をそろえて言った。 一緒にきた男性がお辞儀をしながら言った。 「皆さん、本当にありがとうございます。私、ディレクターの望月と申します」 僕達は、お辞儀を返す。 望月さん。 年のころは拓海さんと同じくらい。 まだ、30前だと思うけど、細身でまじめそうな人。 そんな印象だ。 望月さんは、僕達の姿をパッと見て続ける。 「さすが拓海の弟さんとそのお友達の皆さん。なかなか、美形ぞろい。ああ、すみません。失礼な物言いをしました。こういった写真撮影ですと、映える人を集めるのはなかなか大変でして……ゴールデンウィークだというのにすみません」 僕達4人は、急に美形なんて言葉で褒められて、恥ずかしくなって照れ笑いをした。 雅樹は、代表して答える。 「いいんですよ。集まるついでですから……」 「そう言ってもらえると助かります。では、開始までおくつろぎください」 望月さんは、そう言葉を残し来た方へ戻って行った。 拓海さんは、親指で望月さんを指しつつ、「あいつ、俺の同級生なんだ。助けてやれてよかったよ」とウインクした。 「同級生の方なんですか……」 なるほど。 拓海さんなら、お友達のピンチに駆けつけないわけない。 雅樹と同じ。人の為に頑張れる人。 その手伝いができるのだ。 うん。 このバイトを引き受けて良かった。 僕がそんな事を考えていると、ふと翔馬とジュンの声が耳に入ってきた。 「あの、拓海さん……握手してもらえないですか?」 「ボクも、握手お願いします。お兄さん!」 いつの間にか翔馬とジュンは拓海さんに群がっている。 「えっ? 握手? 俺と? いいけど……」 拓海さんは、困り顔をしながらも、二人の握手に付き合っている。 そして、拓海さんが去っていくと、翔馬とジュンは興奮して言った。 「やべぇ、拓海さんに握手してもらっちゃった……伝説のポイントガード。痺れる!」 「あぁ、雅樹のお兄さんってカッコいいなぁ……片桐先生の次ぐらいにカッコいいかも……」 二人とも、違う意味で目をキラキラさせた。 雅樹は苦笑しながら、「さぁ、そっちのテーブルでゆっくり話でもしようぜ」と、二人を促した。

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