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4-22-2 グランドフィナーレ!(2)
僕達は、サービスの飲み物を手にテーブルについた。
どうやら、撮影開始までは、まだ時間がありそうだ。
僕達は、折角だからと、この合間に近況を話し始める。
まずは、翔馬からだ。
「俺は大学でさ、歴史サークルに入ったぞ。そうしたら、結構女子もいてさ、今度古城めぐりに行くんだよ。めっちゃくちゃ、楽しみ!」
「歴史サークルかぁ、翔馬らしいね」
僕がそうコメントすると、翔馬は、ははは、と微笑む。
ジュンは、
「へぇ、黒川さんとは?」
と、みんなが一番気になることをズバッと質問した。
翔馬は、頭を掻きながら答える。
「じつは、もう少しでオッケーでそう……なんだ」
「やったじゃん!」
ジュンは手を叩く。
おとなしく聞いていた雅樹が、腕組みをしながら質問を投げかける。
「翔馬。でも、その歴史サークルでモテたらやばくないか?」
「まぁ、そうだけどな。でも、一途だからな。俺は」
僕は、思わず言葉に出す。
「相変わらずだね。翔馬。ふふふ」
次に、ジュンが話し始めた。
「ボクは、留学を考えているんだ。できれば秋から」
「えっ? 本当?」
僕は驚いて聞き返す。
「うん。片桐先生が、アメリカの大学に呼ばれていてさ、ボクもついていきたいって考えていて」
片桐先生について行く、ってことか。
なるほど、それなら動機としては十分。
それに、ジュンなら、愛する人の為にアメリカに住む事ぐらい、さほどの苦も感じないだろう。
雅樹は、感心してジュンに尋ねる。
「へぇ。留学とはすごいなぁ、ジュン……ということは、片桐先生とはうまくいっているのか?」
「もちろん! いま、一緒に暮らしているんだ」
今度は、翔馬が「すげぇな、同棲かぁ」と、声を上げた。
ジュンは、ちょっと自慢気にあごを突きだしている。
僕は、微笑みながら言った。
「先生は優しい?」
「うん。とっても。僕は先生に尽くしたいんだ。ボクは見ての通り尽くすタイプだからね」
ジュンは、テヘっと舌を出した。
僕は、笑いながら言った。
「ははは。そうだね」
翔馬は、さてと、と言うと雅樹と僕の顔を見比べた。
「で、お前たちはどうなんだ?」
雅樹は、そうだなぁ、と話し出す。
「めぐむとは大学は一緒だけど学部が違うからな。そんなに一緒にはいないな」
「うん。そうだよね。あまり大学では会えないかな」
僕は同意する。
翔馬は、尋ねる。
「でも、一緒に暮らしているんだろ?」
「一緒といえば、一緒かな……部屋は、別に借りているけど、たいてい雅樹の部屋にいるから」
僕がそう答えると、ジュンが待ってましたと横から入ってきた。
「ヒュー、ヒュー。お熱いね。で、二人ぐらしはどうなの?」
僕がどう答えようか、と困っていると、雅樹が先に答えた。
「いやぁ、めぐむって、料理がうまいんだよ。知っているだろ? でも、作る量が多くてさ。食べるのが大変」
僕は、はぁあ! と思い言い返す。
「大変って……それは、雅樹が足りないっていうからじゃん!」
僕の反論に雅樹は、ちっ、ちっ、ちっ、と指を振る。
「違うぞ、めぐむ。めぐむのご飯が美味しいからお代わりしちゃうわけだろ? 見てくれよ、この腹。すこし、太ってきちまった。あーあ、めぐむのせいだ」
翔馬とジュンは、突然始まった僕達の言い争いにキョトンとした。
僕は、そんな二人に訴えかける。
「ねぇ、二人とも、可笑しいよね? 自分で食べすぎて太っているのに。僕のせいとか」
翔馬もジュンも、どう答えてよいのかわからず無言のまま顔を見合わせている。
雅樹は、ため息をついて、僕の顔を見た。
この分からず屋、と言わんばかりだ。
僕も、引くつもりはない。
雅樹が太ったのは雅樹のせいであって、断じて僕のせいじゃない。
「いや、だから、太るのはめぐむのせいだって。ご飯が美味しいから!」
「ちがうよ、雅樹が食いしん坊なだけだよ! 我慢すればいいじゃん!」
「だから、美味しいから仕方ないだろ。わからないかなぁ!」
「もう!」
僕と雅樹は顔を突き合わせ、一歩も引かない姿勢。
翔馬とジュンは、突然、クスクスと笑い始めた。
そして、大笑い。
お腹を抱えて笑った後は、二人同時にツッコミが入った。
「はいはい、ごちそうさま!」
やっぱり、楽しい。
この4人で一緒にいると、つい時間を忘れてしまう。
あれや、これやを話していて、ふと、「そういえば」と雅樹がつぶやいた。
「なかなか、お呼びがかからないな」
「確かに遅すぎるな……」
翔馬が控室をキョロキョロ見回しながら言った。
僕達のグループのほかにも数人のバイトらしき人達がいるけど、その人達にも動きはない。
「ちょっと、聞いてくるよ」
雅樹は、そういうと、廊下へ向かって歩いて行った。
しばらくして、雅樹が戻ってきた。
拓海さんと望月さんも一緒だ。
望月さんは、額の汗をハンカチで拭きながら言った。
「すみません、皆さん。実は、ちょっとしたアクシデントがありまして……」
どんな、アクシデントなんだろう?
僕は、不安げに雅樹の顔を見た。
雅樹は、コクリと頷く。
雅樹は既に知っているようだ。
望月さんは、続ける。
「新郎新婦役の二人がまだ到着していないんですよ」
「えっ!」
雅樹を除く僕達3人は驚いて声を上げた。
「どうするの? 撮影」
「それじゃあ、今日は中止ってこと?」
「撮影どころじゃなさそうだね」
僕達は思い思いに話し始める。
「今日のバイト代はでるのかなぁ……」
と、ジュンが言ったところで、雅樹が口を挟んだ。
「みんな、聞いてくれ。俺が、新郎役をやろうと思うんだ」
「雅樹が!?」
僕は驚いて思わず叫んだ。
「どうして、雅樹が!? そこまでしなくても」と言おうとしてやめた。
望月さんの表情を見て、そっか、と納得した。
すっかり、憔悴しきっている。
雅樹も、拓海さんと同じ。
人を助けるのに、理由なんていらない。
そうだった。
そんなの、僕が一番よく知っていることだった……。
雅樹と拓海さん、それに望月さんの様子から察するに、既に相談済みなのだろう。
望月さんは、雅樹に申し訳なさげに頭を下げて言った。
「拓海の勧めもあって、雅樹さんに新郎役を引き受けて頂きました。でも、新婦役の方は……」
場の雰囲気は、再び暗くなる。
ウエディングの写真なら、花嫁のイメージは最重要。
花婿と違い、簡単な代役で済まされるわけがない。
やっぱり中止か、という思いが広がった。
そんな、重苦しい空気のなか、拓海さんが僕に言った。
「なぁ、めぐむ」
「なんでしょう?」
「花嫁役、やってみないか?」
「へっ!?」
望月さんをはじめ、皆の視線が一斉に僕に集まった。
「えっ、えっー! 僕ですか!?」
皆は無言のまま、僕を見続ける。
「花嫁って可愛くないと……って、僕は男ですよ!」
冷や汗がどっと吹き出す。
なっ、なんで、僕なんか。
冗談はよしてよ、拓海さん。
ふと雅樹の顔を見ると、大真面目で僕を見つめている。
「めぐむ、やろう! 一緒に!」
雅樹が力強くそういうと、拓海さんは、「決まりだな!」と指をパチリと鳴らした。
拓海さんのその一言で、望月さんの顔は、ぱぁっと、明るくなった。
そして、僕の両手を取って言った。
「ぜひ、お願いします。めぐむさん!」
あぁ……なんてこと。
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