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4-22-5 グランドフィナーレ!(5)
僕が、あっ、拓海さん、と声を上げる前に、雅樹が大声を上げた。
「兄貴! 兄貴、これには訳があるんだ……」
拓海さんは頭をポリポリと掻きながら答えた。
「あー。雅樹。知っているよ。めぐむの事を好きなんだろ?」
「どっ、どうして……」
雅樹は、驚いて目を見開いた。
拓海さんは、得意げな表情を作る。
「俺には全てお見通しだって……」
雅樹は、拓海さんに頭を深々と下げた。
「兄貴、隠してて悪かった。俺、実はずっと前から……めぐむと付き合っていて……」
「ははは。分かっているって! で、お前達、男同士で愛し合う仲なんだろう?」
拓海さんのセリフに、雅樹はさらに驚いた表情を浮かべた。
どうして……。
そんな言葉を言いたそうに口をパクパクさせた。
拓海さんは、こっそり僕に向かって目配せする。
僕は、それを微笑みで返す。
もう、拓海さんは……。
そう焦らずとも、いずれ雅樹は自分で告白するのに。
しょうがないなぁ、と思ったけど、拓海さんは拓海さんなりの考えがあるに違いない。
雅樹は、汗をびっしょりかきながら拓海さんに訴えかけた。
「ああ、そうだ、兄貴……めぐむとは愛し合っている。でも、兄貴! 俺は本気なんだ。遊びとかじゃなくて」
雅樹は、そう言うと、うなだれた。
しばしの沈黙。
その沈黙を破ったのは拓海さんだった。
「雅樹、心配するなって」
「えっ?」
雅樹は、拓海さんの方に向き直る。
何を言い出すのだろう、と緊迫した表情で見守る。
拓海さんは、ふっ、と笑うと優しい表情で答えた。
「俺はめぐむになら、お前を任せられると思っている」
「という事は……」
「ああ、俺はお前達の付き合いに賛成だ。だから、安心していいぞ。お袋達の説得にもちゃんと後押ししてやっから」
「あっ、兄貴……ありがとう……」
雅樹は、ぱぁっと顔を明るくさせたかと思うと、すぐに涙目になった。
そして、歯を食いしばって涙が流れるのを必死に我慢している。
拓海さんは、さりげなく僕の傍らに立つと、耳元でささやいた。
(なっ! めぐむ!)
(はい!)
拓海さんは、目を赤くした雅樹の肩をポンポンと叩く。
そして、僕達二人に向かって言った。
「オホン。まぁ、そう言う事だから、まぁ、予行練習だと思って楽しんでやってくれよ。ははは」
拓海さんは、わざとらしい乾いた口調で言った。
もしかして、拓海さんはこれが言いたかっただけなんじゃあ……?
僕は、そう思ったけど、雅樹の表情がみるみる明るく、そして元気になるのを見て、「さすが拓海さん!」と思った。
さて、熱いキスをしてしまったので、口紅がすっかり落ちてしまっている。
いつもなら、自分のメイク道具でちゃっちゃと直すのだけど、今は道具もないし、なにより撮影に耐えうるメイクをするのは自分では無理だ。
やはり、プロの手を借りなくては。
ということで、雅樹には先にチャペルに行ってもらい、僕はいそぎメイクさんのところへ向かった。
メイクを終え、僕は廊下を早歩きで進み、雅樹を追うようにチャペルに向う。
と、そこへ。僕の名前を呼ぶ声があった……。
「よぉ、めぐむ!」
そこには、シロとクロ君の姿。
「シロ! それに、クロ君、どうしてここに?」
「へへへ。ほら、今朝、ピクニックに行くって言っていただろう? で、来てみれば、見慣れたやつがいるなぁ、と思って。そしたら、なんだ、めぐむじゃないかって」
「へぇ、すごい偶然。シロ達も樹音公園だったんだね。ああ、そうだ。クロ君、久しぶりだね」
「はい、めぐむさん。ご無沙汰しています」
クロ君の格好は、お人形さんみたいなロリータファッション。
男の子だなんて絶対に思えない。
飼い主さんの溺愛っぷりが見受けられる。
もちろん、シロに愛されてどんどん可愛くなっているのもあるだろう。
なるほど。
シロが、クロ君の事を可愛くて心配になるのもうなずける。
そんなクロ君は、僕を見てにっこり微笑むと、礼儀正しく、ペコリとお辞儀をした。
そして、姿勢を戻すと、僕の姿を改めて見つめた。
「めぐむさん、キレイ……」
「あっ、ははは。この格好でしょ? ちょっと、いろいろあってね……」
僕は、ちょっと恥ずかしくなってうつむいた。
「めぐむ」
いつになく、真剣なシロの呼びかけに、僕はドキっとした。
「結婚、おめでとう!」
「めぐむさん、おめでとうございます!」
二人とも、満面の笑みで僕に手を差し出す。
僕は、二人の手を握りつつも、慌てて首を横に振った。
「ちっ、ちがうの! これは、嘘の結婚式なんだ。ちょっと頼まれててさ……」
「は?」
シロは、眉を細める。
「だから、本番前の練習みたいなものなんだよ」
「めぐむ? 何言っているんだ?」
「だから……」
シロはクロ君を見て笑った。
「やれやれ。クロ。めぐむは何もわかっちゃいないみたいだ」
クロ君は、頷きながら僕を見た。
優しい微笑み。
僕は、何のことを言っているのかわからず、首を傾げた。
「えっと……どういう事?」
「なぁ、めぐむ。お前達に、練習も本番もあるのか?」
「!」
「お前達、男同士だろ? そんな舞台を期待してるなんてお前らしくもない」
僕は、シロの言葉に、雷が落ちたかのような衝撃が走った。
シロは言葉を続ける。
「周りを見てみろよ。お前の世話になった人達。その人達が見守り、お前達の立ち会い人になってくれる。それに、この舞台。何処をどう見ても、本番だろ?」
クロ君も大きくうなづく。
僕は、しばらく呆けていた。
ああ、そうだ。そうだよね……。
シロの言う通り。
僕達に練習も本番もない。
今がその時。
僕は何て鈍いんだろう……。
本当に、どうしようもない。
僕は、素直にシロにお辞儀をした。
「気づかせてくれてありがとう、シロ」
「大丈夫だ。幸せになれよ、めぐむ。本当に結婚おめでとう」
シロは、はにかむ笑顔で言った。
ブワッと涙が込み上げる。
「シロ、ありがとう……僕、幸せになるね」
「ああ、そうだな」
シロは、クロ君から離れ、両手を広げた。
僕は、シロに抱きつく。
ありがとう、シロ。
僕の初めての親友……。
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