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scene01-05
が、その言葉は大樹の心には届かなかったらしい。返ってきたのは切なげな苦笑だった。
「友達としてだろ? 男女の関係じゃないんだし、簡単に受け入れられるかよ」
「ち、近すぎて見えないモノだってあるじゃん。いろいろ考えてみたら無自覚に好きだったのかなって……恋愛とかわかんねーけど、今感じてるこれは」
「なあ、誠」大樹が遮る。「ちょうど一年前に先輩から告白されてただろ。実はあのとき聞いていたんだ」
「っ……」
衝撃を受ける。まさか、聞かれていたとは思わなかった。
「そのとき断ってたよな、男同士で付き合うのは考えられないって。だから、答えなんて決まってる」
「い、いや……それはそうだけどっ」
「誠は優しいから、俺のことを傷つけたくないと思っているのかもしれない。けど、好きでもないのに付き合われた方がよっぽど傷つく……やめてくれないか」
(違う! そうじゃないって!)
誠の頭はすっかり混乱していて、いっぱいいっぱいだ。それでも胸の中にある淡い感情を手繰り寄せて、拙くも懸命に伝えようとする。
「確かに、男とかあり得ないって考えてたけどさ。大樹は、その……だ、大樹だろ! うまく言えないけど、男とか幼馴染とか関係なくて、大樹だからっ!」
「無理しなくていいから聞き流してくれ。それで許してくれるなら、今の関係を続けさせてほしい――ある程度、線引きすればあんなことにならないから」
おそらく、彼なりに距離を置くということなのだろう。そのようなことを許せるわけがなかった。
「なっ、なんでそうやって突き放すんだよ。俺、寂しいって言ったよな? 大樹が日常的に、傍にいないとか嫌だっ」
「悪いけど……一度触れてしまったら、自制できそうにない」
「俺、きっと大樹のこと好きだよ」
「軽々しく口にするなよ」
「ほ、ホントに好きだと思う」
「どうせ友情と恋情を履き違えてるんだろ。一時の感情で流されてほしくない。時間を置いて考えれば、間違いだってすぐ気づくはずだ」
こちらの返事など必要としてないことが見て取れる。拒絶されるたび、ままならぬ思いが駆け巡って、なんとも言い難い歯痒さを感じた。
こんなものは自分の性分に合わない。思い立って大樹の顔を両手で掴み、真正面からその切れ長の目を見据えた。
「ちゃんと、俺のこと見ろよ」
胸がうるさいくらいに早鐘を打つ。親の顔ほど見慣れている顔だったが、今は至近距離で見つめるのがやけに照れ臭かった。
でも、と目を逸らさず、
「大樹が好きだ」
言葉の意味を噛み締めるように告げると、大樹の唇に自分のものを押し付けた。
それは一瞬のキスだった。表情を歪ませた大樹が、すぐに突っぱねてくる。
「どうしてそうなんだ! どこまでもバカで考えなしで、正直イライラする!」
「バカだから直感で生きてるし、コレって決めたらどこまでも一直線なんだよ!」
睨み合うも、先に視線を外したのは大樹の方だった。勝ったとばかりに続ける。
「ざっ、ざまーみろ! フツーこんな真似できるかっつーの! そんだけお前が特別だってことだろ!?」
フンッと鼻を鳴らすと、静かに深いため息が返ってきた。蔑むような冷ややかな目で射抜かれて、
「わかってるのか?」大樹が低く言う。
何のことかわからず小首を傾げた次の瞬間、視界が反転してベッドに押し倒された。
あっと思ったときにはもう遅い。誠が着ていたTシャツは容易く捲りあげられ、露わになった胸板に大樹の冷たい手が這っていく。
「俺がしたいのは、こういうこと」
言いながら覆い被さってくる大樹の顔は、どこまでも無表情だった。
しかし、その奥にある葛藤や、戸惑いや、不安……そして何よりも優しい心を、幼馴染の誠が見逃すわけがなかった。
「触ってるなら気づいてるだろ? 今の俺すげードキドキしてる――怖いとかじゃなくて純粋にさ」
口元に小さく微笑みを浮かべて言った。喉はカラカラだし、脈もいつもよりずっと速い――こんな状況だというのに、心の内は驚くほど落ち着いていた。
「……煽るなよ。これでも理性で押し止めてるんだ」
「別にいいよ。大樹にならどんなことされても」
「そんなこと言ってると、本気で抱くぞ」
「お、おう……どうぞ」
「『どうぞ』じゃねーよ、あり得ないだろ。お前の頭はどうなってんだ」
「だってバカだし」
「お前な。さては自分が何されるか、わかってないだろ」
「そ、それくらいわかってるって! アレをアレして、その……お、女の子みたいに突っ込むんだろ!?」
そう口にした途端、ふっと大樹の表情が和らいだ。
「どうしようもないバカだな」
「どうしようもないバカだから、せめて正直でありたいんだよ」
「そんなの昔から知ってるよ……バカ犬」
慈しむように頬を両手で包み込まれる。触れ合った肌を通して、慈愛に満ちた彼の想いが伝わってくるようだった。
視線が絡み、どちらからともなく触れるだけのキスをもう一度交わす。
「誠、本当に……」
いいのか、と揺らぐ瞳が問いかけてきた。返す言葉は一つだった。
「いいよ。俺がお前のことちゃんと好きだって、知ってほしい」
やはり自分はバカで、どこまでも都合よく頭ができているに違いない。
今から己の身に起こる事柄を考えてみたが、目先の顔を見ていたら、許してもいいと――いや、受け入れたいとさえ思ったのだ。
熱に浮かされて妄信していることは否めない。それでも今は、胸に湧き上がるこの感情を信じたかった。
「嫌だったら、いつでもやめるから」
少しの間を置いて、大樹もやっとのことで決心がついたようだ。
部屋の電気が静かに消され、再びTシャツに手をかけられる。それを脱がすと、大樹自身も脱いで上半身裸になった。
(着替えとかフツーに見てきたのに……なんかヤバい)
今さらどうしてと不思議なのだが、肩幅の広い均整の取れた体から目が離せない。己の中で、確実に何かが変わり始めている。
「誠」
名を呼ばれて、そっと口づけされた。
何度か角度を変えて啄むようにキスをしたあと、大樹の柔らかな舌が歯列を割ってゆっくりと押し入ってくる。ビクッと誠の体が小さく震えた。
「んっ……」
口腔を弄るように撫でられ、舌同士が触れ合えば優しく絡めとられる。
真似るようにたどたどしく応えるものの、どうやってもうまくできない自分が恥ずかしかった。
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