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scene05-02
例年どおり学園祭は盛況のようで、キャンパス内は老若男女で溢れかえっていた。
その中を看板とチラシを携えて歩くと、当然のように視線が集中して、みな一様に玲央のことを見た。
ある者はからかうように声をかけ、ある者は物珍しげに写真を撮り、またある者は出し物と交換に連絡先を訊こうとする。
それらを適当にあしらって、キャンパス内を一通り歩き回った頃には、結構な時間が経過していたのだった。
「チラシも無くなったことですし、このあたりで戻りましょうか」
雅の言葉に力なく頷く。
やっとこの姿から解放されると思ったときだった。玲央にとって、懐かしい男の声が聞こえたのは。
「獅々戸! おーい、獅々戸ってば!」
「うげ、椎名。お前もう来てたのかよ」
「『うげ』ってなんだよ、失礼なっ」
声の主は高校時代の友人だった。進路の違いから会うことは減ったものの、こうして学園祭には毎年必ず来てくれる男だ。
玲央の所属学部は女子の比率が圧倒的に高く、同性の友人が少ない。こうして気心知れた同性と話せるのは嬉しいことなのだが、今だけはちょっと複雑だ。
「っべーな、噂で聞いてはいたけどリアルに女装してんのな! マジウケる!」
「バーカ、俺様だって好きでこんなんやってねーわ」
「あははっ、そりゃそうだわな! でも、わりと似合ってんよ?」
椎名がけらけらと笑いながら、スマートフォンで玲央の姿を収めていく。
一方の玲央はというと、後輩もいることだし、申し訳ないが早いところ切り上げたいという気持ちだった。
「椎名、悪ィけどこれから……」
「つーか、この中どうなってんの?」
「っ!?」
ワンピースの裾に手をかけられて、顔が一気に熱くなった。
(ばっ、バカバカバカ! 調子に乗りやがって!)
突然のことに、驚いて固まってしまう。
別に下着を見られるのは構わないし、大したことではない。けれど、衣服をたくし上げる行為そのものが妙にいやらしく感じられて、羞恥が沸き立った。
その間にも、ワンピースを掴んだ手がゆっくりと持ち上がって――と、ここで別の手が伸びてくる。
「すみません」待ったをかけたのは雅だった。「先輩よほど恥ずかしいみたいなんで、そういったイジリやめていただけませんか」
「なんだよ。冗談通じねえなあ」
椎名は不貞腐れたように手を放す。
それから玲央は少し会話を交わして椎名と別れ、ほっと一息吐くのだった。
「悪かったな、藤沢。持ち場戻ろうぜ……って、おい!?」
教室がある方へ歩き出そうとしたところで、グイッと腕を掴まれた。雅は黙って別方向に歩き出す。
「コラ、待てって!」
情けないことに力では振り払えず、引きずられるように足を進めるしかない。
連れていかれたのは、人気のないキャンパス裏――付近の棟は出店がなく、誰も立ち寄ることがないだろう場所――だった。
嫌な予感がして、掴まれた腕をなんとか引き剥がそうと暴れる。が、やはり力負けしてしまい、結果的に両腕とも掴まれて壁に押し付けられてしまう。
「ちょっ……ここ、外っ!」
あっという間に唇を塞がれて、言葉も激しい口づけに沈んだ。唇の隙間から捻じ込まれた分厚い舌が、口腔を蹂躙していく。
理性から抵抗の意思を見せるも、ねっとりと舌を絡められれば体の力が抜けてしまい、されるがままになってしまう。
それに気づいたのだろう。雅は拘束を解くと、唇を浮かして呟いた。
「あの人ズルいです。俺だって、触れたくて仕方ないの我慢してたのに」
「それって……んっ」
雅がまた唇を重ねてくる。息継ぎの間に漏れる吐息が熱くて、彼の心情が胸に入ってくるようだった。
(また矛盾してるだろ)
この男は察していないのだろうか。その感情は“嫉妬”だということに。
男の嫉妬ほど醜いものはない。だというのに、どこか嬉しいと感じている自分がいる――未だ整理のつかない感情が、胸中に渦巻いていた。
「んん……ッ!?」
荒々しいキスを受け入れていると、熱を帯びた硬いものが下腹部に触れた。
あえて当てているとしか思えないものに、飛びかけていた理性が一気に戻ってくる。
「ばっ、バカ野郎! こんなトコで盛んじゃねえっ!」
「だけど、獅々戸さんだって」
言いながら、エプロンドレス越しにやんわりと膨らみを撫でられる。
恥ずかしさに身を離そうとするのだが、抵抗はどうやっても意味を成さないようだった。
「触んなっ! やめっ、ぁ……」
それを服の上から鷲掴みされれば、腰が小さく震え、緩く摩擦されるだけで勃ちあがってしまう。
「ほら勃った。すぐその気になっちゃうんだから」
「や、だから外だって言ってんじゃん……誰かに見られたらどうすんだよ」
「じゃあ、外じゃなきゃいいですか?」
雅が耳朶を食んで舐めあげてくる。甘い刺激に体の芯がじんと疼き、熱に浮かされるかのように玲央は頷いてしまうのだった。
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