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scene05-04 ★
「よくできました――いい子」
雅はすぐには動かず、背中越しに頬へキスしてくる。
ちゅっという甘ったるい音にどぎまぎしてしまい、動揺を隠すように、減らず口を叩くことにした。
「生意気な口の利き方しやがって……つーか、なんでいつも俺がこっちなんだよ。テメェがこっちでもいいじゃねーか」
「その格好で言われても。あとすみません、そっちになるの嫌です」
「バッ……俺だって嫌に決まって、ッ! んあぁっ!」
話の途中で奥を突かれて、大きく喘ぐ。背後でイタズラっ子のような笑い声がした。
「こんなに気持ちよさそうなのに?」
雅は両手で玲央の太腿を掴んで容易く持ち上げると、自身の括れのところまでずるずると引き上げる。
「え、ちょっ」
浮遊感に困惑するのも束の間、持ち上げられた体がズッと降ろされて、内壁を抉られる感覚が襲ってきた。
「ああぁッ……」
喉奥から上擦った声が零れ落ちる。
あれから何度か体を重ねてはいるが、この行為には一向に慣れる気がしない。痛みも、快感も、羞恥も、屈辱感も何もかも。
いろんなものがごちゃ混ぜになって、気づけば涙ぐんでしまう自分がいた。
「あれ、また涙目になってる。なんだか苛めてるみたいになっちゃいますね」
「『みたい』じゃなくって、苛めてんだろーがっ」
「ごめんなさい。嗜虐心って言うんですかね、どうやっても抑えられないです」
「くっ、バカやろ! ん、あぁっ!?」
ある一点を押し上げられた瞬間、今まで感じたことのない快感を得た。
目を見開き反射的に腰を引くも、体の自由はとっくに奪われていて、身動きなど取れやしない。
「や、ぁっ……」
「今のトコ良かったですか? どこだろう、ここかな――」
「ああぁっ……ん、ッ」
敏感に感じる場所をピンポイントで突き上げられて、足先から脳天まで快感が電気のようにほとばしった。
慌てて下唇を噛み締めて嬌声を殺すも、雅はクスクスと笑う。
「ここが、獅々戸さんのいいトコなんですね」
「ん、んっ、んあぁ……っ!」
「体ビクビクさせちゃって……可愛い」
「や、そこばっか、突くなぁ、っ……や、あ、ンッ……」
口を開けば熱っぽい淫らな声が出てしまい、なおのこと羞恥と屈辱感に苛まれて頭がおかしくなりそうだった。
「あっ、ン、やめっ……も、勘弁っ!」
言っても聞き入れてくれないことはわかっていたが、執拗に与えられる快感に耐えられなくなって、みっともなく懇願する。
すると、どういった心変わりだろうか。思いがけず雅が動きを止めたのだった。
「藤沢?」
不安になって振り向くと、雅は意地悪な笑みを浮かべていた。
「どうしたんですか。やめてって言ったのは獅々戸さんですよ」
「ッ!」
確かにそうなのだが、いざ動きを止められると嫌でも思い知らされてしまう。気分はすっかり高揚していて、体も欲情するように疼いてしまう卑しい自分のことを。
「やっぱり、やめてほしくない?」
「わかりきったこと言うんじゃねーよ……」
「じゃあ、俺のこと『ご主人様』って呼んでくれませんか?」
「はあっ!?」
予想だにしなかった言葉に、素っ頓狂な声が出る。
「お約束ですよね? 今日の獅々戸さんはメイドさんなのでご奉仕してもらわないと」
「なっ! このド変態野郎! 最ッ低だなお前!?」
「なんとでも言ってください」
汗ばんだ太腿を撫でられればビクビクと体が震えて、小さく吐息が漏れた。
(よくよく考えたらクソ恥ずかしい格好で……しかも、こんな場所でするとかマジでやらかしてるけどっ、そこまではいくらなんでも!)
つい押し黙ってしまう。恥も体裁もかなぐり捨てて、快楽を選びたい衝動に駆られるも、最後に残った男としてのプライドが邪魔をしていた。
「俺、本当にやめちゃいますよ? 我慢できるんですか? それとも――」
雅はそこで言葉を区切って、
「もう欲しくないんですか?」
ゆっくりと体が浮かされて、体内に入っているものが抜け落ちそうになる。
「や、待っ……」
今にも抜かれそうなものを繋ぎ止めようと、蕾がぎゅっと締まっていた。どうされたいかなんて、もう明白だった。
「なんですか?」
戸惑いつつも、雅の言葉に誘われるようにゆっくりと口を開く。
「……さ、ま」
「なに?」
「ごしゅじん、さま……っ、ああぁッ!」
口にした途端、最奥まで容赦なく突き上げられて目の前がチカチカした。
荒々しく腰を使われ、波のように押し寄せる快感と苦しさに喘ぐ。
「あッ……あぁ、ン、あぁっ」
「俺だってもう限界なんだから、やめるわけないのに……でもすごく嬉しい」
「なっ、ちょ、ばかやろ……っ、あぁ!」
「こんな獅々戸さん、他の人には見せないでくださいね」
「クソッ、この……あっ! ン、あッ!」
言いたいことは山ほどあったが、そのどれもが言葉にならない。がむしゃらにガクガクと揺さぶられて追い立てられていく。
艶めかしい嬌声と肌がぶつかる音が、狭い個室内に響くも、もう気にしている余裕などなかった。
「あっ、あ、ああぁ……っ!」
鋭く最奥を穿たれた瞬間、痙攣しながら熱を吐き出し、また同時に雅も体を強張らせる。
すべて出し切ったところで、ゆっくり息を吐いて呼吸を整えていると、雅が愛おしげに頭を撫でてきた。優しい手つきにまた胸が疼く。
(求められるのが嬉しいとかじゃなくて、なんかもう……これって。野郎同士で、そのうえ変態みてーなことされてるってのに)
「藤沢、あのさ」
「あ、カメラがあるんだから録画すればよかったですね」
「………………」
玲央は何も言わず、雅の手の甲を指で抓った。そういった素質が自分にはあったのだろうかとも思ったが、どうやら春はまだ遠いらしかった。
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