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scene06-02 ★
(なんか重くて冷たい)
沈んでいた意識がふっと浮上した。どうやらいつの間にか寝ていたようだ。
起きなくてはと思うものの、まだ十分に意識が覚醒していなくて体が動いてくれない。
そうこうしているうちに、唇に冷たい感触が降ってきた。ぼうっとしているうちに、今度は温かいものが口内に侵入してくる。
「!?」
そこでやっと目が覚めた。
寝ている間に帰宅していたらしい大樹に口づけられている――突然のことに、心臓がドクンッと飛び跳ねた。
「やっと起きたか」
大樹が冷ややかな目で見下ろしてくる。まだ着替えを済ませていないのか、家を出たときと同じスーツ姿だった。
いつもと違う雰囲気にたじろぐも体が動かず、今になって、覆いかぶさるように馬乗りになられていることに気づく。次々と明らかになっていく事態にどぎまぎしていると、彼は言葉を続けた。
「人のベッドで何してたんだ?」
「へ!? あ、あー、別に寝てただけ……」
思わず視線が泳ぐ。自分がしていた行為を思い出し、あまりの羞恥に顔がじわじわと熱くなっていった。
対する大樹は冷めた顔で何かを掴み、こちらに見せつけるようにしてゴミ箱に投げ捨てた。何かと思えば、先ほどの行為で使用したティッシュだった。
反射的にゲッとなる。捨てるのを忘れて寝てしまっていたらしい。
「あーっ! ちょっと鼻の調子が悪くてっ!」
「後ろめたいことがあるのは見ればわかる。大人しく留守番もできないのか、このバカ犬」
大樹は言いながら、片手でネクタイを緩めて器用な手つきで外した。
ジャケットを脱いで、Yシャツのボタンをいくつか外すと、たくましい鎖骨や胸元が露わになる。その姿に見惚れるのも束の間、誠の視界が閉ざされた。
「な、なに!?」
耳元でシュッという衣擦れのような音がして、頭に軽い圧迫感を感じた。
やや遅れて目隠しされたのだと気づく。布地の感じからしてネクタイだろう。ならば簡単に外せると思い、手を伸ばした。
「外すな」
ところが、誠の両手はひと纏めにされて、頭の上で押さえつけられてしまう。
「なにすんだよ!」
「お仕置き」
「はあっ!?」
片手で押さえつけられているだけなのに、自由が利かない。
ジタバタ暴れるも何ら意味を成さず、着ていたセーターの中に、するりともう一方の手が忍び込んでくる。外から帰ってきたばかりの大樹の肌は氷のように冷たく、寒気立った。
(あ、そこ……)
滑る手が徐々に胸元に上がってくれば、否が応でも期待してしまう。だというのに、
「う……んっ」
大樹の手は焦らすように周囲をつうっとなぞっていくだけで、小さな突起には触れようとしない。
じれったくなって上半身を揺らすと、フッという小さな笑い声が聞こえた。
「ぁ……」
つん、と胸の尖りを指先で押されて声が漏れた。
力をかけずに、触れるか触れないかの程度でくすぐられるように弄ばれる。大した刺激ではないのに腰が浮いて、ゾクゾクと背筋が震えた。
「ん、んんっ」
「誠、いつもより感じてる」
囁きとともに、首筋にねっとりとした感触が降ってくる。
体をビクビクと小刻みに震わせながら愛撫を受け入れていると、抵抗する意思がないと見たのか、手の拘束が解かれた。
「まるで無理矢理に犯されているようだけど、これでもいいのか?」
大樹がシチュエーションを楽しむように口にする。
それに対して何も返せない。どうしようもなく欲情しきっているのは確かだ。
視界を奪われ、何をされるかわからないこの状況が、どうしようもなく不安と快楽を駆り立てていた。
「ひゃっ、あ」
膝を割られて何か硬いもの――おそらく大樹の膝だ――を押し付けられて、ぐりぐりと擦られる。
いつの間にか下着の中が窮屈になっていて、突如として与えられた刺激に、そこが鋭敏に反応してしまう。
「すごいな。少し触っただけなのに」
「や、あぁっ」
「可愛い顔していやらしいな、お前は」
冷ややかな目をしていたというのに、大樹の囁きは優しく、慈しむような響きがあった。煽られるように、硬く張り詰めた自身が湿り気を帯びていく。
「やだっ……も、下脱ぎたいっ」
「わかったよ」
誠が自ら腰を浮かせば、穏やかな返事とともにズボンも下着も脱がされる。屹立が冷たい外気に晒されて身震いした。
「………………」
しかし、続く刺激を待つも一向にやってこない。聞こえるのは微かな物音だけで、少し不安になってくる。
「大樹?」
小さく呼ぶと、大樹が苦笑する気配を感じた。
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