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scene06-03 ★
「そう急かすな」
「わっ!」
秘所に冷たい感触を感じて戦慄いた。ローションで濡れそぼった指であると理解した瞬間、それは潜り込んできて緩慢な動作で中を掻き回してくる。
「んっ、う、冷たいってばっ」
「少しくらい我慢しろ」
「ん、あっ、はっ……」
ゆっくりと指を抜き差しされて、少しずつ押し広げられていく。
体の強張りが薄れていけば、体内を弄る指は増え、グチュグチュという濡れた音が耳朶を犯すように響いた。
「あ、ン、あぁ」
「今、何本入ってるかわかる?」
「んんっ、に……二本っ?」
「もう三本入ってる」
「うそっ……ん、ぁっ」
内壁を広げる指が、入り口の方を擦る動作に変わった。
最も感じやすい場所は、他でもない大樹にたっぷりと教え込まれている。与えられるであろう刺激に、期待で胸が震えるのを感じた。
「そろそろいいか」
「あ……」
そんな、と内心思ってしまった。あっさりと指を引き抜かれてしまって、喪失感だけが残る結果になったのだった。
「まだ欲しかった?」
「ち、ちげーしっ」
咄嗟に否定してしまったが、本当は欲しくて堪らなかった。そんなこちらの心情など、わかっているとでも言いたげに、低い笑い声が聞こえる。
「お仕置きって言っただろ」
(だからなんだよ、それ)
目隠しをされて痛いことや苦しいことをされるのでは、とも思ったが大樹の口ぶりはどこまでも優しく、真意がわからない。
鈍い頭で考えていると、カチャカチャとベルトを外す音が耳に届いた。
大樹の息遣いが追って聞こえたかと思えば、膝を胸元まで曲げられて、熱く硬いものが窄まりに押し付けられたのだった。
「……っ、くっ」
体を重ねるのにも慣れてきたとはいえ、まだ痛いものは痛いし苦しいものは苦しい。ただ、それもすぐに快感に変わってしまうということを、誠の体は覚え始めた。
息を吐きながら異物感に耐え、大樹の欲望を受け入れる。二人が一つになるのに時間はさほどかからなかった。
息が落ち着いたところで、緩いストロークで揺さぶられる。
「うぁ……や、あぁっ」
穏やかな揺さぶりは、だんだん激しいものへと変わっていき、内壁が鋭く抉られるたびにビクビクと腰が震えた。
陶酔が波のように打ち寄せる。けれども、一番欲しいところへの刺激は未だ与えられずにいた。
「んっ、ん、大樹ぃっ……」
一度快感を覚えてしまった体は、更なる快感を淫らに求めてしまう。満たされぬ欲望に胸が切なくなって、腰を揺らしてねだるように甘い声をあげた。
にも関わらず、大樹は変わらぬ抽挿を続けるのだった。
「あっあ、ン、やっ……ちがっ」
「なにが違うんだ?」
「ん……うぅっ」
自分なりに拙く腰を動かすも、どうにもいい場所に当たらなくて、もどかしい気持ちが膨らんでいくばかりだ。
クスクスという笑い声が鼓膜を揺らしてくる。目隠しをされていても、大樹が意地悪な笑みを浮かべているだろうことは想像に容易かった。
「腰を振ってくるなんて、とんだ淫乱だな。そんなことを教えた覚えはないぞ?」
「あっ……」
そして、ついに大樹は腰の動きをやめてしまう。
(まさか、お仕置きってこーゆーコト?)
だとしたら苦しい。頭は欲望で満たされており、欲求不満でどうにかなりそうだ。
捨てられた子犬のような心持ちでいると、大樹が息を吐いて言葉を紡ぐ気配がした。
「誠。もう一度訊くけど、人のベッドで何してたんだよ?」
またその話らしい。気づいているのか気づいていないのか、どちらにせよそんな恥ずかしいことを言えるわけがない。
「だから、寝てただけだって」
「嘘だろ」
「……言わなくちゃ駄目?」
大樹が黙ってしまって沈黙が場を支配する。
何も見えず、聞こえずの世界に息苦しさを覚えた。耐え切れず口を開く。
「言う、から……黙らないでほしい」
「ああ。それで?」
「っ、その、ベッドに横になってたら……大樹の匂いがして」
そこで区切って、口をもごもごとさせる。
「匂いがしてどうした?」
「うぐぐ」
「言うって言ったよな」
「くうう~っ! だっ、だからあっ、寂しくなって我慢できなくて……一人でその、しちゃって――こ、これ以上言わなくてもわかるだろ?」
「そうだな」
笑いの交じった大樹の声に、恥ずかしさがひたすらに募っていく。頭に血が上って沸騰してしまいそうな勢いだ。
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