45 / 142

scene09-05

 声を絞り出すようにして告白された。  まるで、弾丸で心臓の真ん中を撃ちぬかれた気分だ。胸が震えて、今度はこちらが赤面する番だった。 「獅々戸さん、俺のこと好き……だったりするんですか?」  息が詰まりそうになりながらも確認した。  玲央はさらに真っ赤になって、怒ったように声を荒らげる。 「ああーっ、そうだよ! 文句でもあンのか!?」 「そんなの知らなかったです! いつからですか!?」 「いつからって、そんなん訊かれても困るわ! 知らねーうちに……や、思えば、近しいものはずっと前からってゆーか。じゃねえと、あそこまで体許さないだろうし……」 「………………」  バツが悪そうに顔を背ける玲央に対して、不貞腐れた顔を向けてしまう。彼は慌てて言い繕ってきた。 「だって、野郎同士とかハードル高ぇだろ!? 簡単に付き合おうとかなんねえだろうが、フツー! もともと俺は女が好きだし、男とか考えたことなかったし! 女扱いされるのも不本意だしよ!」 「俺は全然気にしなかったです! 男とか関係なしにあなたが好きです!」 「それはテメェの場合だろうが! 自分の価値観を人に押し付けんじゃねえよ!」 「うっ……だ、だけど! 好きなら好きって言ってほしかったですよ!」 「チッ! 確かに悪かったよ、好きな相手に告れないヘタレってのは前々から自覚してるっつーの!」 「本当ですよ! 俺がどんな気持ちでいたと思ってたんですか! このヘタレ!」 「ンだとコラァッ!?」  何故か言い合いのようになってしまい、二人してハッと口をつぐんで間を開ける。  混乱している頭を整理しながら、どう切り出そうかと考えるのだが、先に玲央が動いた。 「藤沢が真剣なのわかってたから、ちゃんと向き合わないとって思ったんだよ」  玲央は独り言のように呟いて言葉を続ける。 「困惑したけど、やっぱりお前のこと好きだと思って。でも恋人として、付き合うとなるといろいろ考えちまって……なかなか言い出せなくてごめん」 「い、いえ。さっきはああ言いましたが、それが普通だと思います。それより、無理してませんか?」  言うと、首を横に振られた。 「こんな俺でもいいって言ってくれるお前だから、これからも一緒にいたい」 「獅々戸さん」  口を挟もうとしたところを、玲央が手を伸ばしてきてやんわりと制止される。 「将来のこととか不安はたくさんあるけど……この先もお前がいてくれるなら、俺は精一杯の虚勢を張って頑張れると思う。――これは誰でもいいってワケじゃなくて、藤沢じゃなきゃ駄目なんだ。いつも俺のことを見ていてくれたお前がいい」 「……っ」  好きになった相手が、自分と同じように好きだと想ってくれて、さらに必要としてくれるなんて――夢のような告白に胸がじんわりとあたたかくなった。  一体、彼はその言葉に、どれだけの想いと勇気を乗せて伝えてくれたのだろう。そう考えると嬉しくて、くすぐったい気持ちが込み上げて仕方がなかった。 「あの、言いたいことはたくさんありますが、とりあえず少しだけ言わせてください」 「な、なんだよ?」  玲央が身構える。が、容赦などしてやらない。 「LINEとかデートの誘いとか、たまにでいいですから獅々戸さんからも欲しいです。あと、他の人との過度なスキンシップはできれば控えてほしいです。特に宮下さんは駄目です。あの人は生理的に受け付けないので」  その後も捲し立てるように、洗いざらい思っていたことを列挙していく。  玲央は戸惑いの表情を浮かべながらも、一つ一つ相槌を打ってくれた。ふっと頬が緩むのを感じつつ、最も言いたかったことを述べる。 「これが最後ですが、『好き』って俺の目を見て言ってください」 「はあ!? さ、さっき伝えただろ?」 「まだ『好き』とは言葉にしてませんよ」  追い詰めるように言うと、玲央が目を泳がせた。  そうしてしばらく狼狽えていたが、ついに腹を決めたらしい。形のいい眉をキッと上げて見つめられた。 「藤沢が好きだ」 「もう一回言ってください」 「お、俺は藤沢が好きだっ」 「もう一回」 「このっ、ムカつく顔しやがって! いっぺんブン殴られてーのか!?」  玲央が怒りに唇を震わせて凄んでくる。にも関わらず、雅は嬉しさに満面の笑みを浮かべてしまうのだった。 「何度だって聞きたいです」 「クソッ! ――もうお前しか見えてねえし、お前も俺様だけ見てればいいんだよ! 大体、こうさせたのはお前なんだから責任とれよな!」 「はいっ!」  飛びつくように玲央の体を抱きしめ、そのままの勢いでベッドに押し倒す。  肩口に頭を沈めるなり、眼前にある耳朶をじっとりと舐めた。ビクッと体を震わせる姿に愛おしさを感じつつ、耳元で囁く。 「今日はどうしますか? 泊まっていきたいですか?」 「言わなくてもわかるだろ。お前が前日からって誘ったんじゃん」 「俺は獅々戸さんの口から聞きたいです。じゃないと帰しますよ」 「バッ、そんなこっ恥ずかしいこと言えるわけねーだろ!? す、することすんだろうし! この前だって、お前が言い出さないから焦ったけど……体調悪いのかなとか、思ったし」  この前というと、先日の電車内で別れたときのことだろう。  あのときの玲央は熱心にスマートフォンを操作していると思ったのだが、忙しなく指を動かしていたのは、気を紛らわすためだったのかもしれない。 (よかった。ちゃんと求められてたんだ) 「獅々戸さん。こういった関係になった以上、今後は思っていることを、お互いなるべく言うようにしましょう? 俺も遠慮とかするのやめます。だから、ね?」 「くそッ、わーったよ。今日は泊まってくから……す、好きにしろよ」

ともだちにシェアしよう!