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scene09-05
声を絞り出すようにして告白された。
まるで、弾丸で心臓の真ん中を撃ちぬかれた気分だ。胸が震えて、今度はこちらが赤面する番だった。
「獅々戸さん、俺のこと好き……だったりするんですか?」
息が詰まりそうになりながらも確認した。
玲央はさらに真っ赤になって、怒ったように声を荒らげる。
「ああーっ、そうだよ! 文句でもあンのか!?」
「そんなの知らなかったです! いつからですか!?」
「いつからって、そんなん訊かれても困るわ! 知らねーうちに……や、思えば、近しいものはずっと前からってゆーか。じゃねえと、あそこまで体許さないだろうし……」
「………………」
バツが悪そうに顔を背ける玲央に対して、不貞腐れた顔を向けてしまう。彼は慌てて言い繕ってきた。
「だって、野郎同士とかハードル高ぇだろ!? 簡単に付き合おうとかなんねえだろうが、フツー! もともと俺は女が好きだし、男とか考えたことなかったし! 女扱いされるのも不本意だしよ!」
「俺は全然気にしなかったです! 男とか関係なしにあなたが好きです!」
「それはテメェの場合だろうが! 自分の価値観を人に押し付けんじゃねえよ!」
「うっ……だ、だけど! 好きなら好きって言ってほしかったですよ!」
「チッ! 確かに悪かったよ、好きな相手に告れないヘタレってのは前々から自覚してるっつーの!」
「本当ですよ! 俺がどんな気持ちでいたと思ってたんですか! このヘタレ!」
「ンだとコラァッ!?」
何故か言い合いのようになってしまい、二人してハッと口をつぐんで間を開ける。
混乱している頭を整理しながら、どう切り出そうかと考えるのだが、先に玲央が動いた。
「藤沢が真剣なのわかってたから、ちゃんと向き合わないとって思ったんだよ」
玲央は独り言のように呟いて言葉を続ける。
「困惑したけど、やっぱりお前のこと好きだと思って。でも恋人として、付き合うとなるといろいろ考えちまって……なかなか言い出せなくてごめん」
「い、いえ。さっきはああ言いましたが、それが普通だと思います。それより、無理してませんか?」
言うと、首を横に振られた。
「こんな俺でもいいって言ってくれるお前だから、これからも一緒にいたい」
「獅々戸さん」
口を挟もうとしたところを、玲央が手を伸ばしてきてやんわりと制止される。
「将来のこととか不安はたくさんあるけど……この先もお前がいてくれるなら、俺は精一杯の虚勢を張って頑張れると思う。――これは誰でもいいってワケじゃなくて、藤沢じゃなきゃ駄目なんだ。いつも俺のことを見ていてくれたお前がいい」
「……っ」
好きになった相手が、自分と同じように好きだと想ってくれて、さらに必要としてくれるなんて――夢のような告白に胸がじんわりとあたたかくなった。
一体、彼はその言葉に、どれだけの想いと勇気を乗せて伝えてくれたのだろう。そう考えると嬉しくて、くすぐったい気持ちが込み上げて仕方がなかった。
「あの、言いたいことはたくさんありますが、とりあえず少しだけ言わせてください」
「な、なんだよ?」
玲央が身構える。が、容赦などしてやらない。
「LINEとかデートの誘いとか、たまにでいいですから獅々戸さんからも欲しいです。あと、他の人との過度なスキンシップはできれば控えてほしいです。特に宮下さんは駄目です。あの人は生理的に受け付けないので」
その後も捲し立てるように、洗いざらい思っていたことを列挙していく。
玲央は戸惑いの表情を浮かべながらも、一つ一つ相槌を打ってくれた。ふっと頬が緩むのを感じつつ、最も言いたかったことを述べる。
「これが最後ですが、『好き』って俺の目を見て言ってください」
「はあ!? さ、さっき伝えただろ?」
「まだ『好き』とは言葉にしてませんよ」
追い詰めるように言うと、玲央が目を泳がせた。
そうしてしばらく狼狽えていたが、ついに腹を決めたらしい。形のいい眉をキッと上げて見つめられた。
「藤沢が好きだ」
「もう一回言ってください」
「お、俺は藤沢が好きだっ」
「もう一回」
「このっ、ムカつく顔しやがって! いっぺんブン殴られてーのか!?」
玲央が怒りに唇を震わせて凄んでくる。にも関わらず、雅は嬉しさに満面の笑みを浮かべてしまうのだった。
「何度だって聞きたいです」
「クソッ! ――もうお前しか見えてねえし、お前も俺様だけ見てればいいんだよ! 大体、こうさせたのはお前なんだから責任とれよな!」
「はいっ!」
飛びつくように玲央の体を抱きしめ、そのままの勢いでベッドに押し倒す。
肩口に頭を沈めるなり、眼前にある耳朶をじっとりと舐めた。ビクッと体を震わせる姿に愛おしさを感じつつ、耳元で囁く。
「今日はどうしますか? 泊まっていきたいですか?」
「言わなくてもわかるだろ。お前が前日からって誘ったんじゃん」
「俺は獅々戸さんの口から聞きたいです。じゃないと帰しますよ」
「バッ、そんなこっ恥ずかしいこと言えるわけねーだろ!? す、することすんだろうし! この前だって、お前が言い出さないから焦ったけど……体調悪いのかなとか、思ったし」
この前というと、先日の電車内で別れたときのことだろう。
あのときの玲央は熱心にスマートフォンを操作していると思ったのだが、忙しなく指を動かしていたのは、気を紛らわすためだったのかもしれない。
(よかった。ちゃんと求められてたんだ)
「獅々戸さん。こういった関係になった以上、今後は思っていることを、お互いなるべく言うようにしましょう? 俺も遠慮とかするのやめます。だから、ね?」
「くそッ、わーったよ。今日は泊まってくから……す、好きにしろよ」
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