51 / 142
scene10-03
「お疲れ様です。活動報告書をまとめ、て……」
ドアの先にいたのは大樹だった。驚愕の表情を一瞬浮かべたあと、すぐに俯いて顔が見えなくなる。ただ、いつものポーカーフェイスでないことは明らかだった。
大樹は無言で歩み寄ってくるなり、風間から引き離すように誠の腕を掴んで、力ずくで立ち上がらせる。
「ちょっ、痛いって!」
「言ったよな。俺は嫉妬するって」
声は震えていたが、怒りなどではないと顔を見て確信した。彼は傷ついているのだ――長年の付き合いから察しがついた。
「だから、待てっての!」
大樹の腕を振り払うと、風間の方に向き直る。伝えなくてはいけないことがあった。
「俺、コイツと付き合ってるんで! だからごめんなさっ――むぐぐっ!?」
声を張りあげたところで、大樹が口を押えてくる。
「バカッ、サークル棟では静かにしろ! 壁薄いんだから!」
「ぷはっ……ンなこと言ったらお前だって!」
口元の手を剥がして言い返したら、今度は頭をはたかれた。何たる仕打ちだろうか。
「おい、なにすんだよ!」
「聞き分けのないことを言うからだ!」
大樹は再び腕を掴んで、グイグイと引っ張ってくる。もうこの場に少しもいたくないという意思が感じられた。
「と、とにかくごめんなさいっ! 失礼します!」
ささっとバッグを手に取って風間に頭を下げる。風間は終始笑顔を浮かべていた。
「わわっ」
帰宅して間もなく。玄関で靴も脱がないままに、背後から大樹に抱きしめられた。
喧嘩でもしたような雰囲気が二人の間に漂い、何の会話もないままに帰途に就いたのだが、ここにきて大樹が沈黙を破る。
「なに? 告白でもされた?」
「う、うん……というか」
簡単に一通り説明すると、深いため息が返ってきた。
「見覚えのある顔だとは思ってたんだ」
大樹の腕に力が加わる。抱きしめ返せないのがもどかしくて、せめてもの気持ちにと彼の腕に触れた。
「でも、ハッキリ断ったよ? お前のこと傷つけたくないし」
「……わかってる。正直、嬉しかった」
熱い吐息を首筋に感じる。大樹は肩口に顔を埋めてきて、「悪い」と呟いた。
「お前のことになると、すぐ平常心を失うんだ。些細なことでも感情が揺さぶられて、不安になって……すぐ嫉妬する自分に一番腹が立つ」
「俺のこと、信用できない?」
「違う。自分に自信がないんだ」
大樹は言葉を一度区切ってから続ける。
「いつまで一緒にいられるか、そのうち俺に嫌気がさして離れていってしまうんじゃないか……いつもあれこれ考えて。そのくせ独占欲が強いせいか、つい束縛しそうになる」
(な、なんだよそれっ!?)
あまりの言いようにカッとなった。
「勝手にヘンな想像すんなよ! これでもお前のこと好きなのに! どうせ食う・寝る・遊ぶしかないバカだと思ってんだろ!?」
噛みつくように声を荒らげて、続けざまに早口で捲し立てる。
「大樹は俺には勿体ないくらい、すげーいいヤツだよ! イケメンで身長あるし、優しくて頼り甲斐あるし、ガキくさい俺を甘えさせてくれるし、小言は多いけど面倒見てくれるし、メシも超うまいしっ――そーゆー大樹の全部が好きだ!」
大樹はこちらの勢いに圧倒されているようだったが、知ったことではない。もう少し言ってやらねば気が済まなかった。
「ったく、独占欲がなんだよ……我慢しないで、いくらでも嫉妬すればいーじゃんか! 嫌だとか全然思わねーし! つか俺もそのたび、どんだけお前が好きなのかちゃんと言ってやる! 離れていくとかそんな不安、全部吹っ飛ばしてやるかんなっ!」
そこまで言い終えると、少し酸欠状態になって肩でぜえぜえと息をする。
ややあって、大樹が苦笑する気配を感じた。
「本当にお前って、思ったことをぽんぽん言うよな」
「うっ、うるせーなっ! とにかく俺の隣は大樹じゃないと嫌だし、大樹以外とか絶対考えらんねーもんっ」
不貞腐れたように言うと、大樹が肩越しに頬へキスしてきた。
「ありがとう。こんな俺を受け入れてくれて」
それから大樹は、こちらの体を反転させてくる。
もう言葉なんてものはいらない。向かい合わせになって視線が合うや否や、そっと唇を交わらせた。
「ん、ぅ……」
温かな舌先を迎え入れれば、ゆっくりと絡ませて互いの存在を確かめ合う。
蕩けてしまいそうな甘い感覚を味わっているうち、吐息も唾液も混ざって、どちらのものとも判別がつかなくなっていった。
「あ……こ、こんなとこじゃ」
胸元に上がってきた大樹の手をやんわりと止める。まだ玄関に入ったばかりで、靴も履きっぱなしだった。
「嫌?」
「するのはいーけど……ベッドで、お願いします」
「わかった」
ようやく靴を脱ぐと、手を引かれるがままに大樹の部屋へ移動した。
部屋に着くなり、唇を重ねながらベッドに押し倒される。スプリングのギシリという音が生々しく聞こえて、これからの行為に期待と緊張感が増した。
胸を高鳴らせていると、シャツのボタンが次々と外されていき、
「っ……」
鎖骨に歯を立てられたかと思えば、続けて力を込めて吸いあげられた。痺れるような鈍痛が走る。
「あ、痕残るって!」
「バカ、残してんだよ」
「ちょ、そんなにしたら……っ」
大樹は同じ個所に何度もしつこく吸いついて、すぐには消えないような鬱血の痕を残す。それも二つ、三つ、四つ……と首筋から胸元、腹部にかけて。
さらには慣れた手つきでジーンズを脱がし、太腿にまでマーキングするのだった。
ともだちにシェアしよう!