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scene10-05 ★

「やっ……こ、これ、いつもと当たるとこ、ちが……っ」 「いつもとどっちがいい?」 「ん、あっ、どっちも、すきっ……」  普段より二人の繋がりが深く、ずっと奥まで屹立を咥え込まされる。  何度も内壁を抉られ、擦られ、突かれた。そのたびに甘美な声が淫らに零れる。 「あっ……う、あぁっ」  圧迫感がひどく、腹の底を押し上げるような強い刺激に目が眩む。  なおも揺さぶりは激しさを増していき、繋がっている部分が熱く蕩けて、崩れ落ちていくようだった。 「あっ、あ、ああっ、ン、だいき……っ」  意識が飛びそうになって名を呼ぶ。体勢的にはいつもより楽なのだが、相手の顔が見えないぶん、どことなく落ち着かない。  身をよじって大樹の方を見上げたら、優しく微笑まれた。 「顔、見えた方がいい?」  体内から大樹のものが抜かれる。喪失感に身を震わせていると、体を抱きしめられて向きを反転させられた。普段どおりの向かい合わせの体勢だ。 「ん――」  視線を交わらせれば、唇と唇が自然と重なった。頬に添えられた手は汗ばんでいて、互いにすっかり昂っていることを改めて認識させられる。  ふわふわとした気分でキスを楽しんでいると、再び窄まりに屹立を押し付けられた。それは一切の妨げもなく入り込んできて、熱い吐息が知らずのうちに漏れる。 「あ……は、ぁっ」  縋るように大樹の肩に腕を回した。  大樹は慈しむような手つきで頭を撫でてきて、「誠」と名を呼んだあとに、腰を振って律動を再開させる。 「ん、あっ……ぁ、ああっ」  肌が激しくぶつかる音に合わせて、甘ったるい喜悦の声が室内を満たす。  敏感な部分を執拗に責められれば、電気でも流されたみたいに、つま先から頭までゾクゾクという痺れが走った。 「あぁっ、そこ……っ、あ、それ、きもちいっ」 「誠の中も気持ちいいよ」 「ン、あっ、うれし――だいき、もっとっ……」  そう言ってもらえるのが嬉しくて、今度は彼の背に両足を絡めた。  結合が深くなったところで、律動に合わせて不器用ながらに腰を振る。もっと一緒に気持ちよくなりたいという一心で互いを求めあった。 「っ、は……やばい、また、イッちゃい、そお……っ」 「俺もヤバい」  息も絶え絶えに伝えたら、大樹が口づけてきた。  間近で視線を絡ませながら、さらに高みへ昇り詰めていく。  荒々しくキスを交わし、振り落とされそうなくらいに揺さぶられれば、耐えられないほどの強い快感が押し寄せてくるのだった。 「んっ、んんんッ!」  唇を重ねながら同時に限界を迎える。熱い迸りが体内に放たれ、最後まで彼の欲望を絞り尽くしてから深く息を吐いた。 (体中、全部マーキングされたみたいだ……)  大樹とは幼少時からの付き合いだが、まさかここまで嫉妬深いとは思わなかった。  それを嬉しくも照れくさくも感じる自分がいて、愛おしい恋人をぎゅっと抱きしめるのだった。     ◇  翌日、喫茶店で働く誠の姿があった。 「お待たせ致しました。こちらブルーマウンテンですっ」  コーヒーをテーブルに運び終えて、横目で風間の方を見やる。ちょうどシフトが被ってしまって、朝から居心地の悪さを感じていたのだ。 「最初の一杯目は、こちらで注ぎ致しますね」  風間は客の前でポッドから紅茶を注ぐ。優雅で慣れた手つきだった。 「お味が濃く感じられましたら、こちらの差し湯をお使いください」  それから給仕を終えて伝票を置くと、綺麗な角度で一礼してテーブルを去る。  女性客が小声で話しながら、うっとりしているさまが見受けられた。風間の品のある容姿は、彼目当てで訪れる客がいるほどに評判だ。 (って、いけね。ボーッとすんなって怒られるっ)  少し目を向けるつもりが見入ってしまい、いけないと頭を振る。  ところがもう遅く、視線に気づいたらしい風間がやってきた。 「戌井くん、三番テーブル片付けお願いします」 「あ、はいっ」 「ああ、それと」  事務的な口調が柔らかなものになり、ふっと風間の顔が耳元に近づく。 「昨日は困らせちゃってごめん。あのことは忘れて、これからも今までどおり仲良くしてほしいな」 「えっ? あ……は、はいっ」  返事をすると、風間は口元に微笑みを浮かべて、注文の入ったテーブルへ向かう。誠も胸のつかえが取れたのを感じながら、テーブルを片付けるのだった。 (よかったあ! バイトもサークルも一緒だし、ヘンな雰囲気になったらどうしようかと思った!)  などと考えながら片づけを終えたところに、入店を知らせるカランカランというドアベルの音が響いた。 「いらっしゃいませ」  来客を案内しようと足を向ける。が、そこにいた人物を見た途端、嬉しさではしゃいでしまった。 「わっ、大樹と藤沢じゃん! 来てくれたんだ!」  嬉しいことに、大樹が雅とともに来店してくれたのだ。 「まあな。ウェイター服、似合ってるじゃないか」  大樹の言葉に、雅も「レトロな感じでいいよね」と賛同した。  称賛を受けた誠は「えっへん」と胸を張ろうとしたのだが、大樹の視線が首元に向けられていることに気づいて狼狽えた。 「あ……ありがと」  平静を装うも、はっきりしない声になってしまう。  大樹は目を細めて、ニヤリと意地悪な笑みを浮かべた。 「どうした?」  わかっているくせに、わざわざ訊いてくるのがいやらしい。彼の視線の先――誠の首元にはキスマークがくっきりと残っていた。 「なな、なんでもないやいっ」  服で隠れていることは確認したが、それでも恥ずかしく、ムッとして睨みつける。近頃、どうにもこうにも彼の意地悪な面が気になって仕方なかった。 「こーら。知り合いでもお客様は、お客様でしょ」  見かねてやってきただろう風間に、肘で軽く小突かれる。その瞬間、大樹が眉間に皺を寄せた。 「どうも、お疲れ様です」 「はい、いらっしゃいませ。二名様でよろしいですか?」  風間も目が笑っていない気がする。異様な空気感だった。 「ねえ、この二人って仲悪かったの?」  雅が声を潜めて訊いてきたが、こちらが訊きたい。 (大樹はともかく、風間さんはなんで? もういいってカンジだったよね!?)  誠はわけがわからず、頭にクエスチョンマークを並べるのだった。

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