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scene12-04 ★

「マジで軽くだけだからなっ」  念を押すように繰り返し、差し出された枕を抱きかかえる。  体の力を抜いて待っていると、双臀に置かれた手で左右に蕾を広げられた。熱い視線を感じて、そこがヒクヒクと動く。 (このっ、ジロジロ見やがって!)  苛立って、もう一度悪態をついてやろうかと思ったのだが、熱いものが押し当てられて息を呑んだ。 「くっ……ん、ぅ」  張り詰めた強張りに、声を漏らすまいと枕を握り締める。  内壁を広げるように、ゆっくりと体内に入ってきたそれだったが、括れのところまで呑み込むと、勢いよく奥まで穿たれたのだった。 「ンああぁッ! ん、く……ッ」  背が弓なりにしなって、思わず枕から顔が離れる。  不覚にも、あられもない声をあげてしまった。隣室に聞こえてしまったかもしれない、と考えるだけで心拍数が一気に上昇する。 「……エッチな声、聞こえちゃいますよ?」 「あ、アホ! テメェがふざけっからだろ!」 「ははっ、後ろからだと簡単に奥まで入っちゃいますね」  笑いながら、雅はさらに腰を進めてくる。 「っ、あ! まだ入んのかよっ」 「玲央さんの中、あったかくて気持ちいい……こんなにも咥え込んで」 「ばっ、バカやろっ、ン……んんッ」  最奥を突かれれば反射的に腰が引けて、強すぎる刺激に身じろいだ。  にも関わらず、雅はこちらの腕を掴んで、熱い自身を容赦なく打ち付けてくる。両腕の自由が利かず、まるで支配されているような気分だった。 「ほら、奥突かれるの好きでしょ? 奥が好きだなんてエッチな玲央さん」 「あ、や、深い、って……んんっ、ンッ!」 「声、ちゃんと抑えないと」 「っ、ん、くっ……」  激しく繰り返される律動に、顔を埋めた枕が涙や唾液で濡れていく。  自分が自分でなくなっていくような感覚が最初は怖かったものの、今ではどうしようもなく気持ちがよく、演技をしているときの高揚感と同じようなものを感じていた。  グチュグチュという水音と、荒っぽく肌がぶつかる音、押し殺した吐息が部屋を満たす。  それらを耳に入れながら快感に酔いしれていたら、突然スマートフォンの場違いな電子音がした。なかなか鳴り止まぬ音に意識をふっと引き戻される。 「おい」 「すみません、俺のです」 「これ、通話じゃねえの?」 「あとで連絡します」  と、雅が抽挿を再開しようとしたところで、今度は部屋のドアが叩かれた。 「獅々戸さーん? 藤沢ー?」  ドアの向こうから聞こえてくるのは、朗らかな誠の声だ。 「……なに? どうしたの?」  荒い息を殺して、雅が返事をする。  玲央はというと、「なんで返事してんだよ!」と気が気でなくて、心臓がドキドキと早鐘を打つのを感じていた。 「あれ、やっぱ起きてんじゃん。一年生に『映画観賞会やりましょう』って誘われたんだけど来ない?」 「あー、台本の読み合わせしてて……」  答えながらも、屹立がゆっくりと内壁を抉ってくる。 「っ……ふ……」 「獅々戸さんはどうしますか? このあたりで本読みやめておきます?」  冗談ではない。こんなところでやめられては、昂ってしまった熱を一体どうしたら――そう首を横に振った。  だというのに、雅は口角を引き上げて耳元で囁く。 「ちゃんと自分で言ってください。怪しまれますよ?」  腰を軽く動かされ、ヌチッという音がした。この変態野郎――そんな言葉を浮かべつつ、 「……い、今はちょっと」  仕方なしに口を開くのだが、らしくもなく声が震えてしまい動揺する。 「あれっ? 獅々戸さん、具合悪そうな声してますけど……大丈夫ですか?」 「だっ、大丈夫だから早く行けよ! きっ……気が散るっ!」 「もしアレだったら、薬とか」 「そーゆーのじゃ、ねえ……しっ」  思いがけず、変に気をつかわれてしまう。どう返事をすればいいものかと頭を悩ませていると、雅が助け舟を出してきた。 「今日は気温も高かったし、疲れが溜まってるんですよね?」 「ああ、そっか! 今日めちゃくちゃ暑かったですもんね!」  雅の言葉に納得した誠は、「よく休んでくださいね」と言い残して去っていった。パタパタという軽い足音が遠ざかってから、ほっと息を吐く。 「テメェ……あとで覚えてやがれよ、このド畜生」  首だけを動かして低く言う。雅はニヤニヤと笑っていた。 「えへ、すみません。俺、好きな相手だとつい意地悪したくなっちゃうみたいで」 「意地悪って可愛いモンじゃねえだろ! マジでクソ変態野郎だな、オイ!?」 「自覚してます。でも、相手が玲央さんだからですよ」 「なっ」 「それに、そう言う玲央さんだって。俺のこと、ぎゅってして離さないじゃないですか」 「そんなこと――あぁッ、ん!」  そんなことない、と言い終わる前に敏感なところを突かれて、鳥肌が立つほどの快感がほとばしった。 「何度も言ってるでしょう? ちゃんと声抑えなきゃって。さっき変に中断されちゃった分、もう容赦しませんよ」 「さ……最初から容赦なかったくせにっ! っ、あぁっ!」  荒々しく屹立を穿たれ、激しく中を掻き回される。こうなっては与えられる快感に身を任せるしかない。 「っく! ……も、もうっ」  熱い衝動が腰の奥からせり上がってくる。何度も限界を感じていたせいか、玲央はあっという間に高みへと追い立てられていった。 「すみません、もう少しだけ」  けれども、今にも爆発しそうな自身を根本から掴まれ、膨れあがった射精感が行き場をなくしてしまう。 「く、はっ! バカッ、みやび……っ」 「一緒にイキたいって言ったの、玲央さんですよ? すぐ、ですから」  一段と律動が激しくなり、ガクガクと揺さぶられる。思わず声が漏れそうになって必死に下唇を噛んだ。 「ン、んんっ、んッ!」  解放することのできない衝動に頭がくらくらとしてくる。なおも与え続けられる快感が苦しくて、再び涙が頬を伝った。  お願いだから放してくれ、と懇願するように玲央は名を呼ぶ。 「み、や……みやび、みやびっ……あっ、ぁ、んっ!」 「玲央さん、一緒に……」 「んっ! んんんんッ!」  昂ぶりを掴んでいた手が離れていくと同時に、最奥を穿たれた。体内でドクンドクンと鼓動するものを感じながら、玲央も限界を迎えて身を震わせる。  最後まで射精し終わると、雅がしなだれかかってきて、汗ばんだ二人の体がぴったりと密着した。 「あー、やっぱりシャワー浴びたいですね」  などという呟きを耳にしながら、「このエセ草食系」といつもの悪態を返したのだった。

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