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scene12-05

 乱れた浴衣と布団を正して横になる。雅の腕を枕にして行為後の余韻に浸っていたら、ふと声をかけられた。 「そういえばなんですけど。最後に撮影したカット、あれどうしたんですか?」 「は? なにがだよ?」 「いや、なんか演技に気持ちが追い付いてないというか。俺の思い違いだったら悪い……というか、素人がツッこむようなことじゃないとは思いますが」  やはり気づかれていたらしい。玲央は苦笑交じりに返す。 「お前の言うとおりだよ。さすがはカメラマンやってただけあるな」  今作が最後だという寂しさ、瞬く間に過ぎ去っていった日々、作品作りに対する情熱。自分の思いを洗いざらい話していった。 「俺さ、すげえ映研好きなんだなって思った。今回なんか、お前と一緒に芝居するなんて嘘みてーだけど、実際すごく楽しくて。でも、これで最後かと思うと……なんか複雑っていうかさ」  どうしても寂しさが募ってしまう。絶対に口にはできないが、映画を完成させたくないような気がしてしまうほどだった。  少しの間のあと、雅が「玲央さん」と名を呼んで頭を撫でてきた。 「玲央さんにとって、映研での作品はこれが最後でしょうけど……。世に形として残って、自分や、部員、あわよくば他の誰かの中で生き続けるから――」  そこで言葉を区切って、 「最後だとか、寂しいこと言わないでほしいです」  なんというもっともな意見だろう。彼の言葉は玲央の心にすとんと落ちてきた。 「悪ィな。またダセェこと言っちまった」 「そんなことないです。それに、無理してまで格好つけることないですよ。玲央さんはそのままですごく格好いいんですから」 「な、なんでそこまで言えるんだよ」 「だって、玲央さんいつも頑張ってます。頑張ってるヒーローを、応援したくならない人なんていないでしょ?」  言って、「俺、映画だと『七人の侍』が好きなんですよ」と、雅は締めくくった。 (いや、渋すぎだろ……)  そう思いつつも、胸が熱くなる感覚を味わっていた。  男同士だとか今まで散々悩んできたが、隣にいてほしいと願うのは他の誰でもない。このようなことを、さらりと言ってのける彼なのだ。 「映画、最高の出来にしような」  呟くと、すぐに嬉しそうな返事が聞こえてきた。     ◇  翌日、朝のミーティング前。玲央は誠の部屋に訪れ、顔を合わせるなり頭を下げた。 「スマン、監督。余裕あったら昨日のラストカット、撮り直し頼みたい」 「え? いいカットだと思ったんですけど、気になるトコありました?」 「ああ。納得いかねえっつーか。あれは智也が初めて想いを伝える場面だろ? 一発撮りでもいいから頼めないかな?」 「いいですけど……って、俺、獅々戸さんに頭下げられた!?」 「意外そうに言うンじゃねーよ。でもサンキュな、他のヤツにも言ってくるわ」  踵を返そうとしたところで腕を掴まれ、誠がずいっと顔を寄せてくる。 「俺が行きますよ! 監督なんだから当然です!」 「お、おいポチ、待っ……」  こちらの言葉を少しも聞くことなく、誠は元気よく駆けていってしまう。  玲央は頭を掻きつつも、後輩が成長する姿は先輩として見ていて気持ちがよく、口元が緩むのを感じた。 (アイツも監督らしくなったもんだな……なんて言ってらんねえか。俺も期待に応えてやらねーと)  頬を軽く叩いて気を引き締める。瞳にあるのは、迷いのない決意の色だった。  撮影は滞りなく進み、昨日以上に良いものに仕上がっているという確信があった。  そして、申請していたリテイクがいよいよ始まる。 「本番いきます! シーン9─4─2、よーいスタート!」  カチンコの音が響くのと同時に、玲央の中で感情が溢れるのがわかった。  役としての感情なのか、自分としての感情なのか、はたまたその両方なのか。  しかし、きっと実際のところはどうだっていいのだ。この胸にあるものを表現したい、ただそれだけだった。 『俺は、アンタの永遠になりたいっ!』 (もっと感情をぶつけたい。カメラなんかより、ずっと近くでお前に見ていてほしい) 『智也くん?』 『アンタをくれよ、湊さん……!』  押し倒されている雅が目を瞠る。玲央の頬には涙が伝っていた。

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