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おまけSS 四月のバカップル
「大樹大樹っ! お前のこと大っ嫌いだ!」
誠は朝起きるなり、ダイニングで朝食の支度をしている大樹に声をかけた。
今日は四月一日、エイプリルフールだ。もちろん嘘に決まっているというのに、
「傷ついた」
返ってきたのは、沈んだ言葉と少し悲しそうな表情だったので動揺してしまう。
「いや、嘘! 嘘だって! 今日、エイプリルフールだからっ!」
慌てて弁解すると、フッと笑われた。
「こっちも嘘だ。わかってるよ、バカなお前が言いそうなことくらい」
「ええ~っ、なんだよお」
「だけど、嘘でも口にしないでくれないか。言葉の真意はわかっていても、お前の口から一番聞きたくない言葉だから」
「あ……」
それを聞いてドキリとした。確かにそうだ――確実に嘘だとわかっていても、好きな相手から『嫌い』だなんて言われたくない。
そんな簡単なことに気づかなかった、浅はかな自分に嫌気が差した。それと同時に、大樹への申し訳なさにチクリと胸が痛む。
「返事は?」
黙っていたら、大樹がまるで子供に言い聞かせるような口調で言ってきた。
「は、はい……ごめんなさい」
素直に返事をして謝る。すると、大樹はふわりと微笑んで頭を撫でてくるのだった。
「そんな気にするなよ。悪気がないことも、お前が伝えたかったこともわかってるって」
「ん、でもホントごめん」
「そこまで言うんだったら、態度で示してほしいところだけどな」
「なっ! お前、スケベだなっ!?」
言うと、大樹は虚をつかれたように軽く目を見開く。
「そういったつもりはなかったんだが……普段の態度というか」
今度はこちらが目を見開く番だ。ついでに、かあっと顔が熱くなっていく。
「お、おおっ、俺はそのっ!」
「誠が言うなら」
「わーわーっ! ちょっと待って!」
待ったをかけるが何も意味を成さず、顎を掬われて唇を奪われる。角度を変えながら啄まれれば、否が応でもあっという間にその気にさせられてしまう。
「んっ、大樹……」
「期待には応えないとな」
口の端を上げて大樹が言う。
と、そこで誠の腹が鳴って空腹を訴えた。なんというタイミングの悪さだろうか。
今は性欲より食欲の方が勝っている気がしてならない――誠は逃げ道を模索し始める。
「えーっと、朝メシまだだったよな?」
「おあずけだ」
「ええええーっ!?」
今朝の大樹はすっかりスイッチが入ってしまったらしく、到底許してくれるとは思えなかった。腕を掴まれて、そのままずるずると彼の寝室へと引きずられていく。
「ハラへった! ハラへったからあっ! おかあさーんっ!」
「ああ、それは二番目に聞きたくない言葉だな」
「ひっ!」
どうやら、今朝だけで二度も地雷を踏んでしまったようだ。不機嫌そうな大樹の声に、大人しくなるしかない誠だった。
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