111 / 142

おまけSS おそろいの痕

 大樹は天井を見上げながら、小さくため息をついた。  愛しの恋人と性行為をし、その後二人そろってベッドに体を横たえるも、相手が相手ならば色気のあるピロートークに移行するわけもなく。 (やっていること自体は、色気があるといえば……まあ、あるだろうが)  考えにふけっていたら、誠の「うーん」という声が耳に届いた。 「やっぱうまくつかねーな。すぐ消えちゃう」  首筋の皮膚を口で吸われる。どうやらキスマークを残したいらしく、先ほどからずっと奮闘しているのだった。 「ん、駄目だあ……ヨダレまみれにしてごめんな?」 「別にいいけど。というか、そんなに痕つけたいのか?」 「え? うーん、なんとなく?」 「まあ、いつものバカ犬だよな……」  そうであろうとわかっていても、少しだけガックリくる。マーキングの意なんてものは少しも含まれておらず、単なる思い付きに過ぎないのだ。  本当に色気もクソもないと考えていたら、 「ッ!?」  今までとは、比べ物にならないほどの鈍痛が襲ってきた。  さすがに息を呑んで体を強張らせる。こともあろうに、誠が鎖骨に噛みついていた。 「おっ、これなら残りそう! こっちのが楽でいいかも!」  よほど力を込めて噛みついたのだろう。指でなぞってみると、綺麗な歯型がくっきりと残っていた。 (本当にコイツときたら……)  躾とばかりに、出来の悪い頭をはたいてやりたくなる。  だが、無邪気な笑顔を向けられては何もできない。そんな甘い自分がいた。 「へへ、ちょうどおそろいっ」  さらにそう言って、彼の鎖骨に残した鬱血の痕を見せられれば、こちらとしてはもうどうしようもない。 「バカだろ、お前」 「えっ、なんだよ!?」 「……わからなくていい」  言うと、誠はきょとんとした顔で首を傾げた。何も知らず心をくすぐってくるのだから、厄介にもほどがある。 (それでも、このバカが愛おしくて仕方ない)  大樹はまた一つため息をして、愛しい恋人の頭を撫でるのだった。

ともだちにシェアしよう!