129 / 142

おまけSS 小さな手、大きな手

 その日の大樹は、弁当持参でアルバイトに行くらしく、合わせて誠も昼食を用意してもらうことになった。 「時間ないから、おにぎりでいいか?」 「うん、いいよー? あ、つーか俺も手伝う!」  言うと、大樹は少し怪訝な表情を浮かべたが、――気分屋な性格をしていることはわかりきっているのだろう――あえて突っ込むようなことはしない。二人でキッチンに並んでエプロンを身につける。  それから手順を教わりつつ、おにぎりを握り始めたのはいいが……、 「ずいぶんと不格好だな」 「い、いーじゃん! 口の中入っちまえば一緒だろー?」  誠が初めて握ったおにぎりは、どう見ても三角形には見えない不格好な塊と化していた。我ながら、何とも言えぬ出来栄えに落胆する。 「あーあ、もっと簡単かと思ってた。大樹っておにぎり握るのうまかったんだな?」  実際に経験してしみじみと感じた。手の構造が違うのだろうかと思い、大樹の手を取ってみる。 「うわ! 改めて見ると、大樹って手ェでけーっ! 手が大きい方が握りやすいのかな?」 「そうか? 関係ない気がするけど」 「えーっ、絶対大きい方が握りやすいって! だから俺は下手なんだよ!」  自分の手と合わせながら、「ほら!」と相手の顔を見上げる。つい熱が入ってしまったのか、予想以上に体が接近してしまいドキリとした。 「だ、だって、こんなに違うから、さ……」 「……そうだな。お前の手、小っちゃいな」 「う、うん」  なんだか妙な雰囲気になって視線を逸らす。  そっと合わせた手を離すと、大樹がフッと軽く笑った。こちらの心情に気づいているのだろう。 「な、なに笑ってんだよう」 「別に……これ、弁当に持っていくな」  思わず目を疑う。大樹が手に取ったのは、誠が握ったおにぎりだった。 「いいって、自分で食うっての!」 「俺が、こっちのがいいんだよ」 「……へ、ヘンなヤツだなぁ~っ」 「何とでも言え、バカ犬」  照れ隠しの言葉に軽口で返される。かと思えば、今度は感謝の言葉とともに、ふわりと頭を撫でられた。 (本当に大きくて……)  うっとりしてしまう自分が恥ずかしくて顔を伏せる。優しい言葉と手つきに、なんて愛されているのだろうと考えながら。

ともだちにシェアしよう!