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おまけSS ずっと求めていた熱【後編】 ★
「な……なんで」
射精が終わったところで重い体を動かし、雅の方に向き直る。
雅は、こつんと額を重ねてから口を開いた。
「俺、めちゃくちゃ溜まってるし、一度や二度くらいじゃ済まなそうだから。玲央さんにだって負担かけちゃうし、今日はちゃんとゴムつけて――」
「……んなの、いーから」
「え?」
「ちゃんと、お前を感じさせてくれなきゃ……やだっての」
「……玲央さん」
ちゅっ、と音を立てて唇を啄まれる。雅は穏やかな微笑みを浮かべて、
「続きはベッドでしましょうか」
言いながら再び口づけを落とす。玲央は情欲に誘われるように、彼の首に腕を回した。
ベッドに着くなり、二人は全裸で向き合って互いを求めた。時間も気にせず、どこまでも貪欲に、本能のままに――。
「あ、あっ、あぁああッ!」
最奥に雅の熱が叩きつけられると同時に、玲央も激しい声をあげて絶頂を迎える。
すでに己のものは委縮していて射精することはない。強烈な快感に、ただビクビクと体を痙攣させた。
「玲央さん、またイッちゃった? これで何回目?」
荒い息を吐きつつ、雅がいやらしく口角を上げて囁いてくる。
「も、わかんな……っ」
対して、玲央は朦朧としながら答えた。未だに意識を保っているのが不思議なくらいだ。
「ふふ、可愛い。――さっき俺が出したの、もう中から溢れてますね。本当にゴムしなくていいんですか?」
「いいって言ってんじゃん……」
「中に出されるの、好き?」
「す、好き、だから……っ」
だから次も、と目の前の男を抱きしめる。体中汗まみれだったが、何よりも彼のことを感じていたかった。
(……ああ、雅がいる)
恋人のいない部屋は空虚で、一人で寝るベッドはやけに広く感じられた。
それが今こうして――考えるだけで、言葉では形容しがたい感情が湧き上がってくる。
「あー、困ったな……やめ時がわからないや。俺、玲央さんのこと抱き潰しちゃうかも」
苦笑交じりに言って、雅が抱きかかえようとしてくる。どうやら体勢を変える気らしい。
「このまま……前からが、いい」
言うと、雅は気遣うような眼差しで、
「そろそろ腰、辛くないですか?」
雅の言うとおりではある。後ろから突かれる方が楽に決まっているし、現に体中に鈍い痛みを感じている。
けれども、先ほど玄関で抱かれたとき、玲央は少し後悔したのだ。
「お前の顔、見ていたいから」
雅の頬に手を伸ばした。雅はフッと笑う。
「……じゃあ、ちゃんと目を逸らさずに見て。コイツに抱かれてるんだ、って」
「っ、あ……ッ!?」
両足を胸元まで上げられて、屹立が穿たれた。
不意のことに目を閉じれば、雅が慈しむように頬や額に口づけてくる。
「ほら、こっち。見るんでしょ?」
「……っ」
力強い抽送を受けながらも、雅の言葉に瞼を開けた。
雅は歯を噛み締めるように笑顔を浮かべている。すっかり息は荒く、額からは汗が伝う。 欲情しては余裕なく求めてくる――“男”としての顔に胸が疼いた。
ぼうっと見惚れていると、雅が抱え込むようにして繋がりを深めてくる。目を奪われたまま、強引に揺さぶられていく。
「ひぁ……あッ、あっ」
「玲央さん、すごくエッチな顔してる」
「あンっ、ん……あぁっ」
こんなふうに、抱かれる悦びを感じるようになったのはいつからだろう。
以前はそんな自分が屈辱的でしかなかった。だけれど、今となってはそのようなことも、ましてや、もう誰かを抱こうだなんて微塵も思わない――彼“だけに”抱かれていたいとただ思う。
「雅、もっと」
「もっと、なに?」
「もっと……雅がほしいっ」
「ん、いい子」
抜け落ちるギリギリまで屹立を引き抜かれ、快楽への期待に窄まりがヒクヒクと収縮を繰り返す。
そこから、ズンッと勢いづけて最奥まで貫かれれば、玲央の体が弓なりに大きく撓った。
「っあぁああぁ……ッ!」
強すぎる刺激に、目の前をチカチカと星が舞う。
放心しながら目を見開き、また達してしまったことに遅れて気づいた。
「……そんな可愛いイキ顔見せられたら、もう」
雅は耐えるような表情を浮かべつつ口を開く。そして次の瞬間には、がむしゃらに体内を掻き回してきた。
「み、や……っ、ああぁッ!」
「ごめん、玲央さん。もう止まらない……っ」
「うあっ、あ……あッ、ン、ああッ!」
玲央は小刻みに体を跳ねさせる。
達したばかりだというのに容赦のない荒々しさで、繰り返し体内に放たれた雅の精液が、グチュグチュと卑猥な音を奏でていく。
「好き、大好きです――玲央さん」
「ん、んん……っ」
激しい突き上げはそのままに、ひっきりなしに喘ぎ声を発していた唇を塞がれた。
(俺も……雅が好きだ)
同じ気持ちだと返したくて、積極的に舌を絡ませる。瞳を閉じることなく見つめ合ったまま、口端から唾液が零れ落ちても想いを確かめ合った。
「んっ、ん、んんんーっ……!」
やがて玲央が限界を迎えたのを追うように、雅の昂ぶりも大きく波打って精を放つ。
ゆっくりと唇が離れ、玲央は体の内に広がる熱を感じながら脱力した。何も考えられない真っ白な頭で、少しずつ息を整える。
そんな玲央を労わるように、雅が頭を撫でてきた。
「さすがにちょっと休憩……シャワー浴びませんか?」
「……どうせ風呂場でもするつもりだろ」
「あ、バレちゃいました?」
「この絶倫野郎……」
「今日の玲央さん、素直で本当に可愛いから。頑張りたくもなっちゃいますよ」
「バーカ、こんなの今日だけだ」
「えー? 俺はいつもでもいいんだけどな」
「……ヤダ」
気恥ずかしさにそっぽを向くと、いつものように雅がクスクスと笑う。それから、ふっと真面目な顔つきになり、
「でも、思ったより寂しがらせちゃったみたいでごめんなさい。これからは毎週末、帰ってこられますし――会えない分、うんと可愛がってあげますから」
「テメェの頭はスケベなことだけかよ」
「もちろんデートだってしますよ。だけど、今は……」
「ん……」
ねっとりとキスされて、甘い快感に痺れる。
体の熱は一向に治まらず、繋がったままの雅も再び力を見せて萎える気配がない。
今日のところは、本気で抱き潰されるのを覚悟した方がいいだろう。愛しさに似た陶酔を覚えながら、玲央もまた雅を求めるのだった。
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