136 / 142

おまけSS 海と青空のもとで… ★

「海だああああーーッ!」  眩しい真夏の太陽の下。広大に広がる海を目の前に、誠は声をあげた。 「はしゃぐなよ、ガキじゃないんだから」  背後から、呆れたような大樹の声がして振り向く。  レンタカーを一時間ほど走らせ、二人は海水浴デートに来ていた。  すでに水着に着替えており準備は万全だ――これが、はしゃがないでいられようか。 「荷物、コインロッカーに入れて来たんだろ?」  そわそわと誠が訊くと、大樹は「ああ」と頷く。 「もちろん、小銭は防水カプセルに入れてあるから必要になったら……」 「じゃあ泳ごうぜ!」 「早速だな」 「えー? 海に来て、泳がないでどうすんだよ!」  言いつつ、さっと準備運動を終えて、ドキドキしながら波打ち際まで駆け寄る。寄せては返す波に足を入れると、ひんやりとした心地の良い冷たさが伝わってきた。 「うおおっ! 冷たくて気持ちいい~!」 「泳ぐのはいいけど、あんまり沖の方まで行くなよ?」 「あっ、大樹大樹! あの岩まで競争しよ!」 「人の話を聞け、バカ犬」 「はい、よーいドーン!」  大樹の言葉には一切耳を傾けず、海の上に露出している岩を目指して泳ぎだす。  運動神経には自信のある誠だったが、あとになって少し後悔することになるのだった。 「思ったより距離あったあ……」  目的地に到着し、息を吐きつつ上陸する。浜辺から見たときはそうでもなかったものの、見た目以上に遠く離れており、意図せず本格的に泳ぐ羽目になってしまった。 「おいバカ。潮の流れに捕まって流されでもしたら、シャレにならないだろうが」  硬い岩肌の上に腰を落ち着けていると、あとからやってきた大樹に頭を叩かれる。 「イテッ! ここまで遠いとは思わなかったんだよ!」 「ったく……遊びで来たのに、水泳の授業でも受けた気分だ」 「ちぇっ、大樹はうっせーなあ」 「……俺たち、恋人だろ? あまりに色気がなさすぎるんじゃないか?」  大樹が隣に座りながら口にした。突然の甘ったるい言葉に、誠の頬がじんわりと赤く染まっていく。 「じゃ、じゃあなに? 砂浜で追いかけっこでもしろとか言うのかよ?」  照れ隠しに言ったら、大樹は頬を緩ませた。 「別にそんなことは言ってないだろうが。でもまあ、これはこれでいいかもな。思わぬところで二人きりになれたし」 「わっ……お、おい大樹っ!」  不意に肩を抱かれ、胸がドキリと音を立てる。触れ合った肌から、大樹の温かな熱が伝わってきて、ますます鼓動が速くなるのを感じた。 「う~……な、なんかヘン」 「ヘンって?」 「だって、外でくっつくコトとかねーし。ましてやこんな格好で……とか」 「お前な」 「え?」  深いため息が聞こえたかと思えば、ぐっと体を引き寄せられた。  大樹の手がするりと移動して薄い胸板をなぞってくる。いやらしさを感じる手つきに、思わず誠は身をよじった。 「ちょ、どこ触ってんだよっ」 「お前が煽ったのが悪い」 「俺がいつ煽った!?」 「別にいいだろ。この角度じゃ、海岸からも見えやしない」  大樹はすっかりその気になっているらしく、瞳には意地悪な色が滲んでいた。  今度は股間に手が伸びてきて、水着の上から絶妙な力加減で擦られれば、否応なく体の芯が疼いてしまう。 「あっ、ん……こ、こーゆーの、なんて言うか知ってる?」 「なに?」 「あ、《あおかん》つって、いけないこと……」 「そうだな。よく知ってたな」 「ばっ、バカにしてっ……ん、やぁっ」  与えられる刺激に反応を見せ始めた屹立を、やんわりと揉みしだかれる。水着の布地が擦れて多少の痛みを感じるも、それすらも快感に思えてならなかった。  何よりも、青空の下でふしだらな行為をしているという羞恥が、誠のことを追い立てていく。 「ここ、外なのに……っ」 「嫌?」  いつだって大樹は確かめてくるし、こちらが本当に嫌がれば、それ以上のことはしてこないのだろう。けれど――、 「俺が本気で嫌だって言ったこと、今まであったかよっ」  お返しだとばかりに、大樹のものを同じように握ってやると、彼が小さく息を呑む気配がした。 「大樹のスケベ」 「……うるさい」  大樹はムッとして手の動きを速める。感じやすい括れの部分を集中的に責められ、誠の腰が小さく震えてきた。 「あっ、や、あ……っ、そこ、だめだって……ッ」  頭を振るも、なおも大樹の責め立ては止まることがない。今いる場所も忘れて喘いでは、すがるように相手にもたれかかった。 「ん、んっ、でちゃうっ……でちゃう、からぁっ」 「いいよ、出しちまえよ」 「や、あっあ、ん……んっ、あぁッ」  あっという間に終わりを迎えて、水着の中でじんわりと熱が広がる。  誠は荒い息を吐きながら、頬を膨らませて大樹の顔を見上げた。 「どーすんだよう。海パン汚しちゃったじゃん」 「あとで洗ってやるし、見た目的にはわからないだろ」 「……つーか、お前のは」  気まずく問いかけたら、大樹は涼しい顔で、 「治まるのを待つからいい」 「え、えっと、少しくらいなら……もっと、してもいーけど?」 「ここ、外なんだが」 「お前が言う!?」  こちらの反応に大樹がクスクスと笑う。 「いいよ、俺は。雑菌でも入ったら大変だし。その代わりに……帰ったら」 「……う、うん」  顔を間近で覗き込まれて、再び心臓が早鐘を打ち始める。  そっと瞳を閉じれば、軽く唇を重ねられた。恋人らしいムードにうっとりしかけたが、海水の塩辛い味がして二人とも苦笑したのだった。

ともだちにシェアしよう!